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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第三話 ココロとブブカ(4/6)

「よし、そろそろ休まっただろ。訓練を再開する。ペアを組み直せ。おい肉団子、いびきかいてんじゃねーよ!」


 長話に飽きたデブトンは地面に寝そべって目を閉じていた。

 バッチに蹴られて飛び起きる。


「次は……ブブカ、一緒にやろう」

「あ、はい」


 ロビンに誘われてブブカがペアを組んでしまった。

 ココロはまだペアを組んでいない生徒を探した。

 ポークもシャクレマスと組んでいる。

 あっという間にみんな相手が決まった。

 今日は病欠が一名。

 見事に余ってしまった。


「じゃあお前は俺とだ」


 バッチに肩を叩かれた。酒臭い息がかかって思わずしかめ面になってしまった。


 戦闘訓練が始まった。

 ココロは蔓の鞭を手にして全身に強化魔術をかけた。


「おいマックローネ。あんだけ長々と教えてやったのに聞いてなかったのか。いきなり全開で強化しやがって。すぐにバテるぞ」

「短期で決着をつけるならこれでいいでしょ。長々やっても先に魔素が切れて負けるし。あたしは冒険者志望だもん。学長が魔物だと想定して戦うの」

「俺が魔物か、いいだろう。ではここは誰も知らない未開の荒野だ。そこで自分より強い魔物と出会った。さぁどうするか、示してみろ」


 バッチが木剣を持ったまま手首を回す。

 ココロはウェストバッグの留め具を外した。


「蔓の鞭!」


 ココロは手首で鞭を振ると、バッチの剣域に到達する寸前で引き戻した。

 するとフェイントに引っかかったバッチは鞭を払うために剣先をわずかにずらす。

 ココロは空いた右手首を狙い、戻ってくる鞭に攻めろと念じた。

 蔓の鞭は通常の鞭とは違い、ココロが念じるだけで飼いならされた蛇のように自分の力で動いてくれる。

 ココロの動作と鞭の動きが一致しないので初見はまず避けられない。


 だがバッチはほとんど毎日ココロの訓練を見てきたのだ。

 当然のように鞭を避けながら前に出る。

 ココロは鞭を操りながら全速力で後退した。

 ぱんぱんと空気を叩く音がするがバッチには当たらない。

 だがあえて激しく動くことでバッグの中のジャガイモを地面に落としていく。

 後退を続けてバッチの足元にジャガイモがくると、ココロはバッチを狙うふりをして鞭をジャガイモに叩きつけた。


 軽い破裂音とともに地面の砂が飛び散った。

 訓練用に火力調整した爆発イモなので人を傷つけられるほどの威力はない。

 もしこれが最大火力ならば地面に掘り返したような大穴が空いているはずだ。

 バッチもそれはわかっているようで、最大火力を想定して大げさに退避していた。

 ココロとバッチを繋ぐ線上にはもう何もない。

 バッチはチャンスとばかりに距離を詰める。


「本命はこっち!」


 ココロはバッチが退避している間に落としたもう一つのジャガイモを踏み潰した。

 バッチは腕で顔を隠そうとしたが遅かった。

 ジャガイモの発する激しい閃光がバッチの目を眩ませる。

 光りイモには殺傷能力がないので実戦用と同じものを使っている。

 直視すればしばらく視力を奪えるはずだ。


「目が見えん。やるな」


 バッチの口元にほんのわずかに笑みが浮かんだ。

 酒のせいで表情が制御できなかったのだろう。

 ココロはそれを見逃さなかった。


「なんだマックローネ。来ないのか」

「残念。その手には乗らなーい」


 挑発するバッチを無視して校舎の入り口まで走って逃げた。

 バッチが魔物だとするならばこれが正解のはずだ。

 人を襲っているなどの緊急時でもない限り強い魔物を無理に倒す必要はない。

 逃げ切れればそれで良いのだ。

 バッチは視力を失っても表情に余裕があった。

 その程度のハンデならば勝てると踏んでいたのだろう。


「ほほほ、あたしを褒めなさーい!」


 遠くに見えるバッチのところまで届くように大声で言った。

 しかし待てども返事はない。


「ほら、強い魔物からは逃げるのが正解でしょ。だからあたし逃げたの。ねぇ、どうして返事しないの!」


 バッチは近くにいる生徒のところへ駆け寄っていった。

 ココロをまるきり無視している。

 他の生徒もなぜか訓練をやめて一箇所に集まっていった。


「もう。学長相手にいい動きしたんだからあたしを褒めるべきでしょ。誰よ喝采泥棒は!」


 肩をいからせて今の気持ちをアピールした。

 輪になっている生徒たちのところまで歩いていくと、その中心でシャクレマスが倒れていた。

 足首が直角に折れて肉の裂け目から血が流れ出ている。

 顎の先まで汗びっしょりだが声を漏らさない。

 痛みに耐えているのだ。


「なんで……」


 そばにいるポークの表情が冴えなかった。

 脂汗を額に浮かべ、今にも吐きそうな感じで口元を手で押さえている。

 直前までシャクレマスと対戦していたのはポークだ。


「やっちゃった……」

「あんたまさかキレたの? シャクレマスに何か言われて」

「いいや、普通に訓練してた。シャクレマスにうまくやられて木槌を手放しちゃったけど、格闘で凌いでたんだ。ちゃんと怪我をさせないように力は加減してた」

「加減してこんなになるはずないじゃない! 最低! いくらゴミ野郎が相手だからって足を折るなんて、あんたもゴミよ!」

「ここまでする気はなかったんだ。体勢を崩すために足払いを仕掛けるつもりだった。でも、でも」

「何よ」

「急な光に目を潰されて、変な蹴りが入っちゃった」

「……うん?」


 冷静になって周りを見るとみんなココロを目で責めていた。

 調整なしの光りイモはバッチだけでなく他の生徒の目も潰していた。

 事故の原因はまさに今注目の的になっているココロ自身だったのだ。


「あー、うん。ごめんポーク」

「謝る相手が違うだろ……」

「ごめんゴミ……じゃない。シャクレマス。あはは、あたし何言ってんだろ」


 シャクレマスは苦悶の表情を浮かべている。

 ココロに対して悪態をつく余裕もない。

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