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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第六話 父を求めて(3/5)

 それからポークは森に隠れていた村人たちと合流した。

 ココロの家族も避難が済んでおり、見つけるなり互いに駆け寄って抱きついていた。

 ココロがごめんなさいと連呼していたのが印象的だった。


 避難所になっていた森の広場にはアリクイクイの死骸が転がっていた。

 元冒険者の二人以外にあの巨大な魔物を退治できる人間などいないと思っていたが、意外なところに強者が潜んでいた。

 村の治癒術師、サキ・マックローネである。

 彼女はココロの両親と家を出ると、周りの住民を集めて森の広場へ避難するように促した。

 村人は声をかけ合いながら広場へ避難、近寄る魔物はサキの冷気の魔術で動きを止めて、同行する村人が斧や鉈で仕留めたという。

 冷気の魔術を使ったのは実に五十年ぶりらしく、ポークが到着したときには疲労のせいで野ざらしの骸骨みたいな姿になっていた。

 ココロの右手の治療を頼みたかったが、一休みしてからになりそうだ。


 広場にはナマハムもいた。

 一旦見つけたココロを逃がしたせいで他の村人から猛烈に非難されたらしい。

 木陰で俯き小さくなっている彼を見ると、昨日どんぐりを食べさせられたときのような嫌な気持ちにはならなかった。

 今の彼は親友を失った被害者なのである。


 村にいた他のアリクイクイはライガードがすでに倒していたようだ。

 村から逃げてきた人々が、その後も続々と広場に集まってきた。

 ポークを探していたせいで昨夜一睡もしていないライガードとポニータだが、この状況で休むわけにはいかない。

 ライガードが広場の人々を守り、ポニータは魔物の残党狩りとはぐれた村人探しに出た。

 たまに怪我をした村人を連れてポニータが戻ってくるので、ライガードは交代しようと提案するのだが、彼女は自分が探すと言って聞かなかった。

 ポニータはこんなときでも辛そうな顔は見せない。

 もちろん彼女が平気な顔をしている裏で本当は疲労で倒れそうになっていることをポークは知っている。

 しかしそこは指摘せず、ありがとう、とだけ声をかけた。

 心配よりも感謝が力になると思ったからだ。


 ライチェ村に誰もいないため夕刻を知らせる鐘は鳴らなかった。

 人間とは不思議なもので、何もしていなくとも腹は減る。

 広場の混乱が収まってきた頃、家を全壊させられた村人が、食事の準備をしに村に戻らなくちゃと言い出した。

 食事の準備という日常と壊滅的なダメージを受けた村のギャップがなんだかおかしくて、他の村人がくすくすと笑っていた。

 本当に不思議だ。

 人は辛くても、近くに人がいてくれるだけで笑えるのだ。



 流れる雲がオレンジ色に染まった頃、ポニータが広場に戻ってきて村の安全を確保したと告げた。

 もちろん、絶対に魔物が来ない保証なんてどこにもないが、夜の森に比べればマシだ。

 森にはアリクイクイだけでなくポークが倒したムカデの魔物、カムデーもいる。

 いつ新たな個体が襲ってきてもおかしくない。

 日が沈む前に、長い列をつくって村に戻った。


 ポニータの報告では死者は八名。

 うちアブリハムを含む四名の遺体が完全な形では回収できなかったそうだ。

 亡骸は一箇所に集められ、顔に布を被せられていた。

 それぞれが首や腹などに致命傷を負っている。

 四体の遺体の隣に、爪や髪などわずかに残った部位が置かれていた。

 様々な理由で回収できなかった死者の身体の一部である。

 アブリハムの爪には指の肉片が付着していた。

 その身体のほとんどはアリクイクイに食べられていたらしい。


 近くに木を組み火を焚いて、死者の冥福を祈った。

 ここドリアン王国では死者が出るとなるべく早く火葬して弔う。

 死者を放置すると意思なき怪物として蘇り大惨事を引き起こすと伝えられているからだ。

 原型の残った四人の遺体には、胸に深い刺し傷がある。

 遺体を回収する際にポニータが短剣を突き立てたのだ。

