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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第四話 絶命魔術を覚えた日(1/4)

 ちらちらと降る雪が顔に張りつきあっという間に水へと変わる。

 落ち葉の下は濡れていて気を抜くと足をとられてしまいそうだ。

 ドリアニアは積雪が少ないはずだが今日は特別寒かった。

 いつもの通学路も雪でナチュラルメイクしている。


 ロビンは軽快な足取りで山道を駆け下りていた。

 ルームメイトのポークと校舎まで競走している。

 外気が冷たいため、のんびり歩いていると耳が痛くなってしまうのだ。

 授業の準備運動も兼ねて往路は基本的に走るようにしている。


 落ちるような急斜面を臆することなく進んでいく。

 だが岩に生えている苔が思いのほか滑ってしまい、バランスを崩して手をついた。

 今日は負けたかと思ったが、ポークも落ち葉のソリに乗って斜面を滑り落ちていた。

 やはり雪道は危険が多い。

 転んでびしょびしょに濡れたポークを引き起こすと、そこで競走は終わりにした。


「なぁポーク。今日、授業が終わったら街に買い物にいかないか」


 校舎が見えてきたところでロビンは聞いた。

 今日の授業は半日で終わる予定だ。

 昼から本でも読んでくつろぎたいと思っていたのだが、未読の本を切らしていた。


「いいけど、姉ちゃんも連れていっていいか。ジャガイモ買いに行く約束してて」

「それならブブカも誘って、四人で街をぶらぶらしようか」

「わかった。寮の仕事もないしちょうどいいな」


 四人で出かけるのは久しぶりだ。

 自然と笑みがこぼれてくる。

 貴族として大切に育てられてきたロビンにとって、魔学舎で過ごす日々は毎日が新鮮だった。


 第一ドリアニアに住んでいた頃のロビンはどこへ行っても未来の外交長官として扱われた。

 誰もがロビンをロビンとしてではなく、フーリアム家の跡継ぎという立場で見てくるのだ。

 もちろんロビンはそれに相応しい立ち振る舞いを身につけた。

 初対面の人間とうまく話すのは得意中の得意だ。


 だが人付き合いをこなしていくほどに、対等な関係を築くことの難しさを知った。

 天才ロビン・フーリアムは魔術だけでなく口までうまい、そんなふうに思われてしまうのだ。

 たしかに外交は技術でトークはパターンだ。

 からくりのように決まった手順で人と親睦を深めている。

 しかしそれを含めてロビンなのだ。

 人と喋るのが苦手な子がいるように、誰とでも仲良くなってしまう八方美人もいるのだ。

 きっと他人からは作り物の人格に思えるのだろう。

 誰もが満点の笑顔を見せてくれるのに、つまらなそうな顔はまったく見せてくれなかった。


 だがポークは違った。

 まるで感情で生きているかのように裏表のない人間だった。

 以前、彼が寝ながら屁をこいたときには深夜にもかかわらず、国の命運がかかっているかのような本格的な口論が繰り広げられた。

 つい熱くなってしまいポークをミスタースカンク呼ばわりしてしまったが翌朝にはなんのわだかまりもなく朝食の話をした。

 ロビンが人を傷つけるために暴言を吐いたのは初めてだった。

 それなのに喧嘩の最中すでに元通りの関係に戻れると確信していた。


 ポークだけではない。

 ココロやブブカもロビンを対等な友人として扱ってくれた。

 第四魔学舎は庶民の出が多い。

 ロビンの知る階級社会の常識に染まっていないのだ。

 楽しいことがあれば笑い、嫌なことがあれば不貞腐れて、それでも仲を深めていく。


 ロビンはここで生まれて初めて本当の友達を見つけた気がした。

 だからこそ日々のちょっとした外出が楽しみで仕方なかった。


「あれ、あそこにいるの学長……だよね」


 街のほうからやってきた男が校舎に入っていくのが見えた。

 長髪に無精ひげ。

 間違いなくバッチなのだがいつもと雰囲気が違うため、挨拶するタイミングを逃してしまった。

 彼は珍しく酔っ払っていないのだ。

 足取りにふらつきがない。


「素面の学長、入学試験以来だな」

「そうだね。今日何するんだろう」


 昨日の授業の終わり際、明日は特別な魔術を教えるので絶対に遅刻しないようにとアニーが念を押していた。

 治癒魔術の極意でも教えてくれるのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 バッチが断酒しなければいけないくらい危険な魔術だ。

 気を引き締めなければならない。


 集合場所は校舎に併設された屋内訓練場だ。

 校庭ほど広くはないが下が土なので床の破壊を気にせず運動できる。

 早めに着いたロビンはポークと雑談しながら授業の開始を待っていた。

 続々と他の生徒が集まってくる。

 遅刻しがちなデブトンやシャクレマスも今日は遅れずに姿を現した。

 バッチの厳しい指導の成果か彼らは最近おとなしく、悪態をつく回数が減ってきた。

 もっともデブトンについては単純に悪口のボキャブラリーが底をついただけだという話もある。


 始業の鐘が鳴ると、アニーとバッチが並んで訓練場に入ってきた。

 アニーが杖を、バッチが剣を所持しているがいずれも訓練用のものではない。

 いつになく神妙な面持ちである。

 生徒の雑談が静まると、アニーが一歩前に出た。


「おはようございます。今日は皆さんに特別な魔術を学んでもらいます。訳あって実際にお見せすることはできませんが、使い方だけ学んでいってもらいます」


 ロビンの心臓がどくんと脈打った。

 アニーが何を教えようとしているのかわかったからだ。

 それはロビンが教育係にいくらせがんでも教えてもらえなかった魔術である。

 曰く、貴族には必要ない。

 曰く、命の無駄遣い。


「絶命魔術……ですか」


 ロビンはつい口走った。


「当たりです。勘がいいですね」


 アニーが言うとデブトンとシャクレマスが小声で何やら話し始めた。

 デブトンはそれがどんな魔術なのか知らない様子だ。

 他の生徒は真剣な表情を崩さない。

 それが談笑しながら学べる魔術ではないと知っているのだ。

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