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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第二話 留学生(3/6)

「それじゃ、改めて。ぼくはロビン・フーリアム。それから彼女はブブカ・トレビア。一応言っておくが彼女はアルノマじゃない。ただの優しい女の子だよ」


 ロビンはブブカの隣に立った。

 ブブカは野ウサギの死が悲しいようで今にも泣き出しそうに俯いている。

 人よりも感受性が強いのだろう。


「あたしはココロ・マックローネ。それとこっちの豚がポーク・カリー。一応言っておくけど、あたしはあんたたちの敵だから!」


 ココロは宣戦布告した。

 今にも噛みつきそうな表情で男たちを睨んでいる。

 蔓に縛られて寝転んでいる太った少年と目が合ったようで、「ゴミムシめ」と吐き捨てた。

 ブブカを蹴ったことに腹を立てているのだろう。


「それで、君たちの名前は?」


 ロビンは努めてフレンドリーに接しているようだった。

 ポークも思うところはあるが、ロビンに従うことにした。

 彼らとは同じ寮に寝泊まりしているのだ。

 ぎすぎすとした関係で二年間を過ごすのは想像するだけで辛い。

 せめて顔を見たらぎこちなく挨拶するくらいの仲でありたいものだ。


「俺はテブトン・バッカーマン。マダガスト教皇国出身、パワータイプの十三歳だ。いつか伝説の男になる男だ。本気を出せば最強に強い。あんまり逆らわないほうがいいぞ」


 ゴミムシ扱いされた太った少年が地面に寝たまま問いかけに答えた。

 伝説の男が蔓に縛られたくらいで立てなくなるだろうか。

 傾斜のあるところに置けば山の下まで転がっていきそうだ。


「伝説……具体的には?」

「そりゃおめぇ、伝説だよ。レジェンド・オブ・デブトン。その序章が今日、この魔学舎で開幕するんだ」

「あの……具体的には?」

「だから伝説だって。ビッグな男にはビッグな伝説がつきものだろう。救国の英雄的なアレになるんだ」

「うん。なるほど。よろしくデブトン」


 ロビンは深く知ることを諦めたようだった。

 握手を求めたが、縛られているデブトンは手が動かせない。

 ロビンはココロに言って蔓の鞭を回収してもらった。

 立ち上がったデブトンに握手を求めたロビンだが、自由が嬉しかったのかデブトンは延々と腕を回していたため出した手を引っ込めた。


「おお俺はシャクレマス・フリーマン。デブトンとは親友同士だ。マ、マダガストの治安維持隊に所属している。げげ芸術家ボンバの推薦で留学生に選ばれた」

「君はもう国の下で働いているのか。すごいな」

「デブトンもだ。入ったばかりでし、仕事はしていないけどな。おお俺たちは幼馴染だ。りゅ、留学枠が二つだっていうからデブトンも来られるように上の人に頼んだんだ」

「将来を期待されているんだね。ボンバとはどこで?」

「じ、地元の研究所に来ていて、俺、彼の作品のファンだったから挨拶に行ったんだ。そそそその時、俺の作品を見せたら褒められた。た、たぶんそれで推薦してもらえたんだと思う」


 デブトンに比べればまともに受け答えしている。

 どうやら留学のきっかけはシャクレマスのほうにあったようだ。

 デブトンはおまけかもしれない。


「君たちの部屋の前に木材や粘土が置いてあったけど、もしかして何か作るのかい?」


 ロビンは聞いた。

 そういえばそんなものがあった気がする。

 芸術家に褒められたのだから絵画か彫刻か。

 芸術家ボンバは石像を作るのが得意だと聞いたことがある。


 シャクレマスは上着の隙間に手を入れた。

 取り出したのは布に包まれた丸い粘土の玉だ。

 松ぼっくりくらいの大きさで、表面がつるつるしている。

 一見すると石のようだ。


「おお俺は魔道具作家になるために生まれた男だ。粘土に対して紋式魔術が使える」


 紋式魔術とは珍しい。

 野菜の魔術と同じように、粘土の魔素に干渉してその性質を変えるのだろう。

 興味なさ気に腕を組んでいるココロだったが、目はしっかりとシャクレマスの手元に向いていた。

 自分以外が使う紋式魔術に興味を抱かないはずがない。


「その粘土に君の魔術をかけるのかい?」

「ももももうかけてある。こ、これは完成品だ。中に金箔と銀箔とデブトンの髪の毛と鶏の血液と他にも色々入ってる。すす素手で触るとお、面白いものに変化する。ボンバに認められた自慢の魔道具だ」


