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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第二話 留学生(4/6)

 寮に戻ると朝食の時間だったが、まずは自分の部屋に戻った。

 ロビンがずぶ濡れだったので着替える必要があった。

 ポークは持ち帰った頭部をどう処分して良いかわからず、シャクレマスの部屋の前に置いておいた。

 どう見ても殺人事件の現場である。

 なので布を被せておいた。

 隙間からはみ出た金髪があまりにリアルでもっと危ない感じになった。


 シャクレマスの性格は苦手だが、魔道具作家としての腕は本物である。

 魔道具を見てあそこまで驚いたのは初めてだ。

 元が粘土とは思えない。

 造形のクオリティが高すぎて、似ているという陳腐な言葉では表現しきれない。

 粘土玉に触った者の顔を鏡よりも正確にコピーしているのだ。

 ただ爆発したり光るだけのココロのジャガイモがおもちゃに思える。

 芸術家ボンバの推薦を受けただけのことはある。


 逆にデブトンからは大した凄みを感じられなかった。

 どう見ても脂肪の塊である。

 その体型にちょっとだけ親近感を抱いてしまい、憂鬱になる。

 自分は違うとトレーニングが捗りそうだ。


 ロビンと遅れて食堂に向かうが、みんな食事を終えたようで閑散としていた。

 デブトンたちの悪行を告げ口してやろうと思ったがアニーの姿は見当たらなかった。

 もやもやとした気持ちが晴れないまま、登校のため山を下りるのだった。



 今日はまだ本格的な訓練は行わない。

 簡単な座学で教員や同級生とコミュニケーションをとるそうだ。

 ポークはロビンと遅刻ぎりぎりになって教室に入った。

 入学試験のときに筆記テストを受けた場所である。

 長い机が二列になっていて、五脚ずつ椅子が設置されている。

 ポークは空いている前列に座った。

 後ろにシャクレマスが座っていたので何かされそうで不安だったが、ちょっかいを出してくる様子はない。

 どんな授業が始まるのか、隣のロビンと小声で予想し合った。


 しばらくすると学長のバッチ・コイヤーが猫背になって入室した。

 足取りがふらついており今にも倒れそうだ。理由はすぐにわかった。

 二日酔いだろう。

 あっという間に酒のにおいが教室内に充満した。

 ポークまで酔っ払ってしまいそうだ。


「あー、気持ち悪い。とりあえず来たが、なんだったっけ。そうだ、今日は顔合わせだったな。諸君らは本日をもって入学となったわけだが、正式な授業開始は六日後だ。それまでに生活環境を整えておけ。その後はみっちりしごいてやる。まぁそういうわけで、ちょっと学長室に行ってくる。見ての通り調子が悪い。薬が必要だ。すぐにアニーが来るから待ってろ……うぷっ」


 バッチは口を押さえると小走りで教室を出ていった。

 酒のにおいだけが残っている。

 すぐに廊下からアニーの叱りつけるような声が聞こえた。

 バッチと言い合いをしているようだった。


 アニーが肩をいからせて教室に入ってきた。

 身の丈ほどの銀色の杖を手にしている。


「この教室、においますね」


 アニーが鼻に手をやった。

 なぜかココロががたっと椅子を揺らしたが、原因はバッチの酒だ。

 部屋替えの一件からココロは悪臭に敏感になっている。


 アニーに指示されたのでポークは出窓を限界まで開いた。

 廊下に続く扉も開けっ放しだ。

 少し寒いが換気は必要だろう。


「皆さん、おはようございます。もう何度も顔を合わせていますので新鮮味はないと思いますが、私が最初の授業を担当します。本当は学長が中心になって自己紹介から始める予定だったのですが、あの通り二日酔いみたいです。薬を飲んでくるらしいのですが、戻ってくるかどうか。皆さん、ああいう大人になってはいけませんよ」

「学長はいつもあんななんですか?」


 後列の男子生徒が質問した。


「ええ。教育熱心という感じではありません。ただ剣の腕だけは本物です。昔はドリアン魔術兵団で新兵を鍛える立場でしたから」


 あんな大人になるなと言いながら、学長へのリスペクトも忘れていない。

 寮での仕事もあるアニーは年中無休のスーパー激務な気がするがバッチはどう思っているのだろうか。

 立場が違えば叱ってやりたい気持ちだ。


「さて、今日はどうしましょうか。名前や出身なんかは寮で話して知っていますし、かといっていきなり本格的な授業に入っては残りの自由登校日を休みにくくなってしまいます」


 アニーは教壇に立ち全員の顔を見渡しながら何をしようか考えている様子だった。

 いくら待っても答えが出ないようなのでポークは手を挙げた。


「あの、オレ、みんなの夢が知りたい。ここを卒業したらほとんど軍に入団するみたいだけど、オレは違う。冒険者になりたいんだ。だからそういう奴がオレ以外にもいるのか知りたい」


 ポークが積極的に発言したのが嬉しかったのか、アニーは優しく微笑んだ。


「面白い話題ですね。将来、どんな自分になりたいのか。職種や役職でもかまいませんし、ざっくりとした自分像でもかまいません。どうなりたいかわかれば私としても柔軟に指導できます。では一人ずつ聞いていきましょう。前列から」


 最初に当てられたのはココロの元ルームメイトの女の子である。

 彼女はドリアン魔術兵団に入団して王室周りの警護をしたいらしい。

 アニーが突き詰めて聞いていくとどうやら軍に入りたいというよりも第一ドリアニアで働きたいだけのようだった。

 王族や貴族ばかりが住まう第一ドリアニアは他のドリアニア出身者にとって憧れの場所だ。

 彼女は第一ドリアニアで貴族の男性と出会い結婚したいと包み隠さず本音を語ってくれた。

 話の最後にはロビンに向かって露骨にウィンクしていたが、ロビンはうまく目を逸らしていた。


 隣の女子生徒もやはり軍に入りたいらしい。

 祖父が退役軍人でコネもあり、入団すれば幹部候補として高級取りになれるからだと生々しい話もしてくれた。

 その隣の男子生徒は将来何をするかなんて考えたこともないと話した。

 今までは魔学舎に入ることが目標で、今は卒業することが目標らしい。

 夢は在学中に見つければいいとアニーがアドバイスしていた。

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