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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第十一話 入学試験(4/6)

 到着順に三つの教室に分けられた。

 長い机に五人ずつ並んで座る。

 ココロは隣である。

 それからインクの瓶とペン、問題用紙が伏せて配られた。

 試験官から盗み見についての注意があり、試験がスタートする。


 仕入れた本は一冊残らず読み尽くし、ウゴウゴで多種多様な商品を販売していたポークである。

 しかも元貴族の母と大陸全土を旅した男に育てられたのだ。

 当然、持ち合わせた知識のレベルは十歳としては飛び抜けている。

 半分ほど解いた時点で、これなら全問正解できると確信した。

「やめ」の号令がかかると、ココロは眠たそうな表情であくびをしていた。

 ポークと同じく全問解けたようだ。


 それから受験者は模擬戦闘か魔術の披露、どちらのテストを希望するか試験官に伝えていった。

 腕に自信のある者が多いようで大半は模擬戦闘を希望した。

 ポークもその内のひとりである。

 だがココロが選んだのは魔術の披露だ。

 戦闘でも良い成績を残せそうなココロだが、ポークと潰し合う可能性があるため配慮してくれたのだ。


 次の試験は校庭で行われる。

 呼ばれた者から教室を出ていき、その際に教養試験の採点結果を知らせてもらえるそうだ。

 この試験は個別に見るため時間がかかるらしく、教室の中ではうるさく雑談が交わされていた。

 前に座る子たちの話がポークの耳に届く。


「教養試験難しすぎ。親に言われて仕方なく来たけど、こんな試験受かるはずないじゃん」

「私は魔術のほうが苦手なんだよねー。第三の試験も落ちたし。ま、別にいいけど」


 必ずしも強い熱意をもってこの試験に挑んでいる者ばかりではないようだ。

 遊び半分で来た奴らには負けたくない。

 表情にこそ出さなかったがポークは改めて気合いを入れ直した。


「ココロ・マックローネ」

「はーい」


 試験官に呼ばれたココロは「先行くから。頑張りなさいよ」と言ってポークの肩を軽く小突いた。

 野菜の魔術は習得が困難とされている紋式魔術の一種である。

 ココロがこの試験で大きく減点されることはないだろう。


「姉ちゃんこそ、頑張って」


 そう言って送り出した。


 それから長い時間待って、ようやくポークの名が呼ばれた。

 模擬戦闘は審査に時間がかかるらしい。

 教室にはほとんど人が残っていなかった。

 廊下に出ると頬のこけた不健康そうな試験官がポークの解答用紙を持って待ち構えていた。


「ポーク・カリー。教養試験は五十点満点だ。読み書き、計算能力ともに問題ない。勉強についていけなくなることはないだろう。ただし、この試験は満点をとる者が多い。最低限の教養がない者を落とすための試験だからな。本番はここからだ。模擬戦闘試験を始める。ついて来い」


 ポークは彼の少し後ろを歩いて校庭に向かった。

 途中、他の教室の中が見えたがほとんど人は残っていなかった。

 歩きながら彼は手に持った紙の束をめくってこれから行われる模擬戦闘の詳細を語った。


「お前の対戦相手はブブカ・トレビア、十一歳だ。この試験では訓練用武器の使用が許可されている。強化魔術も使用していいが、その他に攻撃系魔術が使えるならば安全のため今ここで申告するように」

「特にないよ。オレ、魔術使えないし」

「それならいい。武器は何を使う?」

「あの……槌ってある?」

「槌……珍しいな。あるぞ」


 校舎近くの小屋の前に、木製の武器が並べられていた。

 大小の剣、槍、こん棒や斧を模したものもある。

 棒と木球をロープで繋いである武器を見て振り回したい衝動に駆られたがここで遊んでいいはずがない。

 厚い布でできたグローブもあったが、ポークは訓練用の木槌を選んだ。

 柄の部分が樹脂に覆われていて持ちやすい。

 この樹脂が魔素を遮断することで武器の強度が上がらないようになっている。

 本体には布が被せてあるし、これならば事故は起こりにくいだろう。


「うちには国内最高クラスの治癒術師がいる。安心して骨折してもいいぞ」


 全然安心できない台詞だが頼もしい。

 初めて知り合い以外と立ち会うのだ。

 怪我はしたくないし、させたくない。


 校庭内の指定された場所へ移動すると、そこには多くの野次馬が集っていた。

 すでに試験を終えた奴らだろう。

 良い結果を残せなかったのか、涙ぐんでいる者もいる。

 ポークは気を引き締めた。


「うわっ、アルノマ同士の対戦かよ」

「気持ち悪い。両方とも死ねばいいのに」


 容赦ない悪口が次々に放たれる。

 理由はすぐにわかった。

 対戦相手もポークと同じく特殊な容姿をしていたのだ。


 ブブカ・トレビア。

 彼女の黒くもさっとした巻き毛はまるで火事の煙だった。

 彼女には顔面の皮膚がなく、隠れているはずの肉が盛り上がっている。

 そのせいか口に唇とはっきりわかる部分がなく、隙間から見える白い歯だけが変に目立っている。

 まつ毛も眉毛も生えておらず、ぎょろりとした目が不気味にこちらを見つめていた。

 服装は地味だとか派手だとかいう感想を通り越してとにかくぼろぼろだ。

 継ぎ接ぎだらけで柄に一貫性がなく、はめ込む位置を間違えまくった組み合わせパズルみたいになっている。

 彼女は自分の背より高い棒を地面に立てていた。

 杖術使いだろう。


 彼女と話をしてみたかったが試験中なので自重した。

 きっと彼女も自分と同じくアルノマとして生まれたのだろう。

 見た目のせいで苦労してきたに違いない。

 そんな想像をすればするほど親近感が強まった。


「それでは、ルールを説明する」


 ポークを連れてきた試験官がブブカとの間に立った。


「武器、魔術の使用を認める。ただし、攻撃系魔術は事前に申告したものに限る。手足を使った直接攻撃は禁止だ。強化した手足で思い切り殴れば下手したら死ぬからな」


 先ほどグローブを選んでいれば格闘術で対戦できたのだろう。

 本来、ポークは木槌で戦いながら格闘術を併用するが、グローブを着用すると木槌が持てない。

 今回は木槌だけで戦うのだ。


「勝敗は審査に影響しない。戦闘時の動きや魔術の熟練度を見て採点する。これから私が始めと言ったら、相手を倒すつもりで戦ってくれ。私が止めと言ったらどんな魔術も中断して動きを止めるように。指示に従わなかった場合、問答無用で不合格だ」


 この試験はわかりやすくて良い。

 いつもライガードとやっていたように戦うだけだ。

 木槌で同年代の子を殴るなど許される行為ではないが、危険と判断したら試験官が止めるだろう。

 思い切りやってやる。

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