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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第一話 共同生活(1/5)

 王都ドリアニアは高い壁に覆われた城塞都市の集合体である。


 建国したばかりの頃、ならず者から都市機能を守るため壁で出入りを制限したのが始まりだった。

 だが治安が改善し人口が増えてくると都市は過密状態になってしまう。

 追い出されるように城壁の外で暮らす者が増えるとそれは一つのコミュニティとして認知され、独自の産業を発展させた。

 第二ドリアニアの始まりである。

 そうして国が力を蓄えるにつれてコミュニティは増えていき、現在は十六もの城塞都市が群れているのである。

 まとめて王都と呼ばれ国家の統治下に置かれているが、実際に国王が居住しているのは王都ドリアニア第一城塞である。


 ポークが住むのは王都ドリアニア第四城塞、通称第四ドリアニアだ。

 およそ百年前に建造された石壁に囲まれている商業都市で、人口は一万人を超えている。

 各都市の商人たちが頻繁に行き来するため人の入れ替わりが激しい。

 新陳代謝が早いため変に固着した文化もなく、新しいものを受け入れる環境が整っている。

 そのおかげか、豚そっくりのポークがいてもたまに嫌な顔をされるくらいで追い出そうと騒ぎ立てられたりまではしなかった。


「やっていけそうか?」

「余裕だっての。姉ちゃんもいるし」

「それならいい。二年経ったら迎えに来る。真面目に勉強しろよ。いや、それは心配ないか。元気に過ごせ」

「ああ、ライガードもな。もういい歳なんだから養生しろよ」

「ぬかせ。まだまだお前に心配されるほど老いてはおらんわ」


 ドリアン第四魔学舎の校庭で、ライガードと別れの挨拶を交わす。

 裏口入学を決めてから丸一日経ち、ついに寮生活が始まるのだ。

 たった二年ではあるがやはり辛い。

 ポークは泣きそうになるのをなんとか堪えた。


「このまますぐライチェ村に帰るのか」

「ああ。協会でまた荷を積んでな。ポニーさんも一人で大変だろうし寄り道はできんよ」

「母ちゃん、元気にしてるかなぁ」

「心配いらんだろ。何かあってもババアがいる。あるとしたら心労だ。お前たちが旅の間ずっと楽しそうにしていたと伝えておくよ」

「頼んだぜ。母ちゃんいっつも元気そうな顔してるけど、結構溜め込む性格だから」

「任せておけ。お前たちが留守の間、村人は俺が守る。お前たちはなんも気にせず授業に打ち込め。ああ、それと万が一何かあったら冒険者便で村に手紙を送れ。ライチェ村のライガード宛で届くはずだ」

「わかった。何もなくても来年には手紙書くよ。それじゃあ……その……」

「ああ」


 ライガードはポークの頭をぽんぽんと二度撫でた。

 熱くて大きな手だ。


「次に会うときには、俺より強くなってろよ」


 ポークはぐっと拳を握り込んだ。

 ライガードよりも強くなること。

 それがきっと最高の親孝行なのだ。



 ライガードを見送りしばらく経つと、校庭に人が集まってきた。

 宿から運んできたのだろう、みんな大荷物だ。

 ポークも大きな木槌を持ち、さらには大型のリュックを背負っているせいで亀のようにもっさりしている。

 そんな中ココロだけがウェストバッグと蔓の鞭だけの身軽な姿だっだ。

 私物のほとんどはポークのリュックに詰まっているのだ。


「寮って何人かで一つの部屋に住むのかな」

「あたし個室じゃないと死ぬ。他人と住むとか息が詰まりそう」

「それくらいすぐ慣れそうじゃないか?」

「相手によるでしょ。もし同居人の屁が臭かったらあたし、夜のうちに殺すと思うわ」


 ココロならば勢いに任せて殺りかねないのが怖いところだ。

 もし同室になったら他の子に代わってもらおうと思った。


「やぁポーク。ココロも。今日はとてもよく晴れたね。ぼくたちの入学を祝福してくれているみたいだ」


 非の打ち所がない成績で入学を決めたロビン・フーリアムが繊細な金髪をなびかせてやって来た。

 彼の周辺だけきらきらと光っているような気がする。

 ただ歩いているだけなのに気品があるのだ。


「ロビン、今日からよろしく……て、ブブカもいたのかよ。気づかなかったよ!」


 同じく高成績だったブブカ・トレビアがロビンの後ろに隠れていた。

 両者ともに優秀な魔術師だがそのイメージは陽と陰だ。

 ロビンが極端に目立つので、そばにいるブブカの存在が希薄になる。

 ブブカは過去に魔物にやられて顔面の皮膚がないためにアルノマだと思われがちだ。

 目立たないように気配を殺して生きる術を身に着けているのかもしれない。


「こんにちはみなさん。二年間、よろしくお願いします」


 ブブカが丁寧に挨拶した。

するとココロがブブカの肩にぽんと手を乗せ「苦しゅうない」となぜかふんぞり返った。


「何してんだよ姉ちゃん」

「いや、なんかブブカが下手に出るから。こっちは偉そうにするべきかと」

「ブブカは言葉遣いが丁寧なんだよ。べつにへりくだってるわけじゃねぇぞ」

「だからってあたしは態度変えないからね!」


 そういえばココロは誰に対しても上から目線だった気がする。

 注意するのも今更だ、放っておこう。

 どうせトラブルにならなければ学ばないのだ。

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