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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第八話 予告状(1/4)

『風が暖かくなってきました。くしゃみを誘う檜の香りにどこか懐かしさを覚えます。

 ポーク・カリー様におかれましては日々健やかにお過ごしのようで、真に喜ばしく思っております。

 あなたにお願いがあります。

 どうか私に、虹のかけらを譲っていただけませんでしょうか。

 決して悪用はしないと約束いたします。

 満月の夜、私はあなたの前に現れます。街の衛兵には知らせない方が良いでしょう。その宝石をどうやって入手したのか、私は詮索いたしません。

 夜はまだまだ冷え込みます。風邪などひかぬよう気をつけてお過ごしください。

 怪盗ブレイブレイド』


 ポークは手元の便箋に何回も目を通した。

 差出人は虹のかけらの存在を知り、衛兵に相談したら取り調べが待っているぞと暗に脅かしている。

 ポークがどういう経緯で虹のかけらを手に入れたかまで把握しているのかもしれない。

 文面だけでわかる。

 彼は紳士を装う恐ろしい犯罪者だ。


「なぁ、怪盗ブレイブレイドって、たしか……」

「ああ、最近話題の盗人だ。わざわざ犯行を予告して、用意された警備を突破する愉快犯さ」

「この手紙はどこに?」

「部屋に戻ったら机の上にあった。窓から入ってきたんだろうね」

「もう貴重品置いとけねぇな」

「貴重品……」


 ロビンはベッドの下に手を伸ばし、埃除けの大きな布袋を引きずり出した。

 中からレイピアと弓を取り出し、点検を始める。


「うん。お金もある。部屋を荒らされた形跡はないね。このレイピアは魔素伝導率の高い銀製で、そこそこいい値段がするんだけど、手つかずだ。アトラチウムの剣を盗む大泥棒にとっては安物かもしれないけどさ。ポークも武器は見ておいた方がいいよ」

「どうして」

「決まっているじゃないか。戦いが近いからだよ」

「戦いって、まさか」

「わざわざ盗みに来るんだよ。返り討ちにするしかない。もちろんぼくも参加する」


 ロビンは弓を構えると、弦を引いて射るふりをした。

 ポークはまだ頭がついていかない。


「ちょっと待てよ。ブレイブレイドって強いんだろ。下手に抵抗したら命まで盗られちゃうんじゃねぇか」


 ロビンは弓をベッドの上に置くと、矢筒から矢を選別し、羽根のほつれをカットしだした。

 訓練前よりいきいきしている。


「怪盗ブレイブレイドについて知っていることを話そう。彼は五年ほど前にマダガスト教皇国で盗みを始めた。それからフォーズへ活動の場を移し、昨年、ドリアンに入国した。常に仮面を被っているため、素顔を見た者はいない。フォーズ代表騎士団の厳重な警備すら掻い潜って数々の宝を奪ってきたんだ。盗みの腕は超一流で、剣でやり合った騎士団員もいるが、まったく歯が立たなかったそうた。彼は泥棒だが、民衆から好かれている。ブレイブレイドの名前で世界中の孤児院や救護施設にこっそり寄付をしているからだ。民衆からみれば彼のやっていることは盗みでなく富の再分配なんだ。それに彼はどんなに困難な盗みでも誰一人として殺していない」

「なんだそいつ、ちょっとかっこいいじゃんか」

「いけないよポーク。ブレイブレイドは悪人だ。法を軽んじるどころか、盗んだお金をばら撒くことで悪事を正当化している。だいたい、義賊のように振る舞うブレイブレイドが、なぜ罪もない君の宝石を狙っているかわかるかい」

「ごめん、さっぱりだ」

「君は盗まれても公表できないからだ。ブレイブレイドの手紙にあっただろう。私は詮索いたしません、と。虹のかけらは真っ当なルートで入手できない宝石だと彼は知っているんだ。実際、ポークも国に知られたら困るしね。結局、ブレイブレイドが欲しているのは富と名声だ。民衆の支持に影響がないなら弱者からだって毟り取るんだよ。偽善の極みだ」


 ロビンは矢のメンテナンスを進めている。

 訓練用のものではないため寮に来てから一度も使っていないはずだ。

 ポークも木槌を持っているが、長い間触っていない。

 ベッドの下から取り出した木槌は埃まみれで、自分がいかに実戦から離れていたのかを思い知った。


「次の満月っていつ?」

「明日だ」

「マジかよ」

「だから急いで準備しているんだ。洗濯当番は代わってもらったから、この問題に集中しよう。それと、明日の授業は休むよ。発熱の薬を調合しておいた。飲めば一時的に風邪の症状が出るんだ。一日かけて対ブレイブレイドのシミュレーションをしよう。それから」

「ちょっと待った、ちょっと待った」


 ポークは木槌を床に置くと、両手を前に出してロビンを落ち着かせた。

 どうもさっきからロビンは多弁になっている。

 有名な怪盗を相手に実戦の機会が訪れたのだ、実はこの状況にわくわくしているのかもしれない。


「なぁロビン、もしかしてオレたちだけで迎え討つつもりなのか」

「えっ、違うのかい?」

「違うよ。いくらなんでも二人で犯罪者の相手は怖すぎるだろ」

「でもブレイブレイドだよ。噂が本当なら負けても殺されはしないだろうし、安全に実戦経験を積むチャンスだ。懸賞金もいい額だしね」

「本音がぽろりしてるぞ。でもさ、不殺で盗むって相当強くないとできないって。虹のかけらは盗まれたくない」

「ぼくはポークの決定に従うよ。狙われているのはポークだからね。でもわかっていると思うけど、虹のかけらの情報はよほど信頼できる人以外には知らせないほうがいい。つまり、国や冒険者協会には協力を要請できない」

「わかってる。でも、そもそもどこから虹のかけらの情報が漏れたんだろう」

「想像はつくよ」


 ロビンは調整を終えた矢を筒に戻した。

 武器一式を床に並べて置くと、立ち上がった。


「ちょっと話を聞きに行こうか」

「誰に……ああ、そうか、あいつらか」


 ロビンが部屋を出たので、ポークは後ろについていった。

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