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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第七話 アトラの歴史・ドリアニア(4/5)

 楽しい考古学の授業が終わり教室であくびをしていると、ココロに手刀で突かれた。

 脇腹の痛いところである。

 ポークは「アヒィ」と手で押さえた。


「ねぇ、ちょっといい?」

「いいけど、痛ぇよ」

「大事な話があるの」

「今日じゃないと駄目か」

「うん」


 珍しく深刻そうな顔をしているため、ポークはロビンに目配せした。

 ロビンは意図を汲んでくれたようで「じゃ、ぼくは先に帰るから」と教室を出ていった。


「どこで話そう」

「街を歩きましょ。ほら、さっさと行くよ」


 ココロがすたすたと行ってしまうので、ポークは追って校舎を出ていった。

 学校の敷地を出てしばらく歩くと、喧騒とした大通りに行き着いた。

 道路脇のたんぽぽが綿毛を散らしている。

 綿毛はふわふわと風に漂いココロの肩にくっついた。

 ポークがそれを指摘するとココロは丁寧に指で摘み、街路樹の近くの土に乗せた。


「で、なんの話だよ」

「あー、うん。なんだっけ」

「おい」

「そうそう。授業で断離の長城の話してたじゃない。それでちょっと気になったの。虹のかけらは今もまだ反応してる?」

「もちろん。父ちゃんは元気だよ。きっといつかドラゴンを従えて戻ってくるはずさ」

「あら、あんた待つ気なの」

「まさか。オレはオレで断離の長城に挑むつもりだ。父ちゃんに会いたいのはもちろんだけど、それとは別に東アトラをこの目で見たい。まずは冒険者として実績を上げないと挑戦すらできないけどな」

「実績って、どうやって積み上げるつもり?」

「その辺りはロビンと話し合った。魔学舎を卒業したら、どこか需要のある地域で魔物討伐の仕事をするんだ。それから古代遺跡の探検隊のメンバー募集に応募する。魔物の討伐実績がある冒険者は護衛として探検隊のメンバーに入りやすいんだって。そうやっていくつか古代遺跡を攻略したら、断離の長城に挑戦する許可が得られるはずだ。ロビンが一緒に行けないのは残念だけどな」

「えっ、ロビン、行かないの?」

「断離の長城を越えてしまったらいつ戻ってこられるかわからない。ロビンはタルタンに行かなきゃだから」

「そうなんだ。でもきっと遺跡を探検してたら仲間ができる。アニー先生が言ってたじゃない、冒険者にはドラゴン好きが多いって。断離の長城に挑戦するって人も見つかるはずだから、安心しなさい」

「姉ちゃんは東アトラまでついてきてくれるか?」

「あら! あら! あらら!」


 ココロは口に両手を当て、真後ろに三歩下がった。

 近くを通るおじさんがココロにぶつかりそうになり、不機嫌そうな顔をして避けていった。

 リアクションが大げさすぎて通行人の迷惑になっている。


「自然に誘ってきたじゃない。あんたそれ、プロポーズみたいなもんよ」

「絶対違うだろ」

「だって断離の長城よ。攻略に何年かかるかわからないし、戻ってこられるかもわからない。向こうで暮らすことになるかもしれない。そんなところに誘うなんてあんた、やるじゃない」

「やるじゃないってなんだよ」

「いいよ。一緒に行ってあげる」

「マジでか」

「うん。東アトラにしかない宝石もあるかもしれないし。だけど無謀な旅は嫌だからね。ちゃんと断離の長城を攻略できるだけの実力をつけて、他にも仲間を探して、それからよ。あたしを苦労させたら許さないから」


 朝の不機嫌はどこへやら。

 ココロは歌い出しそうなくらい軽い足取りで大通りを歩いていった。

 ポークは早足でココロを追う。

 隣に追いついたのに、ココロは反対側に顔を向けてこちらを見ようとしない。


 少し歩くと花屋が見えてきた。

 冬に来たときと違い、たくさんの花が店先に咲いている。

 色という色が集会をしているようだ。

 辺りに漂う香りには蜂でなくともつられてしまう。

 ポークは店の前で足を止めた。


「そういえば、ここで買ったアロエはどうなったんだ」

「あんたも花が咲いたの見たでしょ」

「ああ、火花みたいな花だったな」


 冬に開花した姿を見てからポークは裏庭に行かなくなった。

 ブブカは裏庭の草木の世話を今も手伝っているみたいだが、ココロはもう寄りつきもしないとアニーが最近ぼやいていた。


「で、あの後、アロエは食べたのか。それとも野菜の魔術の練習に使ったのか」

「うーん、いざ食べようと思って掘り起こしてたら、アニー先生に叱られたの」

「世話してるもの勝手に食われちゃたまんねぇよな。アロエもほっとしてるかもしれねぇな」

「アニー先生、アロエを気に入ったみたいで、デリシアス邸の庭にも植えようかなって話してた。でもさ、せっかくあたしが買ったのに、食べちゃ駄目ってひどくない? ま、タダみたいな値段だったけど。ここの店主、あんまり頭がよろしくないから簡単に値切れるの」

「そういうことをまさにその店主の前で言うな」


 花屋の店主が引きつり笑いを起こしている。

 ポークは店主に謝って、逃げるように店から去った。

 ココロは反省する様子もなく楽しそうにはしゃいでいる。


「で、結局、大事な話ってなんだったんだ。今日じゃなきゃ駄目な話なんてしてないだろ」

「ああ、それ嘘だから。そう言っておけばすんなり連れ出せるかなって」


 さらっと言うココロ。謝りもしない。


「マジかよ。今日洗濯当番だったんだぞ。正直に告白するのはいいけどそもそも嘘つくなよ」

「たまにはいいじゃない。二人で過ごすなんて久しぶりでしょ」

「それはかまわないけど、どうして今日なんだ」

「あんたをロビンから引き剥がしてくれって、ブブカに頼まれたの」

「なんでまた」

「ロビンをデートに誘うんだって」

「えええ!」


 ポークは驚いた。

 ロビンを想うブブカの気持ちにはなんとなく気づいていたが、デートに誘うほどの積極性があるとは知らなかった。

 しかし、だとしたらあの化粧は失敗ではなかろうか。

 あれだけ分厚く化粧されると表情が読み取れない。

 ロビンも困るはずだ。


「それって本当にブブカが自分で言い出したの?」

「あたしがけしかけるわけないでしょ」

「姉ちゃんならあり得るかなって」

「失礼ね。デートしたいって言ったのはブブカ。あたしはお化粧を手伝っただけ」

「あー」

「あーって何よ」


 ブブカの厚化粧はココロが原因だった。

 優しいブブカは善意の押しつけを断れないのだろう。

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