 シャクレマスがロビンの度胸を試すように粘土玉を差し出した。

 得体の知れない魔道具である。

 ポークなら急な腹痛がきたふりをしてでも接触を拒否する。

 だがロビンはまるで握手を返すように粘土玉を受け取った。

 手のひらに乗せてまじまじと観察している。

 シャクレマスがひひひと笑った。


「なんだ、温かくなってきたぞ」


 ロビンの手の上で粘土玉が動き出した。

 卵が孵るときのような自発的な揺れがあり、むくむくと大きくなっていく。

 片手に収まらなくなったそれを、反対の手も使って支えた。

 巨大化が止まったかと思うと、なんと毛が生えてきた。

 ロビンと同じ金色の毛だ。

 さらに形状が変化してぼごぼこと穴が空いていく。

 目、鼻、口。

 でき上がったのは本物としか思えないほど精巧な人間の頭部だった。


「わっ……わわわわわ」


 ロビンが冷静さを失った。

 手元のそれを捨てたい、けれど捨てられない。

 そんな感じで腕を振り回した。

 無理もない。

 その頭部はロビンとまったく同じ顔立ちをしていたのだ。

 おそらくは触った者の首から上そっくりに変化する魔道具だ。

 自分の生首と目が合うなんてさすがのロビンも初体験だろう。

 どうしても持っていたくなかったようで、ロビンがそれを投げ渡してきた。

 ポークはついキャッチしてしまった。


「フブブブッヒャア!」


 本物でないと知っていても見ていられない。髪がふわっふわだ。

 ちょっといいにおいまでする。

 唇はわずかに濡れていておそらく口腔内まで再現されている。

 そして血が通っているように温かい。

 今にも喋り出しそうな表情でこちらを見ている。

 無理だ。

 持っていられない。

 ポークはココロに投げ渡した。


「うぎゃー! うぎゃー!」


 ココロは受け取るなりロビンにパスした。

 生首の押しつけ合いが始まって、叫び声が連鎖した。

 ロビンの手元に頭部が戻ったタイミングで、シャクレマスはその背中を蹴り飛ばした。

 ロビンは沢に倒れ込んで全身を濡らした。


「な、何をする……うおっ」


 絶句である。

 ロビンの手元の生首が野ウサギの血で濡れて凄惨な見た目になっていた。

 斬首された後の自分を見てまともでいられるはずがない。

 首と見つめ合ったまま固まってしまった。


「ひひひ。お、驚いたか。良い子ぶる奴は嫌いだ。ルールルールうるさいんだよ。なぁ、デブトン」

「そうだ。俺たちはマダガストの生ける伝説だ。こんな国のルールに従うもんか。マダガストじゃ腹が減ったら狩りをして食うんだぜ。虫、鳥、獣、なんでもだ。食中毒かかってこいやぁ!」

「ロロ、ロビンだったかな。お、俺たちはルールに縛られない」

「ルールの上に正義があるんだぜ。ルールが間違っていたらぶっ壊す。それが伝説のレジェンド、デブトン・バッカーマンだ」


 ロビンを水から引き上げている間に、留学生の二人は去った。

 きっちり野ウサギも持っていかれた。

 どこかで調理するのだろう。

 アニーも大変だ。

 留学生という立場では隣国との関係上、退学させるわけにもいかないだろうし、今後どうやって指導していくつもりなのだろうか。

 いくらルールを課したところで彼らがそれを守るとは思えない。

 早くも新生活に危険なにおいがしてきたのだった。

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