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其の十 ――公共交通 side ピュアリア

 ガタンゴトン、ガタンゴトンと、心地よいリズムの音と振動が体に届く。車内は、煌々と照らされ窓の外の壁を照らし出す。壁と列車の間は闇。時々灯りが横切る。

「外の風景が変わらないのが地下鉄の欠点ね。」

 そんなことを、体をひねって窓を見る針金の様な茶髪を一つに纏めた女性が呟いた。服は、前開き襟付きの生成りのシャツに、若草色ののチノパン。同色の丈の短い上着を着ている

「その分、駅に色々趣向を凝らしてるのよ。」

 その隣に座る、ストレートの茶髪を三つ編みにした女性が返す。彼女は、スタンドカラーで、膝下十センチのワインレッドのワンピースを着ていた。

「ま、ね。おかげで、意外と退屈しないわ。」

「ついでに、慣れると何の駅か、駅名聞き損ねても判るって言う利点もあるのよ。」

 ほほ~、と髪を纏めた女性が感心する。そして、二人の間にしばらく無言の時間が流れる。

 車内に、アナウンスが流れる。駅が近いので、降車する人へ注意を促していた。

そうして到着した駅は、エメラルドグリーンを基調に天井に向けて水色へのグラデーション。不規則な白い帯のような波打つ筋がはいり、穏やかな大型海洋生物が所々に描かれている。

「ねえ! あの大きな青くて背中に細かい白斑があって、横に平べったい魚はなに?!」

「ジンベイザメね。」

「じゃあ、あの縦に平べったい、尾鰭がないのは?」

「マンボウよ。でも、あれは尾鰭が無いのではなくて、とても短いだけだから。」

「へぇ~~……。」

 ホームの壁に描かれた絵に、髪を束ねた女性が子供のようにはしゃぐ。

「ねえ! 海に行けばみれるかしら?」

「……無理ね。生息地から離れてるし……。飼育されているのを見るにしても、今日は水族館が休みだし。」

「そっか……残念ね。」

 二人して溜め息ををつき、視線を車内に戻します。列車はすでに地下駅を離れ、また心地よい振動を刻みだしている。正面の窓を見つめながら、髪を束ねた女性が、三つ編みの女性に気になったのだけれどと、話しかけた。

「どうして、地下道全部を明るくしないの? ここ(ピユアリア)ならできるわよね?」

 それを聞かれて、三つ編みの女性は少し考え込む。

「できるけれど、エネルギーがもったいないから、だったかしら。電車の中が明るければ十分だし、何かあって避難するにも、所々に設置してある明かりで十分ことが足りるからね。」

 本当は、全部を明るくしてしまうと、地下と言う情緒が無くなるという、都市のトップのよく分からないこだわりも理由だったりもする。

 ただ、それによって、この都市ならではの地下鉄の風景が栄える場所が生まれていた。

 ガタンゴトンと、車体につたわっていた線路の振動が突然なくなり、タイヤで滑るような音に変わる。それに併せて、車両の窓から天井部分が透明になっていった。

「ねえ! なに、何かあるの?」

 突然の車両の変化に、さきの駅での興奮が冷めてしまった髪を束ねた女性が落ち着きなく周りを見回す様子に、大丈夫よと三つ編みの女性が肩を軽く叩く。

 車両の上半分が透明になると、その進行方向が次第に明るくなっていくのが見えてきた。二人の居る車両が光に包まれたとき、髪を纏めた女性が驚嘆の叫びを上げた。

 大地に囲まれた地下から、強化された透明な筒の中へと車両は進んでいく。その外は、日の光が差し込む海中。その筒は、ほぼまっすぐに海の向こうに見える岬に向かっているのが遠目で分かる。

「地下鉄のこの路線は、港に向かう路線の一つで別名、海遊線。途中で、海中に出て走るのよ。」

 三つ編みの彼女の言葉を、針金のような髪の女性は窓の外に釘付けになって聞いていなかった。空中都市に大きな湖はあり、水の魔法を使えばこれと同じような風景を見ることはできる。実際に髪を束ねた女性もその光景を見たことあった。

 しかし、彼女にとってそれよりもすっと素晴らしい風景だった。

 泉に比べれば明度は少し低かったが、上から降ってくる光は、泉の中の光よりも淡いながらも周りを美しく照らしている。岩礁には、色とりどりの海藻、その隙間を大きな魚が泳ぎ、小魚の群れが影を落としている。

 湖の水中と違い、まるで、森のようなその風景に夢中になっていた。

 そして、港近くの駅に着くまで続くその海中線路の外を眺め続けていた。


「ねぇ、帰りも同じ線で帰るのよね?!」

「う、うん。」

 帰りは、バスを利用するつもりだった三つ編みの女性は、針金のような髪の女性の期待に満ちた瞳の輝きに、頷くしかなかった。


駅については大阪地下鉄の谷町線とか、御堂筋線とか、御堂筋の動物園前駅がモデル。

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