 一見残酷に思えるが、心臓を破壊すれば意思なき怪物、ファントムにはならないらしい。

 彼らが安心して眠れるように考えての行動だ。

 遺族はポニータに感謝していた。


 その日、家屋を失った者は運良く破壊を免れた家に泊まることになった。

 当分の間は村の仕事を中断し、復興に努めなければならない。

 ライガードはウゴウゴの商品を届けに来た業者を通じて商会に魔物発生の報告をしていた。

 ライチェ村からの木材の供給がストップしては他の産業にも影響が出てしまうため、近いうちに保存食や建築資材など生活に必要な物資が届くだろうという話だった。

 商会にとってこの村は小さくても欠かせない歯車である。

 泣き崩れている暇はないのだ。


 生き物すべてが黙祷しているような夜だった。

 いつもはうるさい鈴虫の声すら聞こえない。

 村にはアリクイクイの死骸が残っている。

 奴らの体液に野生生物の警戒心を煽るようなにおいが含まれているのかもしれない。

 破壊された家屋に風が当たりぎぃぎぃと鳴っている音だけが聞こえた。


 幸いポークの家にアリクイクイが近づいた形跡はなかった。

 ウゴウゴの店舗を含めて一切破損がなく、以前と同じ環境で休んでいられる。


 圧迫感ある土壁の部屋の隅にライガードの作ったベッドが置いてある。

 干し草の上にシーツを被せたふかふかの寝床だ。

 ポークはそこでポニータと並んで寝ていた。

 夜通し森の中でポークを探し、その後はアリクイクイを一掃、さらには村人を保護して回ったのだ。

 常人であれば立ったまま気絶してもおかしくない。

 それを文句の一つも零さずやり遂げたのだから、一枚しかない毛布を巻きとって芋虫みたいに丸まっていることくらい許そう。

 隙間風が吹くと寒いが、雨に濡れたまま彷徨っていた昨日に比べればなんでもない。

 つくづく、家とは良いものだと思い知った。


 ライガードは寝ずに村の警備をしている。

 朝になればポニータと交代するらしい。

 落ち着くまでは家族で団欒はできそうにない。

 ポークも警備を手伝いたかったが、一緒にいても邪魔になるだけだ。

 今回の件で自分の無力さを嫌というほど痛感した。


「ねぇポーク、起きてる?」


 部屋の扉が開かれて、弱々しい灯りが揺れる。

 ココロがランプを手に持って入ってきた。あれはウゴウゴの商品である。

 緊急時なので文句は言えないが、遠慮なく使うとはさすがの度胸だ。


「起きてるよ。どうした?」

「ちょっと寒かったから。かける物余ってない?」

「見ての通りオレも寒い」

「ウゴウゴに在庫はないの?」

「村のみんなに配ったから。ごめん。我慢して」

「むー」


 ココロが不満そうに頬を膨らませた。

 現在、マックローネ一家はウゴウゴの店内で過ごしている。

 自宅が半壊しているため避難してきたのだ。

 修繕が完了するまでは同居のような状態になる。


「姉ちゃんの手、治ってるね」

「おばあちゃんに治してもらった」

「すげぇよなぁ。あの人、アリクイクイ倒したんだろ?」

「おばあちゃんはなんでもできるの!」


 ココロが自慢げに笑った。

 ランプを床に置き、小さな火に手をかざしている。

 ポークも隙間風にさらされているこの状態よりはマシかと思い、ココロの隣でランプを囲んだ。


「今日は大変だったな」

「昨日もだよ。あんたがいなくなったって聞いて、一睡もできなかったんだから」

「本当?」

「嘘。話盛った。心配だったけどちゃんと寝た。朝早くあんたを探しに行くためにね」

「それは本当?」

「失礼ね、人を嘘つきみたいに言わないで」


 ポークはなんだかおかしくなって吹き出した。

 ココロももうこれくらいでは怒らない。

 小さくても火を囲むと、気持ちまで暖かくなってくる。

 今ならなんでも話せそうな気がした。

 思えば夜中にポニータとライガード以外の人間と話したのは初めてだ。

 ココロが自分の家にいるのだ。

 本当の家族になったような気がして、不謹慎だとわかっていても嬉しくなった。

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