其の七 ――天空都市の端っこでの話
空中都市。
その名の通り、大地の礎を空に浮かべ発展した小島のような都市。
その島の縁に、大学生ぐらいの年齢の青年と女性、四人が達がピクニックに来ていた。
二人は、ピュアリアの学生。肩に掛かるほどの長さを一つにまとめた漆黒の髪の青年と、ソバージュのかかった赤毛の女性。学徒の服ではなくピクニックに向いた軽装をしている。
残りの二人は、ルーンフェリアの学徒。膝近くまであるストレートの薄い空色の髪を三つ編みにした女性と深い藍色のような色をした尻が隠れるほどの長さの髪をしたウェーブのかかった髪の青年。彼等も、タートルネックにベストとズボンという軽装をしている。
黒髪と赤毛の二人は、おそるおそるながら、天空都市の縁から下をのぞき込んでいた。
眼下に広がるのは、薄雲とその隙間から見える地上の緑。時折鳥の陰が横切っていく。
「はー、本当に雲の上なんだな。」
「すっごい。ねえ、あの小さく動いているのって牛かしら?」
そんな二人の後ろから、藍色の髪の青年が声をかけます。
「あんまり近づきするなよ。縁って意外ともろいから。」
その声に、ピュアリアの二人はツツツツツッと、後退して後ろにいるルーンフェリアの二人の元に戻る。その様子を水髪の女性がクスクスと笑いながら眺めていた。
「さ、そろそろお昼だし、先にお弁当食べましょう。」
シートを広げ、それぞれが持ち寄った総菜とご飯を並べます。その間に、水髪の女性は髪をバレッタで頭の後ろで纏めまていた。
「火が使える奴が居れば、温められるんだけどな。」
藍髪の青年がそう言いながら、紅茶を用意します。常温で飲みやすく、そのくせちゃんと紅茶の茶葉から味がしみ出している。そうして出された紅茶を、それぞれ受け取り喉を潤します。
ベーコンとほうれん草を閉じたオムレツや、菜の花のおひたし、肉団子の甘酢あんかけに、唐揚げ、一口サイズのハンバーグ、サラダにおにぎりにふかふかのパン等々が並べられ、思い思いに食べ始める。
用意したお弁当もほぼ食べ終わり少し休憩をしてから、ピュアリアから持ってきたバトミントンで遊び始める。時折、打ち方を失敗した羽根が、頭の上を越えていったり、地面にたたきつけられたりしていた。
「あっ、しまった。」
藍髪の青年が打ち返しに失敗し大暴投。羽根が島の外へと飛んでいってしまった。
「あらららら……。」
そう言うと、水髪の女性がなれたように魔法で落ちていった羽子を拾い上げる。そして、それをラケットで軽く皆の方へ打ち上げます。それは、風の魔法で操作され、すんなりと藍髪の手元に届きます。
「はい、続けましょ。」
「ありがと。……あれ、どうしたの。」
「いや、本当に呼吸するみたいに魔法を使うんだなって思って。」
自分が驚いた反応を見せてしまったことに、ピュアリアの二人は恥じ入ります。実は、いろいろ魔法を見せてもらいたいなどと、考えていたからです。
「この程度なら、彼もできるわよ。」
「物を宙に浮かせて自在に動かすのは、風が一番得意じゃないか。俺は浮かせるまでが限界だっての。」
「水の魔法だから、噴水のように持ち上げる? でも、あまり重いモノは持ち上げられない?」
「そそ。動かせないわけじゃないけど、あそこまで自在にはできないんだ。司レベルなら、空中に川を作って流す要領で運んでいるけれど。でも、さすがルーンフェリアの人だな。理の流れで理解する。」
そうして、軽口をたたき合いながらバトミントンを再開した。そして、二回目の大暴投。
