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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第二話 留学生(2/6)

「おい、アルノマが俺らの獲物食おうとしてるぜ」

「よよよ横取り、よよよくない」


 沢のほとりの木々の間、寮のある方角から少年が二人やってきた。

 年齢は十ニ、十三歳くらいか。

 特徴的な風貌なのに見覚えがない。


 ブブカをアルノマと呼んだ少年は皮膚が張り裂けんばかりに太っていた。

 カエルの頬袋に肉を詰めたようなぱんぱん具合だ。

 腕や指まで膨れているので相対的に肘などの関節部分が細く見えてしまう。

 この身体を維持するためには並の食事量では足りないだろう。

 呼吸するのも辛そうな体型なのに軽快に歩いているので脂肪の下には厚い筋肉が埋まっているのかもしれない。


 もう一人の少年は顎がものすごく長かった。

 正面からだと首が見えない。

 長いだけでなく緩くカーブしていて、横から見ると三日月みたいになっている。

 顎に栄養を吸われているのではないかと思うほど痩せていて、今にも倒れそうだ。

 隣の太った少年と並ぶとある意味ではバランスがとれていた。


「もしかして君たち、噂の留学生かい? ぼくらは第四の新入生だ」


 最初に気づいたのはロビンだった。

 昨日留学生は夕食を兼ねた歓迎会に姿を現さなかった。

 この山は関係者以外の立ち入りを禁止されているため、見覚えのない少年といえば留学生としか考えられないのである。

 もしそうでなければ不審者だ。

 アニー先生に報告しなければならない。


 太った少年と痩せた少年は目を合わせた。

 それから痩せた少年が「ひひひ」と薄気味悪い笑い声を漏らした。


「あああアルノマがに、に、二匹もいるよ」

「俺たちの同級生だってよ。出来損ないが通える場所じゃ学ぶことはねぇだろうな」

「し、しかも、盗っ人だ」

「おいアルノマ、涎垂らしてんじゃねぇ。薄汚い手をどけやがれ」


 太った少年はふんぞり返ってブブカに蹴りつけた。

 ブブカは腕で防いだが押されて地面に転がってしまう。

 髪の毛が葉っぱだらけになった。


 太った少年はブブカが引き上げた野ウサギの首をもう一度沢に浸けた。

 肉の臭みを消すために血抜きしていたのだろう。

 狩りを否定するつもりはない。

 だが沢での血抜きは水を汚してしまうし、そもそもこの山では許可なく動物の命を奪うことが明確に禁止されている。

 何より初対面の女の子を蹴りつけるなんて人として間違っている。

 ポークはブブカに駆け寄って服についた土を払うと、太った少年の前に立った。


「謝れよ」


 怒気のこもった声で言った。

 本気で怒っているつもりだった。

 しかしそれを聞いた少年たちは腹を抱えて笑い出した。


「謝れよ、だってよー」

「ぶぶ、豚が喋ってる」


 なんだか懐かしさすらあった。

 ライチェ村でナマハムやアブリハムにからかわれていた頃と似た雰囲気だ。

 だがあの頃とは違う点もある。

 ココロが味方なのだ。


「蔓の鞭!」


 ココロは植物の鞭を振りかざし、太った少年をぐるぐる巻きにして拘束した。

 ココロの感情の変化は行動に直結する。

 ルームメイトが蹴られてすぐに殴りつけないだけ成長はしているが、その後のへらへらした態度には我慢ができなかったのだろう。


 太った男は無理に手足を動かそうとしてバランスを崩し、沢の水に倒れ込んだ。

 ばしゃんと水を弾く。


「溺れるー。異国の地で変な女に殺されるー。終わりだー。伝説の男になりたかったのにー。沈むー。沈んじまうー。あっ、浮いてる。超気持ちいい……」


 太った男は人間ってあんなに浮くんだと目を疑うほど浮いていた。

 海に行けば幼い子どもたちに大人気だろう。


 ココロはもう一人の痩せた少年にも制裁を加えようと先程から素手で殴りかかっているが、その攻撃はすべて避けられていた。

 丸い男よりも俊敏だ。


「や、やめろ。け、喧嘩はに、苦手だ」


 苦手という割には徒手の捌き方がうまい。

 長い顎が弱点なのか、そこを狙ったときだけ大げさに下がって避けている。

 本気で反撃に転じられるとココロの身が危ない気がした。

 そもそもココロは格闘が不得手である。


「姉ちゃん、もういいよ」


 ポークは二人の間に立ち、前に出ようとするココロを手で制した。

 痩せた男は息を切らしてもいなかった。

 体重が軽いぶんだけ動きやすいのだろう。


「お、俺の親友を、た、助けろ」

「助けるもなにもすげぇ浮いてるじゃねぇか。木造船だってもうちょい沈むぞ。もうあれで海を渡れよ。魔学舎やめてそういう仕事に就けよ」


 ブブカに対する横暴は許せないが、暴力を振るったのはこちらも同じだ。

 痩せた少年のほうはまだ話が通じそうだったので、一旦休戦して太った少年を水から引き上げた。


 ロビンはブブカを介抱していた。

 身体に不調がないかを聞き取り、服の汚れを払い落とした。

 髪の毛についた葉っぱをとると、ぼさぼさだったはずの髪型が以前よりまとまって見えた。

 蹴られた際についた汚れを落としながらさり気なく身なりまで整えたのだ。

 ブブカの介抱を終えたロビンは野ウサギをふたたび水から上げた。


「そそ、それは俺たちのだぞ。まままさか、昨日獲った鳥もお、お前が盗んだのか」

「やっぱりあれも君たちなんだね。アニー先生が怒っていたよ。この山では生き物を殺してはいけない。ルールは守ろうよ」

「そそ、そんなこと言ったって、寮の食事だけじゃ、少なくて餓死しちゃう」

「君なら足りそうだけど。いや問題はそこじゃないな。もし寮のルールに不満があるならアニー先生に相談すべきだ。本当に必要なら食事の増量を認めてくれる」

「でででも、俺たち自分の力で狩りができる」

「論点をずらさないでくれ。食事の量や狩りの能力は今どうでもいい。共同生活で定められたルールを守ってほしいと言っているだけだ。もし寮長に相談しにくかったり、提案を却下されたのならぼくが一緒に行く。だからまず決まり事を守ってくれ。この山で生き物を殺してはいけないんだ」


 痩せた男は口をもごもごさせて、消え入るような声で「わかった」と言う。

 ロビンはにっこりと微笑んだ。

 さすがは外交官の家系だ。

 交渉がうまい。

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