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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第五話 アリクイクイ(5/5)

 ココロの叫びを背中に浴びて、ポークは道なき道を走った。

 他にも多くの村人を見かけた。

 ある者はどこへともなく全力で疾走し、ある者は高い木をよじ登っていた。

 突如襲ってきた災厄に決まった対処法など存在しない。

 各々が生き残るために最善を尽くしていた。


 ココロの家の近くに着いた。

 木々の隙間から村を覗き見るとアリクイクイが四匹いるのが確認できた。

 そのうち三匹はココロの家の菜園の近くで頭を地面につけて何かを食べている。

 よく目を凝らしてみるとそれがアブリハムの死体だとわかった。


 猛烈な吐き気に襲われた。

 ポークはアブリハムが苦手だった。

 泥水を飲めと強要された日には彼が村から消えていなくなりますようにと星に願った。

 心のどこかで彼が死んでもかまわないと思っていたのだ。

 すると彼は本当に死んでしまった。殺したのは魔物であり、自分の願いとは無関係だとわかっているが、それでも加害者になった気がしてしまう。


「今はそれどころじゃない」


 ポークは自分の顔をばちんと叩いた。

 後悔や懺悔は暇なときにするものだ。

 過去ばかり見て今できることを疎かにすればそれこそ後悔するだろう。

 今は集中して目の前の状況を分析しなければならない。


 残り一匹のアリクイクイはココロの家の裏側の出窓に頭を突っ込んでいた。

 窓の木枠がしなってアリクイクイの頭部を絞めており、脚が盛んに動いているが外れる様子はない。

 一匹は身動きがとれず、三匹は食事中。

 もしココロの家族が中にいるならば、今が脱出のチャンスである。

 家の中からこの状況はわからないだろう。

 ポークが伝えに行く必要がある。


 ポークは死体に群がるアリクイクイに気づかれないように注意して歩いた。

 三匹を相手に逃げ切れるとは思っていない。

 隠れられる障害物もないため、気づかれたら終わりだ。

 靴が接地する度に緊張感が増していき、呼吸が荒れそうになるのを必死になって堪えた。


 そろそろと歩いたため時間はかかったがなんとかアリクイクイに見つかることなく家の前まで来た。

 静かに正面の扉を開けると、奥からばきばきと木材の割れる音が聞こえてきた。

 アリクイクイだろう。

 窓枠を完全に破壊して侵入したのかもしれない。


「誰かいない?」


 ポークはアリクイクイを刺激しないように控えめな声を出した。

 返事を待つがアリクイクイの動く音しかしない。

 家の中は特に変わった様子もなく、チキンスープの香りがわずかに残っていた。


「誰もいないの?」


 先ほどより大きめの声を出してみたがやはり人の気配はない。

 良かった。

 すでに避難していたようだ。

 よく考えてみれば魔物が窓から侵入しようとしているのに、呑気にその場に留まっているはずもない。

 完全に無駄足となってしまったがこれでポークも村を出られる。

 家に誰もいなかったと伝えればココロも安心できるだろう。


 ポークは外の様子を確認するため入ってきた扉に近づいた。

 するとなぜか触ってもいないのに扉が開く。


「びっくりした。誰かと思ったじゃない」


 そう言ってココロが入ってきたのだ。

 びっくりしたのはポークの方だ。


「どうやって来たんだよ。ナマハムは?」

「ちょっと目を離した隙に逃げたの。それよりあんた、あたしを勝手に置いていくなんて許さないんだから。後でぶん殴ってやるから覚悟しなさい。で、お母さんは?」


 ココロが奥へと続く扉を開けようとすると、アリクイクイが何かを壊す音が聞こえてきた。

 ポークは慌ててココロを止めた。


「呼びかけたけど返事がなかった。たぶん逃げたんだと思う」

「部屋は全部見た?」


 今すぐここを去りたかったが、見たとは答えられない。


「返事がないだけじゃ安心できない。ちゃんと自分の目で見てみないと」


 ココロが先導する形で静かに部屋を回ってみたがやはり誰もいなかった。

 いちばん奥のココロの部屋はアリクイクイがいるため扉の隙間から覗き見る。

 中は破れた本や棚、ベッドに詰まっていた藁などが散乱しており、アリクイクイの胴体の半分以上が窓より内側に入ってきていた。

 ばたばたと暴れるせいで家全体が振動している。


「良かった。お母さん、無事に逃げたんだ」

「やっぱり大丈夫だったじゃねぇか。オレたちもさっさと逃げよう」


 ポークは玄関の扉を少し開け、隙間から外を覗いてみた。

 死体に群がっていた三匹のアリクイクイのうち二匹がその場を離れている。

 新たな獲物を探しているのだろうか、動いたり止まったりを繰り返しながら畑の周辺を回っていた。


「最悪だ……これじゃもうここから出られない」

「何よ、あたしのせいだって言うの?」

「そうじゃないけどさぁ」


 ポークはため息をついた。

 外を歩けば森にたどり着く前にアリクイクイに見つかってしまうだろう。

 だが家に留まるのも安全ではない。


 地震のような大きな揺れがあった。

 奥の部屋のアリクイクイが暴れているのだ。

 土で塗り固められた壁が崩れ落ち、天井から埃が降ってきた。

 いつ家が崩壊するかわからない。


「これからどう動くか決めよう。姉ちゃん、意見をくれ」

「うん」

「このままじゃ屋根が落ちて生き埋めになるか、あのアリクイクイに食われて死ぬかだ。ここを出るしかない。森まで全力で走り抜けようと思うんだけど、それでいいか。それとも、草に隠れて這って進んだほうがいいかな」

「ふむふむ。やっぱりあんた馬鹿ね」

「ブヒャ?」


 変な声が出てしまった。

 ココロは偉そうに顎を上げて、ふんと鼻を鳴らした。


「ここにはあんたとあたしがいるの。ちょっとは頭を使いなさいよ」


 ココロはズボンの隙間に手を入れてごそごそと何かを探した。

 引き抜いた手にはジャガイモが握られている。


「川じゃ見られなかったからね。魚がとれるくらいのパワーとコントロールを今こそあたしに自慢してみせなさい」


 ココロの意図を読み取ったポークは「わかった」と返事をしてジャガイモを受け取った。


 ポークは昨日、生まれ持った怪力でココロを殴って傷つけた。

 あれはポークの過ちだった。

 ココロは以前、野菜の魔術で作った豆をポークにぶつけて火傷させた。

 あれはココロの過ちだった。

 もう二度と繰り返してはいけない。

 怪力も魔術も正しく使って、二人でこの窮地を切り抜けるのだ。

お読みいただきありがとうございます。

現在、公開中の最新話はここまでとなっております。

評価、感想など、お力添えいただければ幸いです。

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