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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第十二話 合格発表(3/4)

「ライガード……もしかしてライガード・カリーかい」

「ええっ! 知ってるのかよ」

「知っているも何も、彼の功績は有名だよ。タルタンにハゲトラーヌ大聖堂を建てた人だ。あそこで活躍した冒険者は本当に少ない。彼の建てた大聖堂は今も現地人を怪我や疫病から守っているんだ。うわっ、挨拶したい。ポーク、紹介してくれ」


 ライガードがそんなに有名だとは知らなかった。

 大人っぽく見えたロビンが年相応にはしゃいでいる。

 初めて流れ星を見た少年の目だ。


「ライガード、来て!」


 呼ぶとライガードは自分を指差し、「俺か?」と確認する。

 ポークが手で招くとのっしのっしと歩いて来た。


「はじめましてライガードさん。お会いできて光栄です。ぼく、ロビン・フーリアムといいます」

「お、おう」

「冒険者時代のご活躍は聞いております。たった三人で紛争地タルタンに乗り込み飢えに苦しむ現地の暮らしを大幅に改善したとか。前から聞きたかったんです。お金にならないのに、どうしてタルタンで活動したんですか」

「詳しいな。もう三十年以上前の話だぞ。誰から聞いた」


 ライガードは怪訝そうな目でロビンを見た。

 

「兄が五年ほど前にタルタンに入りまして。たまに手紙でやりとりをしていたんですが、ライガードさんの話が多かったんです。ハゲトラーヌ大聖堂を建てた方々は今でもタルタンの英雄だと、兄はそう書いておりました」

「そうか、お兄さんが。ついにタルタンにも外国の手が入るようになったんだな」


 感慨深そうだった。

 それから山の向こう、おそらくはタルタンの方角を見て思い出すように昔を語った。


「俺たちがあそこに行ったのはな、道に迷ったからだ。フォーズの山林に魔物が出るってんで討伐に行ったら見つからず、国境を越えていた」

「ええ……じゃあ大聖堂を建てたのはどうしてです」

「流れだ」

「流れ……」

「魔物を罠で狩る方法を現地人に教えたら食の状況が改善されてな、働ける人数が増えて仕事が足りなくなった。だからみんなで使える施設を作ったんだ。暇な奴らを集めてな」


 ロビンはうむむと唸り、腕を組んで空を仰いだ。


「なるほど。英雄ライガードの一行は飢饉に苦しむタルタンを救うため危険を顧みず現地入りし、食糧事情のみならず病や感染症まで対策したと兄の手紙にあったのですが」

「ちょっと大げさだな」

「みたいですね。武勇伝なんてそんなものかもしれません。それでもあなたは兄が憧れた人なんです。あなたの建てた大聖堂はタルタン発展の基盤になり得る。兄に代わってお礼を」