今度は、黒髪の青年が大きく飛ばしてしまい、運悪く突風に乗って島の外へと飛んで行ってしまった。慌ててバトミントンの羽子を追いかけていくが、間に合わなかった。その上、勢いをつけすぎたために縁から飛び出してしまいそうになる。慌てて風の魔法と水の魔法で、引き留められる。腹部周りにサッカーボールサイズの氷の玉ができ、それを風が勢いよく縁側から黒髪の青年を押したのだ。
「ぐっふぅ……」
思わぬ衝撃に、青年かうめき声が漏れる。氷のボールは、シャボン玉のように中が空洞だったため、彼を押し戻すと同時に砕けた。落下を免れた友人の姿に赤毛の女性は胸をなで下ろす。
「柵、作ってくれれば良いのに。」
そんなつぶやきに、ルーンフェリアの二人から「なんで?」と返ってきた。
「今みたいに人が落ちたら大変じゃない。」
ピュアリアの女性の疑問に、ルーンフェリアの二人は顔を見合わせる。
「……もしかして、ここから落ちた人って居ないの?」
「居るよ。毎年誰かが落ちてる。」
「待って、じゃあどうして転落事故を防ぐための柵とか作らないの?」
「ちょっとずつ広がっているからねー、この島。だから作っても無駄になっちゃうんだ。」
「でも、毎年、誰かが死んでいるんでしょ?」
その言葉に、ルーンフェリアの二人は目を丸くする。
「……え? いや、ここから落ちて死んだ人は居ないよ。」
「「は?」」
今度はピュアリアの二人の声が重なった。
「死者ゼロってどういうこと?」
「だって、ここから下の大地に降りるには、動物使いの案内が必須だもん。」
不思議そうにルーンフェリアの二人が首をかしげる。目の前の二人が、何を言っているのかわからないようだ。
「え、でも、落ちるんでしょ?」
「うん、落ちるね」
「落ちたら、地面まで落下し続けるじゃないか!」
ピュアリアの青年のその一言で、ルーンフェリアの二人は得心する。
「落ちるけど、下まで落ちないのよ。人に限らず物もね。」
「途中で止まるらしいよ。で、何かに反発するみたいに跳ね返るんだって。」
それを聞いて黒髪と赤毛二人の頭に浮かんだのは、
「ヒモ無しバンジーかよ!」
「ヒモ無しバンジーですか!」
その剣幕に、残りの二人がびっくりした。紺の髪の青年がしどろもどろに、言葉を返す。
「……バンジーって何かしらないけど、落下を楽しむ遊びなら、たまに、飛べない面々が、飛べる面子に手伝ってもらって、『俺は風になるごっこ』してるけど。」
「……もっとひどかった。」
「I Can Fly ごっこかよ……。」
膝が砕けたように四つん這いになってへこむピュアリアの二人に、ルーンフェリアの二人はうろたえる。うろたえておかしな提案をしてしまう。
「え、ええっと……試す? あたし、飛べるから引き上げられるし、そもそも許可なんて特にいらないし。」
その言葉に、ピュアリアの二人は顔をすごい勢いで上げる。その四つの瞳は、期待に輝きながらルーンフェリアの女性を見上げていた。
ルーンフェリアの二人が語った内容は、超安全フリーフォール。
絶叫系に目のない人なら、おそらく垂涎のもの。そして、ピュアリアの若者二人は、その反応が示すように、絶叫系に目がない種類の人間だったのだ。
そうして、少しのあいだ、自由落下を楽しむ叫び声があたりに響いていたらしい。
イメージは、フェナリナーサ。
覆っている膜は、伸縮性に富んだバリアーで超安全仕様。
都市の上部からも、動物使いの案内がない限り入ることはできません。動物に物を持たせて、都市に落とすことも不可能です。なので、定期的に都市の下に落ちた物がないか、点検があります。
絶叫系については、描いている本人は、絶叫系は好きじゃないです。
……ライドは、楽しめますが。ハリポタとか、進撃とかFFのライドは楽しかった。