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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第五話 かくれんぼ・前編(5/5)

「ふーむ。どうしたもんか」


 バッチは処分に悩んでいるようだ。

 怪我人は二名。

 ポークとデブトンだ。

 デブトンは腕にひどい火傷と裂傷を負っているが、自爆だ。

 ポークがやったわけではない。


「まず留学生のペアは失格だ。負けを認めず戦闘を続行するなんぞ、不正の基本みたいなことやらかしやがって。お前らの行為は記録に残る。マダガスト側にも報告する」

「そそそそんな」

「山を下りるまで俺が同行する。逃げたら殺すぞ」


 バッチは鋭い視線をデブトンに向けた。

 デブトンは怪我のせいでぐったりとしている。

 自業自得だが早めに腕を治療する必要がありそうだ。


「次にポーク・カリーだが、お前はよく我慢した。このまま訓練を続行していい」

「良かった」


 ポークはシャクレマスに胸を突かれたが、勝敗が決した後の出来事であり、行動不能といえるほどの深手でもない。

 まだ優勝が目指せそうだ。


「問題はフーリアムだ。挑発に乗って魔術を使うなんてお前らしくない。あれは人に向けていいものではなかった」

「熱くなりすぎました。どんな罰でも受け入れます」

「そうか。それならお前も失格だ」

「はい」


 バッチに失敗を宣言されてもロビンは表情一つ変えなかった。

 冷静になってみて自分の使った魔術がどれほど危険なものだったかを理解したのだろう。

 クールが売りのロビンがあれほど熱くなるなんて珍しい。


「反論なしか」

「ええ。ぼくのせいですから」

「ちゃんと反省の色が見えるな。それなら少し罰を軽くしよう。お前は山を下りなくてもいい」

「どういうことですか」

「お前には狩りに出てもらう。俺と同じ立場になるわけだ。隠れることは許さん。返り討ちに遭うまで攻め続けろ」


 バッチは落ちている弓をロビンに渡した。

 受け取ったロビンは釈然としない様子だ。


「どうもお前は力の伸ばし方を間違えている。はっきり言おう。お前は異常だ。まだ十歳そこそこのガキが軍の指導官クラスの濃度の魔素をその身に宿して、しかも使いこなしている。五年も経って手足が伸びきれば国を代表する強者になっているはずだ。だが強者には共通する弱点がある。なんだかわかるか」

「強者の弱点ですか。それはなんだか矛盾しているような話ですね、見当もつきません」

「気配だよ。強者は総じて気配を察知されやすい。お前、俺を尾行していただろう。大きな岩がある辺りに隠れていたはずだ。正確な位置はわからなかったが、どこかにいるのは感じていた」

「気づいていたんですか。なぜ見つかるまで探さなかったんです」


 ロビンは矢筒のベルトを締める手を止めた。

 バッチは返事をする前に懐から酒瓶を出して一口飲んだ。

 呼吸するのと同じくらい自然な動作だった。


「めんどくせぇからだ。攻めてきたところを返り討ちにするつもりだった。思った以上に臆病で、襲ってくる気もなかったみてぇだがな。おかげで説教しそびれちまった。いいかフーリアム。強者ってのは必ずといっていいほど濃い魔素を体内に溜め込んでいる。しかしその魔素のせいでお前は隠れていることに気づかれた」

「失礼ですが仰ることの意味がわかりません。魔素は目視できないでしょう」

「そのとおりだ。視覚、聴覚、嗅覚、どれを使っても魔素を感じるとることはできない。しかし人や物に直接触ればなんとなく魔素の濃度がわかるはずだ。人間には元々そういう力があるんだよ」

「しかし、ぼくは学長に触られていません」

「触れる必要はない。人間の魔素は薄っすら空気を伝わっているんだ。訓練を積んだ人間ならば感じとれる。お前がどんなにうまく隠れていてもその溢れ出る魔素は消せまい。索敵のプロを相手にすればすぐに見つかってしまうだろう」

