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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第五話 かくれんぼ・前編(3/5)

 身体が休まったので立ち上がり、来た道に目を向けた。

 変わらず人影はない。

 鼻をすんすんと鳴らしてみるが、こちらが風上なのでにおいはしない。

 聴覚に頼った索敵になりそうだ。


 ポークが先頭になって来た道を戻っていった。

 ぴゅうぴゅうと吹き抜ける風がうるさい。訓練だからまだ良いが、これが命の取り合いだとしたら頭がどうかしてしまいそうだ。

 たぶん、ポークには耐えられない。

 軍人としてはやっていけないだろう。


(止まって)


 ポークは合図した。

 何かがおかしかった。

 敵の姿は見えない。

 音もにおいも変化なし。

 しかしどこかに何かがいると確信した。

 野生の勘と呼ぶべきか、ポークにはうまく言語化できない感覚だった。


 ロビンは矢を抜き弓を構えた。

 ポークと同じく何かを感じ取ったのだろう。

 生徒か先生か、野生動物かもしれないが、確実に何かがいた。


「なんだ、筋肉豚とイケメンじゃねーか」

「デ、デブトン、それ褒めてる」


 無警戒に歩いてきたのはデブトンとシャクレマスだった。

 にやにやと挑発的に笑っている。


「風射ち」


 ロビンは容赦なく矢を放った。

 加速にエネルギーを使った風射ちだ。

 しかしデブトンは見事な反射神経で動き、剣の腹で矢を弾いた。

 半年の訓練を経て、デブトンは魔学舎でも強者の域に踏み込んでいた。


「なんだよ、早速やる気かよ」

「それがルールだったはずだ」

「ルールルールって、お前は融通が利かないな。先輩の上級生がこっちで負けたみたいだから調べに来ただけだ。やったのは学長かと思ってな。俺たちの標的はお前らじゃない。見逃してやる」

