第六話 父を求めて(4/5)
「そういえばポーク」
「ん?」
「ポークのお父さんって、イケ豚なの?」
「ブヒッ!」
唐突な造語に変な声が出た。
ココロは全然変だと思っていないようで平然と話を続ける。
「ポニーさんはイケメンだって言うけど、ポークのお父さんならやっぱり豚だと思うんだよね」
「豚じゃないって母ちゃんは言ってる。父ちゃんはいわゆる冒険者で旅をしてるんだ。すんげぇ探検家なんだって」
「でも名前も知らないんでしょ」
「うん」
「おかしいと思わない?」
「ちょっと思う。何度聞いても教えてくれないし。けど母ちゃんは意味なく父ちゃんのことを秘密にするような意地悪じゃない。だから、うん、聞かないほうが良いんだと思う」
「寂しくならない?」
「別に。ライガードがいるし。ただ、ちょっとだけ、その」
「何?」
「顔が見てみたい」
正直なところ、ポークは父親にあまり良い印象を抱いていない。
父はポークが生まれてから一度も母と会っていないのだ。
年に一往復、冒険者便という運送サービスを使って母と手紙のやり取りをしているらしいが、その程度だ。
子育てを見ず知らずのライガードに押しつけ、自分は旅を満喫している。
そんな無責任男は殴ってやりたいし、もし事情があるのなら会って話してほしかった。
父親が豚なら豚でもいいのだ。
ポークはただ真実が知りたかった。
「イケメンすぎて目が潰れるわよ、お父さんに会ったら」
いつの間にか、毛布に包まり丸くなっていたポニータが寝転がったままこちらを見ていた。
「ごめん、うるさかった?」
「気にしないで。二人とも仲良くなったみたいで嬉しいわ」
ポニータはベッドから足を下ろして毛布を膝にかけた。
まだ疲れているのだろう、手で隠してあくびをした。
「ポーク、ごめんなさい。あなたには辛い思いをさせたわね。お父さんについてはあんまり話せなかったの。なんというか、彼、有名人だから」
「有名人?」
「ええ。噂が広まったら身に危険が及ぶかもしれない。だからライガードさんにも口をつぐんでもらった。他の村の人は知らないはずよ」
身に危険とは穏やかではない。
ポークも無理に聞き出すつもりはなかったが、ポニータは覚悟を決めたようだ。
ポークとココロの間に座り、三人でシーツをかぶった。
「お父さんの名前はフォクス。双剣のフォクスと呼ばれて世界各地の古代遺跡を探検しているわ。有名な話としては何年か前にマダガスト教皇国で、当時レイモンド・エスペルランスが攻略不能と判断した遺跡を七十年ごしに踏破した。ポークが生まれる前、私と旅をしていた頃も彼の才能は光っていたけど……最近は化け物じみているわね」
双剣のフォクス。
聞き覚えのない名前だ。
だがレイモンド・エスペルランスは知っている。
勉強会で教科書にしている本、アトラ大陸民話集の著者だ。
有名な冒険者だったと聞いている。
直接的に関係あるわけではないが、父親と有名人の名前が並んでいると興奮する。
「でも、なんで教えてくれなかったんだ。有名かもしれないけど、普通の冒険者なんだろ」
「あー、それはね」
ポニータがココロの方をちらっと見た。
「あたし、言わないよ」
「あはは、ありがとう、ココロちゃん。絶対秘密にしてね。おばあちゃんにも内緒」
「あたしポークのお姉ちゃんになったんだから! ぜーったい喋らない」
「良いお姉ちゃんね」
ポニータは嬉しそうだった。
ココロはもう家族だ。
ポークだけでなく、ポニータもそう思っているはずだ。
「双剣のフォクス。彼はちょっと訳ありなの。彼の出身はタルタン紛争地域とされているわ。難民の出ね。でも実はそれ、真っ赤な嘘なの。彼は闇商人からフォクスという難民の身分を買って、冒険者協会に登録した。彼の本当の出身地はここドリアン王国。名前はマイク・ジューシー・ドリアン。この国の王子様よ」
「……は?」
間の抜けた反応しかできなかった。
さすがのココロも時間が止まったように固まっている。
ポニータはその反応を楽しむように、口元に手を当ててにやついていた。
「おおお王子様?」
「びっくりした? でも残念、正確には元王子ね。今の王様は長く心の病を患っていてね。二人の息子が王位欲しさに反乱を起こそうとしていると思い込んでいたの。自分が親兄弟を殺して王様になったから、息子も同じ道を辿ると考えたみたい。日に日に王子たちに対する監視が強くなり、いよいよ暗殺も視野に入ってきたわ。それでマイクは兄王子と話し合った。二人のうちどちらかが消えれば、王位はいずれ残った方が継ぐことになる。頭のおかしな王様も、反乱の動機がないと気づくはずだと考えたの。十四歳のときだったわ。兄王子を残して、マイクは国を出た。お付きの者を使って、死んだように偽装してね。それでまんまと生き延びた。今はフォクスに成り代わり、探検家として生活している。もちろん、この国で活動はできないけどね」
壮絶な話だった。
自分の父親が王子様だなんて、にわかには信じられない。
だがこんな大事な話が冗談とも思えない。
「じゃあオレ偉いのか?」
「勘違いしないの。彼はもう王族の身分を捨てている。身も心も冒険者よ。あんたは冒険者と冒険者との間に生まれた、ただの男の子。偉いどころか、王家の血を継いでいるあんたは国にとって邪魔な存在なの。だからライガードさんが拾った子だということにしてる。村のみんなは知っているけど、私とポークが親子だってことも国には伏せているのよ。マイク・ジューシー・ドリアンとポーク・カリー。二人を結ぶ痕跡はできるだけ消しておきたかった。あんたを、守るために」
ポニータは壁の向こう、どこか遠くを見ていた。
何年も会っていないフォクスの姿を探しているのかもしれない。