「そんな……」


 ロビンは悔しそうに弓を握る手に力を込めた。


「わかったか。お前は隠密行動に向いていない。前にも話したが、フォーズ共和国最強の騎士、ハルトリオンはほとんど目が見えていない。だが魔素の知覚能力が発達していて、同じ街にいる人間の居場所くらいならばすべてわかるという。目に頼っているせいで気づきにくいが、人は生きているだけで多くの情報を垂れ流しているんだ。お前の魔素は特に濃くて量も多い。ハルトリオンでなくても気配を掴みやすい。だからこの訓練で伸ばすべきはむしろ索敵する能力だ」


 バッチはもう一口酒を飲むと懐に酒瓶をしまい込んだ。

 ロビンは木々の隙間から遠くを見て、少しの間目をつぶった。

 目に頼らない情報収集を試している。


「ありがとうございます、学長。ぼくは意識して他人の魔素を感じたことがありませんでした。ですがチャレンジしてみようと思います」


 得意の弓で遠距離狙撃できることを考えると、索敵能力の向上はロビンにとってメリットが大きいはずだ。

 しかしポークは気になった。


「あの、学長」

「なんだ」

「オレも攻めに出なきゃいけないのかな。ロビンとチームだし」

「お前ら、チーム解散だ。今後別行動な。出会ったらやり合え」


 バッチは悩む様子もなく即答した。

 二人で優勝してやると息巻いていたのに、この瞬間から敵同士だ。

 ロビンとポークの間になんともいえない微妙な空気が流れた。


「ポーク・カリーには真逆の才能がある。才能試験の結果を覚えているか。フーリアムが百点、対してお前は零点だった。あれは魔素の質を調べる魔道具だ。お前は魔素が薄すぎる。だがそのおかげで魔素を他人に感知されない。つまりお前は気配を消して行動するための天賦の才能を持っている。冒険者を目指すならば才能を磨いておいて損はない。野生動物を狩るにしても気取られず接近できる。この能力はフーリアムが隣にいては実感しにくい。次の戦いでは気取られず標的に近づき、一撃で仕留めてみせろ。お前とフーリアム、両者とも優勝できるだけのポテンシャルはある」


 バッチが褒めるなんて珍しい。

 魔学舎に入学して半年、これほど期待されたのは初めてだ。

 魔術の才能がない。

 それが長所になり得るなんて思わなかった。


「なんだポーク・カリー。やる気満々な面してるぜ」


 無意識ににやけてしまっていた。

 今後はロビンの真似でなく、自分だけの特技を学んでいけるのだ。


「隠密行動能力……嬉しいな。オレ、本気で隠れてみる。ロビンにも見つからないつもりだ」


 そうポークが宣言すると、ロビンはくすりと微笑んで拳を掲げた。

 ポークも握り拳をつくってぶつける。

 恨みっこなし。

 本気の勝負の始まりだ。


「よし、決まったな。俺はこれからこいつらを連れて山を下りる。他の先生に引き渡したらまた山に入るからいつでもかかってこい」


 バッチは訓練用の剣でデブトンの尻を叩いた。

 デブトンの必殺技は失敗したが、腕の弾け具合を見るになかなか威力がありそうだ。

 バッチの暗殺に使わないよう厳しく指導されることだろう。


 デブトンが林を歩き、バッチがついていく。

 二人が離れたところに行くとシャクレマスが小声で話しかけてきた。


「あれは、虹のかけらじゃないか」


 一瞬の静寂。

 時間が止まったようだった。

 ロビンが、デブトンが、バッチが、聞き耳を立てているような気がした。

 ポークは動揺を隠すため、大げさにため息をついてから返答した。


「昔、アボカトロ村で買ってもらったレプリカだ」


 嘘である。

 だが昔、アボカトロ村に行ったのは事実だ。

 ココロもたまに話題に出している。

 思い出の品だとすればいつも身につけていても不自然ではないだろう。


「そそそそうだよな。ほ、本物のわけ、ないな」


 シャクレマスは納得してくれたようで、デブトンのところに走っていった。

 ほっとしたのも束の間、罪悪感がじわじわと胸を締めつける。

 嘘も隠し事もポークの性には合わない。


「なぁロビン」

「なんだい」

「今晩、大事な話がある」


 ルームメイトとして付き合いを重ねて半年。

 誰よりも優しいこの友人に、すべての秘密を打ち明けようと決意した。

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