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An  作者: 式部雪花々
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第一章 -1-

「倖弥ぁ〜っ」


三時限目が終わった休憩時間。


少し甘えた声を出しながら赤城倖弥(あかぎゆきや)の所に


隣のクラスの小林葉月(こばやしはづき)がやってきた。




「なんだよ?」




「倖弥のトコ、さっき数学だったよね?」




「あぁ、そーだけど? もしかして、またノート写させろ?」




「あたり〜♪」




「お前また一時限目の数学寝てたのかよ?」




「だって、どーしても一時限目は眠いんだもん」




「だから剣道部の朝練、別にマネージャーのお前まで出ることはないって


 いつも言ってるだろ?」


倖弥は剣道部に入っている。


そして、葉月はその剣道部のマネージャーをしていて、


朝の練習はマネージャーは出なくていい事になっているのだが、


葉月は毎朝、倖弥と一緒に出ていた。




「だってー……」




「ま、いいけど。ほら、ノート」


倖弥は数学のノートを机から出すと、葉月にポンと手渡した。




「ありがと♪」


葉月は倖弥からノートを受け取るとにっこりと笑った。




「つーか、お前同じクラスの奴にノート借りればいいのに」




「だって、倖弥のノートの方がわかりやすいんだもん。


 ……字汚いけど」




「む。そんな事言うならもう貸さないぞ?」




「あー、ウソ、ウソっ。じゃ、借りてくねー」


葉月は倖弥からノートを取り上げられそうになったのを


ひらりとかわすと、そのままそそくさと踵を返した。






「ユ・キ・ちゃ〜ん♪」


葉月が教室を出て行った後、クラスメイトの原田がやってきた。




「“ユキちゃん”言うな」


「まぁ、細かいことは気にするな」


「……」


「なぁ、ユキっち」


「“ユキっち”もやめれ」


「んじゃ、ユキたん」


「……」


「お、“ユキたん”はいいのか?」


「ちがうっ、もう突っ込む気にもならんだけだ。んで? なんだよ?」


「今度、俺に小林さん紹介してよ?」


「はぁ〜っ?」


「だってお前、小林さんと幼馴染みなんだろ?」


「んー、まぁ、そーだけど?」


倖弥と葉月は家が隣同士。


同い年ということもあって、幼稚園からずっと一緒に登校したり


遊んだりしている。




「あんな可愛い子をお前だけ独り占めなんてズルい」


「別に独り占めなんかしてねぇし」


「けど、いっつも一緒にいるじゃん」


「いつもってワケじゃねぇけど?」


「だって、登下校も一緒で部活も一緒だろ?」


「……ん、まぁ……」


「休みの日もずっと一緒に遊んでたりするんだろ?」


「お互い遊び相手がいない時はな」


「やっぱ、いつも一緒なんじゃん」


「……」


確かに考えてみればそうなのかもしれない。




「そーんなの当たり前だろ〜?」


すると、どこからともなく同じくクラスメイトで倖弥と同じ剣道部の


中川が話に入ってきた。




「小林さんは倖弥の婚約者だぞ」


「えーーっ!?」


原田は酷く驚き、素っ頓狂な声をあげた。




「お前……なんでその事知ってんだよ?」


倖弥は余計な事をいいやがって……と言わんばかりの顔をした。




「この間、小林さんから聞いた」


「葉月のヤツ……」


「倖弥、お前……どういう事だよっ?」


原田は恨めしそうな顔で倖弥を睨んだ。




「どういう事って……婚約者って言っても親同士が勝手に決めた事だぞ?」


倖弥と葉月は許婚同士。


それはお互いの親が決めた事で当の本人達は何処吹く風……


といった感じだった。




「親公認かよっ!?」




「俺は認めてねぇけど」


倖弥はそう言い放つとプイッと顔を背け、頬杖をついた。




「けど、小林さんは認めてるっぽいけど?」


中川はにやにやしながら倖弥の顔を覗き込んだ。




「そんなの口実じゃねぇの?」




「口実?」




「アイツはなんだかんだでモテるみたいだから、


 “婚約者がいる”って言ったほうが都合が良いこともあるんだろ」




「んじゃ、倖弥は小林さんが他の男と付き合っても平気なのか?」




「いいんじゃねぇの? 葉月がそいつの事好きなら」




「おっしゃ! んじゃ、俺にもまだチャンスはあるワケだっ」


原田はガッツポーズをして喜んだ。


しかし、チャンスはあるかもしれないが、葉月が原田を相手にするかどうかは別だ。










――放課後。


いつものように倖弥のところに葉月がやって来た。


「倖弥〜、部活いこー」




「おぅ」






二人で教室を出て、部室に向かう途中、倖弥は昼間の原田達との会話を思い出した。


「そういや、葉月」




「うん?」




「お前、中川に俺達が婚約してるとかかんとか言ったろ?」




「うん、言ったよ?」




「あんまりそーゆーコト言うなよなー」




「どーして? だって事実じゃない」




「あれは、俺ンとこのお袋とお前ンとこのお袋さんが


 勝手に言って、勝手に盛り上がって、勝手に決めた事だろ」




「うちのお父さんも賛成してるけど?」




「……そーゆーコト言ってんじゃねぇよ」




「じゃ、何?」




「俺はそんなの認めてない。つーか、お前だって


 別に本気にしてるワケじゃないだろ?」




「えー、私は全然構わないのにー」




「あのなー……」




「倖弥はイヤなの?」




「嫌って言うか……つまりだ、俺はまだ高二なんだぞ?


 そんな若いうちから結婚とか考えられないし、勝手に決められた結婚は


 嫌だって事!」




「……」




「まぁ……お前はモテるから、どーしてもしつこく付き纏う奴がいて困るなら


 俺が彼氏のフリをして追い払ってやる事もできるけど、必要以上に


 “婚約者”がいるとか言わないほうがいいぞ」




「……うん……わかった……」


倖弥は葉月が少しだけ元気がなさそうに返事をしたのが気になったが、


その方がお互いの為……と思い、特にそれ以上声を掛ける事はしなかった。

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