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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第二話 留学生(5/6)

 いよいよポークの番である。

 ポークは机に手をつきその場に立った。


「さっきも言ったけど、オレは冒険者になりたいんだ」

「冒険者にしかなれないんだろ、アルノマ」


 後ろから声が飛んできた。

 デブトンだ。

 朝のやり取りで機嫌を損ねてしまったらしい。

 ひそひそとシャクレマスの声も聞こえる。


「小さい頃からレイモンド・エスペルランスの本をたくさん読んできた。古代遺跡に興味がある。いつか旅をして、いろんなものを見ながら、端から端まで大陸を横断したい」

「と、と、途中で別の冒険者に狩られるんだろ。ぶ、豚の魔物だ。ひひひひひ……ぼげっ」


 シャクレマスの野次が途中で止んだ。

 見るとココロが隣の席に正拳を突き出していた。

 床に倒れたシャクレマスは痛そうに頬を擦っている。

 教室が静まり返った。


「ぼぼぼ暴力だ。み、見過ごすのか、女!」

「女?」


 女と呼ばれたアニーがつかつかと歩きシャクレマスの前に立った。

 杖を握る手に力が入っている。


「アニー先生と呼びなさい。ただの留学生がよくそこまで偉そうにできますね。あなたたちはマダガストで衛兵職に就いているのでしょう。ドリアンでは仕事に就いたらもう大人の仲間入りです。大人なら他人に敬意を払いなさい。もしその無礼な態度が続くならばあなたたちは痛い目に遭います。必ずです」


 教室内にぴりっとした空気が流れた。

 もし今反抗的な態度をとれば手元の杖で痛い目に遭わされそうだ。

 シャクレマスは無言で席に戻った。

 アニーとはもう目を合わそうとしなかった。


「それではポーク、続きを」


 にっこりと微笑むアニー。

 子猫を見るような優しい目つきなのに杖を握る手に力が入っているのがわかる。

 そのギャップが恐ろしい。


「あー、オレは正直まだまだ未熟だ。それにアルノマなのも事実だ。生まれつき魔術がまったく使えない。でも夢を掴もうとする気持ちはみんなと変わらない。そのためならどんな努力でもするつもりだ。だからみんな、一緒に頑張ろう。よろしくな」


 アニーが力強く手を叩いた。

 それからまばらに拍手が起こる。

 留学生を筆頭に、アルノマの身でありながら入学したポークを快く思っていない子もいるようだった。

 すでに発表を終えた二人の女子生徒はわざとらしくそっぽを向いている。

 ポークが座ると拍手が止んだ。


「次、ロビン・フーリアム、どうぞ」


 隣のロビンが立ち上がった。

 教室内の全員が顔を上げてロビンを見た。

 先ほどそっぽを向いていた女子たちも目をきらきらさせている。

 ロビンは小さく咳払いして、それから堂々と宣言した。


「ぼくはこのアトラ大陸でいちばん、かっこいい男になりたいと思っています」


 デブトンが盛大に吹き出した。

 笑いを必死に堪えている。

 抽象的すぎてよくわからないがロビンの表情からそれが本当の夢であることがわかる。

 ポークは真剣に耳を傾けた。


「皆さんご存知の通り、ぼくの家はこの国では有名です。父は王国の外交長官を務めています。先祖が子宝に恵まれずお手伝いの子に家督を継がせて以来、うちは養子をよくとる家系としても知られています。なので血は繋がっていませんが、ぼくには尊敬する兄がいます。兄はぼくより九歳年上です。訳あってもうこの国にはいませんが、人間的魅力に溢れる人でした」


 ロビンは懐かしむように話した。

 血が繋がっていなくても家族で、尊敬できる人で。

 それはポークにとってのライガードみたいなものだろう。


「ぼくの魔術も体術も兄から教わったものです。兄はなんでもできる人で、ぼくが見たいと言えばどんな魔術も使ってみせました。フーリアム家には専属の教育係もいたのですが、マナーも礼節も教養もみんな兄に教わりました。ぼくは兄を試していたんです。幼い頃のぼくは兄に勝てるところが一つもないのが悔しかった。教育係よりも兄から学びたいと嘘をついて、弱点を探っていたんです。性格、悪いでしょう?」


 自嘲するような言い方だ。

 好奇心旺盛な子だったんだろうなとポークは解釈した。


「あるとき、兄が教育係から弓を教わっている姿を見ました。普段の飄々とした兄はそこにおらず、泥臭く汗を流していました。慣れない弦を引いては手を切り、その度に教育係から治癒魔術をかけてもらっていました。それはぼくが弓を覚えたいと言った翌日の出来事でした」


 教室中がロビンの話に聞き入っていた。

 ロビンの声はよく通る。

 不思議なカリスマ性がある。

 デブトンですらもう笑ってはいなかった。


「兄は思いやりのある人でした。弟から投げかけられる無理難題に答えようと見えないところで努力していたんです。ぼくはそのとき初めて兄を尊敬しました。能力でもなく、立場でもなく、兄の心の在り方を尊敬しました。そうしてぼくは決めたんです。兄のようなかっこいい男になると。うまく言葉にできませんが、ぼくはぼく自身が認められるかっこいい男になって、どんな環境であっても胸を張って生きていこうと思っています。だから先生、どんなに厳しくても構いません。ぼくを一人前に育ててください。よろしくお願いします」


 ロビンの話が終わった。

 アニーは杖を小脇に抱えて、大きな拍手をロビンに浴びせた。

 ポークも、ブブカも手を叩いた。

 今日一番の拍手が巻き起こった。


「素晴らしいお話でした。やる気のある生徒は歓迎です。私にできることならなんでも協力します。ぜひお兄さんのような尊敬できる人になってください。では次、後列ですね」


 ポークは椅子を引いて後ろを向いた。

 体格の良い男子生徒が土木建築について熱く語った。

 魔物の多い山を安全に通過できるようにトンネルを掘ったり街を災害から守るための治水工事をしたいらしい。

 夢は戦う土木屋さん。

 ほとんど冒険者の仕事だ。


 次はブブカだ。

 名前を呼ばれると静かに立った。


「わたしはこの学校で良い成績をとって、魔術兵団で幹部になりたいと思っています」


 簡潔かつ明確な目標だった。

 軍で幹部になればかなりの高給が貰えるはずだ。

 ぼさぼさ頭に継ぎ接ぎの服。

 ブブカは一目で貧乏なのだとわかる。

 いっぱいお金を稼ぐというのも立派な夢だろう。


 ブブカが音もなく着席した。

 ココロはアニーから名前を呼ばれる前に立ち上がり、ばんと机を両手で叩いた。


「あたしは冒険者になる。宝石ハンターね。遺跡の探検をして古代の宝探しもするし、自然の中にある珍しい石も見つけたい。いずれ世界中の宝石を集めるつもり。将来は絶対、大金持ちよ! だから今のうちに仲良くしといたほうが、得なんだからね!」


 怒ったように宣言して、どすんと椅子に座った。

 意訳すると、冒険者志望なのでみなさんと進路は違いますが仲良くしてください、だ。

 微笑ましい。

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