「礼なんていらんよ。ほとんど覚えていないくらい昔のことだ」

「覚えていないだなんてご冗談を。タルタンで冒険していた頃の絆があるからあなたは今ここにいる。そうでしょう?」


 何やら含みのある発言だった。

 ライガードが図星を突かれた表情で「なんのことやら」と目を逸した。

 ロビンは楽しそうに「ははは」と笑った。

 きょとんとするポークを見て「君たちは本当にラッキーだ」と胸を小突く。

 意味がわからないので、「うん?」と疑問系の返事になってしまう。


 気づいたら周囲の受験者たちがほとんどいなくなっていた。

 そろそろ合格発表の時間である。


「よし、みんなで一緒に結果を聞こうか」


 先導するロビンについて校庭に向かった。

 ロビンは歩きながら次々と話題を振ってくる。

 校庭に到着する頃にはがちがちに緊張していたブブカでさえも笑顔を見せるようになっていた。

 ロビンは良いリーダーになりそうだ。


 期待と悲観で校庭内はうるさかったが、バッチが登壇すると風が止んだように静かになった。

 ある者は心臓を押さえて、ある者は両の手を組んでいる。

 それぞれがそれぞれの方法で合格を祈願していた。


「待たせたな。合格者が決まった。今から名前を呼ばれた八名は前に出るように」


 ついに結果がわかるのだ。

 ポークはごくりと息を呑んだ。


「一人目、ロビン・フーリアム」


 校庭中がわっと沸いた。

 当然だ。

 文句なしの合格だろう。

 ロビンは両手を振りながらその場で一回転し、深々とお辞儀した。


「先に行ってるね」


 そう言って前に出る。

 近くの女の子たちから深いため息が漏れていた。


「お金払うからデートしてくれないかなー」「来世まで尾行したいわー」


 イケメンも度が過ぎると苦労が多そうだ。


「二人目、ブブカ・トレビア」


 今度はええーっと嫌がるような声があがった。

 ブブカは両手を叩いて、「やったぁ!」と跳び上がる。

 その姿が顰蹙を買ったようで、あからさまに悪口を吐きかけてくる者もいた。

 しかしブブカは意に介さない。

 しっかりと背筋を伸ばし堂々たる風格を漂わせてロビンの隣に歩いて行った。

 残り、六人。


「やっぱすげぇな」

「あの二人は別格でしょ。才能だけでどこにでも入学できるレベルだもん。勝負は次から。来い来い来い来いー!」


 ココロの祈りは届かなかった。

 三人目は背が高く年上っぽい雰囲気の女の子が、四人目はマッシュルームカットの子柄な男の子が選ばれた。

 彼らは一緒に来た友人と一言二言交わして、壇の前に並んだ。

 先にいたロビンと挨拶している。


「いいなぁ」

「ほんと羨ましい。あたし別の魔学舎でもいいかなーって思ってたけど、ブブカやロビンと話してたらここに通いたくなっちゃった」

「オレもだよ。でもあと四人だけだ。そろそろ呼ばれないと厳しいね」

「次はあたしが呼ばれるはず。あたし、あたし、カモーン」


 バッチが五人目の名を呼んだ。

「来たーっ!」と声を張り上げたのは体格の良い男の子だった。

 ココロはもう涙目である。

 自称天才のプライドが本物の天才たちに寄ってたかってぼこぼこにされている。

 六人目に黒目の大きい華奢な女の子が選ばれて、ココロはペットが死んだときくらい陰鬱な目つきになった。


「バイバイ魔学舎……記念に宝石を拾って帰ろう……」

「姉ちゃん、それガラスの破片」


 小瓶の底みたいなガラスに伸びたココロの手を掴んで止めた。

 宝石とガラスの区別がつかないほど憔悴している。

 残り二枠。

 二人で合格するのは難しいだろうが、せめてココロの名前は呼ばれてほしいと思った。

 ロビンの話を聞いて、ポークの才能はないのではなく測れないのだと知った。

 だがココロの二十三点にはなんの言い訳もできない。

 平均より高いが天才の域には程遠いのだ。

 自信と傲慢さを失ったココロはポークの知るココロではなくなってしまう気がした。


 六人目の女の子が合格者の列に並んだ。

 バッチの口が開く。


「七人目……ココロ・マックローネ」


 まるで朝顔が開花するようにココロは頭を上げて胸を張った。

 太陽の祝福を受けて輝くココロはばさっと髪の毛をかきあげて「当然ね」と言い切った。

 自信を失ったり取り戻したりと忙しい。

 だがこれでココロの能力の高さは証明された。

 ロビンとブブカの能力が異様に高かっただけで、ココロは優等生なのだ。


「ココロ・マックローネ。いるなら前に来なさい」


 バッチが再度呼びかけた。

 ココロはポークの手を握ると、「います!」と大きな声で返事をした。


「先に八人目の発表をお願いします!」


 ココロはそう伝えると、小声で「あんたと一緒じゃなきゃ前には行かないから」と言った。

 ココロの手は汗でびしょびしょだった。

 ポークはその手を強く握り返す。


 バッチはしばらくココロを待っていたが、時間の無駄だと判断したらしい。

 合格発表を続けた。


「八人目。最後の合格者は……ポーク・カリー。前に来なさい」


 一瞬、聞き間違いかと思った。

 ココロと顔を見合わせて「オレ?」と聞くと、握った手を引き寄せられて、そのまま抱きつかれた。


「やった、やった! おめでとうポーク。おめでとう!」


 ココロは自分の合格を聞いたときよりも激しく喜んでくれた。

 ポークはココロの体温を肌で感じて、ほんのりと理解した。


「オレ、合格したんだ……」


 冒険者を目指すと決めてから毎日休まず鍛錬してきた。

 身体を動かすだけでなく本を読んで勉強した。

 苦労というほどでもない。

 望んでしてきたことだから。

 だがそんな日々が形として報われたのはこれが初めてだった。

 家族以外の人たちにも努力の成果を認めてもらえた。

 それがこんなに嬉しいなんて。


「泣き虫!」

「姉ちゃんだって!」


 ココロは長い鼻水を垂らしていた。

 泣いているのに笑顔だった。

 幸せだ。

 自分の成功を喜んでくれる人がそばにいる。


「行こう」


 ポークはココロの手を引いて歩き、合格者の並びに加わった。

 ロビンが温かい目でこちらを見ている。

 名前を呼ばれなかった子の中には怒ったり、泣き崩れたりしている姿もあった。

 みんなそれぞれ今日のために準備してきたのだろう。

 そんな子たちに勝ったのだ。

 自分が誇らしかった。


「以上八名が合格だ。今年は例年よりも高いレベルでの選考となった。入学に足る実力がありながら泣く泣く落とした者もいる。残念ながら名前を呼ばれなかった者も、諦めきれなければ来年もう一度試験を受けに来るがいい。それでは現時刻をもって今年の入学試験を終了とする」


 バッチが壇を下りた。

 集まっていた受験者たちがちらほらと解散し始める。

 また串焼き屋の前で反省会が始まるのかもしれない。


「よろしくね、みんな」


 ロビンが合格者に片っ端から握手を求めていった。

 さすが外交官の家系、処世術は身についている。

 それぞれが挨拶や自己紹介をする中、ポークとブブカだけ露骨に無視する子もいた。

 アルノマ差別というよりも、友人を選り好みしている感じだ。

 留学生を含めると入学者は十名、二年制なので総生徒数は二十名である。

 人が集まるとどうしてもいくつかのグループに分かれる。

 この場にいる面識のない四人はみんな、ロビンの周りに集まっていた。

 なんだか、競争を勝ち抜いた先でまた競争をしているような気分だ。

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