「君たちは学長に挑むのかい」

「だってチャンスじゃねぇか。今日はいつもより酔っ払ってて泥酔状態だ。ぶっ殺してやるぜ」

「君のそういう折れないところ、心から尊敬するよ。でも残念、ぼくたちは勝てる相手から逃げたりしない」


 ロビンが次の矢を構えた。

 シャクレマスは訓練用の短剣を抜き、腰を落として矢の迎撃体勢をとった。


「ここここ後悔するぞ」

「そうかな」


 ロビンは矢を放った。

 シャクレマスを狙った矢は再度デブトンの剣で弾かれる。

 ロビンはすぐに次の矢を筒から抜いた。

 ロビンの得意とする弓は不意打ちと支援でこそ本領を発揮する。


「ブヒャアアア!」


 ポークは木鎚を持ち上げて、二人に向かって突進した。

 後ろから支援の矢が届く。

 デブトンとシャクレマスは走りながら弾いて対処する。

 木鎚が当たる距離まで来ると、デブトンが前に出て剣で突いてきた。

 流れに任せて木鎚を振り下ろせば相打ちである。

 ポークは激突直前で踏みとどまり、デブトンの手元を狙って木鎚を振り下ろした。

 見事剣を叩き落とすことに成功する。

 直後、ロビンの矢がデブトンの額を打った。


「頭痛が痛いー!」


 デブトンは額を押さえて転げ回った。

 ポークがふたたび木鎚を持ち上げる前に、シャクレマスは目の前まで迫っていた。

 いつの間にか両手に短剣を握っている。

 斬り、突き、迫り、そして斬る。

 俊敏さを活かした攻撃だ。

 回避に専念するしかなかった。


「ひひひっ! 足首の恨みっ!」


 連続攻撃が途切れない。

 手首を狙われたため木鎚を手放してしまった。

 防戦一方である。

 だがロビンの矢が助けに入り、それをシャクレマスが弾いたタイミングで攻撃に転じた。

 訓練で何度も戦った相手だ。

 彼に勝つ方法は知っている。


 ポークは握り拳を平手に変えて、殴ってくれと言わんばかりに突き出た顎を叩いた。

 ビンタの要領である。

 脳を揺らしたシャクレマスは瞬時に意識を失って、地面に倒れ込む。

 あまりにもわかりやすい弱点だ。

 しかも鍛えようがないため、最近シャクレマスの戦闘訓練の成績は下がり続けている。

 人形を作る腕前は反比例して上がっているので芸術家として生きていくと割り切っているのだろう。


「勝ったぜ!」


 ポークは振り返って拳をあげた。

 ロビンも弓を下ろして拳をあげた。

 やはりロビンが後ろにいると戦いやすい。

 この調子なら誰と戦っても負ける気がしない。


 珍しく緩んだ顔でロビンが歩いてきた。

 デブトンとシャクレマスのペアは魔学舎でもかなり強いほうだ。

 喜びで足取りも軽やかになる。

 だがほんの一瞬の後、ロビンの表情が強張った。


「後ろ!」


 注意を促す声より先に後頭部に岩で殴られたような衝撃があった。

 訓練では受けたことのない重い一撃だ。

 地面を転がりなんとか起き上がると、デブトンががちがちに拳を握り固めて立っていた。

 どうやら強化した拳で思いきり殴られたらしい。


「何してんだよ。もう決着ついただろ」

「俺はまだやられてねぇ」

「頭痛が痛いって言ってたじゃねぇか」

「治った」


 駄目だ。

 話が通じない。

 ポークは追撃を警戒して半身に構えた。


「おおお俺もまだや、やれる」

「シャクレマス、お前もか」

「し、審判見てなーい」

「なんでちょっと楽しそうなんだよ。悪いことするときだけ活き活きしやがって」


 彼らを相手に正々堂々を求めてはならない。

 半年間で身にしみていたはずなのに油断していた。


「どうしようか。ロビンはどう思う?」


 ポークが対応に悩んでいると、ロビンが隣に立った。

 いつの間にか弓を置いて訓練用の木製レイピアをシャクレマスに向けている。

 それで戦うのかと思いきや、ロビンは大きく息を吸い込み、叫んだ。


「デブトンとシャクレマスが反則行為をしていまーす!」


 あまりの声量に周囲の木が震えていた。喉と横隔膜を強化したに違いない。

 デブトンとシャクレマスが呆気にとられていた。


「審判員の先生がすぐに来ると思うけど、まだやるかい?」

「ひひひ卑怯だぞ」

「それが言えるってすごいね」

「ゆ、許さない」


 シャクレマスが訓練用の短剣をロビンの顔に向けて投げつけた。

 ロビンは首を傾けて避ける。

 手刀に切り替えたシャクレマスは強化魔術を使った格闘術でロビンに挑んだ。

 接近戦を拒み剣の間合いで戦おうとするロビンだったが、シャクレマスの手刀に木製レイピアを折られてしまう。

 攻撃手段を失ったロビンは防御と回避に専念した。

 強化魔術を使った者同士が正面からぶつかればちょっとしたミスで事故が起こる。

 審判員が到着するまでの時間を稼いでいるようだ。


「筋肉豚ぁぁぁ!」


 デブトンも本気の肉体強化だ。

 ポークは身体が頑丈なので対等に戦えるが、一般人が相手ならば内臓破裂で死ぬくらいの蹴りを容赦なく放ってくる。

 これは訓練だ。

 相手を傷つけてはいけない。

 ポークもそれはわかっているが手加減していたらこちらが怪我をしてしまう。


 デブトンのパンチを避けて懐に入り込み、胸ぐらを掴んだ。

 反対の手で袖を引き、背負う形で投げ飛ばす。

 肉厚すぎるデブトンは地面を大きくバウンドしたが、相応の衝撃もあったのだろう、水を大量に吐き出した。


「背骨が骨折したー!」

「めちゃくちゃ元気じゃねぇか!」


 デブトンは先ほど落とした自分の長剣を拾い立ち上がった。

 ロビンとシャクレマスは目にも留まらぬ速度で攻防を繰り広げている。

 全員目の前の相手で手一杯だ。

 加勢は期待できない。

 デブトンは剣を大上段に構えた。

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