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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第十二話 合格発表(1/4)

 豚そっくりに生まれて屁が臭くて、虚言癖と暴力癖を持つ姉がいる。

 その上魔術の才能すらまったくないと魔道具に判断される。


 まるで覚めない悪夢だった。

 今日は試験に合格して、ライガードに今まで育ててくれた礼を言うつもりだった。

 現実はまた馬車に乗ってライチェ村に送還されることになりそうだ。

 一旦出荷して返品された豚だ。

 村人も歓迎はしないだろう。


「……起きて、ポーク、起きて!」


 ココロに肩を揺さぶられた。

 意識が飛んでいたようだ。

 垂れかけた涎を拭うと試験官から「もう一度言いますね。ポーク・カリー零点です。次」と告げられ、列から追い出された。

 危うくもう一度気絶しかけた。


「いくらなんでも零はないだろ……零は……」


 ココロのビンタでなんとか意識を保っていた。

 この暴力とも今日でお別れだ。

 ココロは今日から金髪のイケメンとキャッキャウフフな寮生活を送るのだ。

 その一方で、ポークは村のおっさんたちとだらだらに汗を流して木を切り倒すのだ。

 ココロは今日からブブカと競い合って一流の冒険者になっていくのだ。

 その一方で、ポークは鼻をほじりながら屁を垂れ流す豚と化すのだ。

 終わりだ。

 もうろくな未来が見えない。

 ポークは白目になって泡を吹いた。



 気づいたら校庭の隅に寝かされていた。

 ショックが大きすぎたのだ。

 冷静になって考えると魔術を使う感覚すら理解できないポークに才能なんてあるはずがなかった。

 どうして人並みを求めてしまったのだろう。

 幸せ慣れしすぎていたのだ。


「起きたか」


 近くにライガードとココロが立っていた。

 見守ってくれていたようだ。


「ごめんライガード。オレ、落ちたみたいだ」

「まだ結果は出とらんぞ」

「零点を入学させる学校なんてないだろ。姉ちゃんも一緒に行けなくてごめん」


 どうしようもなく落ち込んでいた。

 さすがにココロも茶化したりしなかった。


「ほんと馬鹿ね。安心しなさい。あんたが落ちてたらあたしも行かない。二人で別の魔学舎を探そ」

「えっ、でも」

「いいの。だいたい、天才のあたしがたった二十三点だなんてありえない。壊れた魔道具の点数なんて気にしちゃ駄目なんだから」

「姉ちゃん……」


 気遣いが嬉しかった。

 ココロだって本当は第四魔学舎に入りたいはずだ。

 今日のために何年も鍛錬を重ねてきたのだから。

 一人でも入学するように言うべきかもしれない。

 だがポークにはそれができない。

 自分が夢を叶える過程を、ココロには隣で見ていてほしかった。


「ありがとう。絶対、一緒に行こう」


 ポークが素直にそう言うと、ココロはぷいと顔を背けた。

 たまに煩わしく思うこともあるが芯のところで支えてくれる、ポークの自慢の姉である。


「まぁ心配しなくても大丈夫だ。結果が出るまで時間が空く。どこかで飯でも食うぞ。たしか、通りに串焼きの露店があったな」


 ライガードはポークの合格を疑っていない様子だった。

 たしかに筆記は満点だが、他は良い結果とは思えない。

 特に得意としていた模擬戦闘でこっぴどくやられてしまったのが痛い。

 あそこでもっと加点できていれば合格もあったかもしれない。

 ライガードはあの醜態を見ていなかったのだろうか。

 いざ不合格を突きつけられたときのライガードの反応を想像すると胸が痛かった。


 串焼き店の前はすでに他の受験者たちの喋り場になっていた。

 店主は稼ぎ時をわかっているようで、鶏肉の串を網で大量に焼いている。

 火力が強すぎるためか一部が焦げてしまっており、香ばしいというよりも煙たい。


 受験者たちの表情は明暗がはっきりしていた。

 多くが徹夜明けのように疲れてうなだれていたが、鼻息を荒くして串にかぶりつく者もいた。

 ライガードは串を三本買って、一本ずつ分けた。

 焼けすぎでかりかりしている。

 そして苦い。

 まさに受験の味だ。


「これ、腐った肉わざと焦がしてごまかしてんじゃねぇの。ぼったくりだろ」


 ポークが声を潜めて言うと、ライガードも「うむむ」と険しい顔をした。

 火を通しまくっているから食中毒にはならないだろうが、不味い。

 受験者たちがうなだれているのはこれが原因かもしれない。


 ふと店先に目をやると見覚えのある少女が立っていた。

 ポークの対戦相手だったブブカ・トレビアである。

 彼女は手に持った巾着型の財布の中を覗いて串と見比べていた。

 それから店主と二、三言葉を交わし、思ったよりも高かったのか、とぼとぼと道を引き返した。

 九十点台の才女とは思えない哀愁を背負っている。

 向かう先は海辺の崖か、ロープの結べる高い木か。

 心配になったので声をかけてみた。


「おめでとうブブカ。すげぇ点数だったな」


 ブブカはびくっと背を伸ばし、恐る恐るといった感じで振り向いた。

 人見知りが激しいようだ。


「ああ、ありがとうございます」

「オレ駄目だったよ。才能試験、零点だった。合格できそうにない」

「そうですか。一緒に学べればいいと思っていたのですが。でも諦めちゃ駄目ですよ。獲得した点数はあくまで参考値です」

「えっ、そうなの?」

「そうじゃなきゃもう合格者は発表されています。だからわたしも不安です。その……」


 ブブカが口ごもった。


「アルノマだから?」


 ポークは代弁するつもりで言った。

 しかしブブカは目を伏せる。


「ごめんなさい。わたしはアルノマじゃないんです。昔、魔物にやられてしまってこんな見た目ですが」


 申し訳なさそうに言うブブカ。

 ポークは自分がひどい失礼を働いたのだと自覚した。


「こっちこそごめん。オレ、アルノマだから仲間がいたのかと嬉しくて」

「気にしないでください。不安なのは別の理由です。わたしの生まれたカキー村はわたしを含めあまり裕福な暮らしをしていません。村の援助があってここまで来られましたが、残した家族のために急な出費が必要になるかもしれず、もしそうなったら学費の払い戻しのため中途退学することになります。受験前に伝えてあるのですが、それで審査落ちするかもしれません。魔学舎としてはきちんと卒業できる人に入学してほしいでしょうから」


 ブブカが裕福でないのは見た目でわかった。

 服の継ぎ目が砂で汚れており、髪の毛の手入れもされていない。

 保護者も見当たらないことから、旅費すら切り詰めてここまでやって来たのだろう。

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