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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第四章 ミザールで冒険!
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第十一話 導き(2/4)

「私はマクロポラピタに行くぞ。元々東アトラに渡るつもりだったしな。それに世界を救うだなんて冒険者として最高の誉れじゃないか」


 トリネラは雨上がりの晴天を眺めるようなすっきりとした顔をしている。

 彼女ならば迷いなく自分の道を駆け抜けるだろう。


「うーん、ぼくもちょっと考えちゃうなぁ。東アトラは遠すぎると思ってたけど……アトラ滅亡の危機と言われるとさすがにね。もしぼくの力が必要なら、世界のために役立てたい」


 ロビンも東アトラに興味を示している。

 いつかタルタンに行くと決めているロビンにとって東アトラは遠すぎる。

 それでも女神の呼びかけに応えようというのだ。

 やっぱりロビンは底なしにかっこいい。


 ポークはしばらく黙り込んだ。

 この盛り上がった雰囲気に水を差したくなかった。


 女神が何を言おうともポークの気持ちは変わらない。

 世界の危機はトリネラがなんとかしてくれるだろう。

 東アトラに行けばフォクスもいる。

 どんな事態だって解決できるはずだ。


「なぁ、ポーク」


 トリネラが優しく話しかけてきた。


「私は断離の長城を越える。きっとフォクスにも会えるだろう。息子が困っているから帰ってやれと言うのは簡単だ。だが私はやっぱり、お前が直接話すべきだと思う。私ではお前の中に渦巻いている複雑な感情を伝えきる自信がない」

「そりゃオレだって本当は自分で会いに行きたいよ。会って、脚を失くした母ちゃんがどれだけ大変な生活をしているか教えてやるんだ。それから、言ってやる。あんたはオレたちを捨てた最低の父親だって。ライガードは……最後まで母ちゃんを護ってくれたのに」

「そうか。お前はフォクスと喧嘩がしたいのだな。私は家族を持ったことがない。タルタンに生まれ、売られ、飼われ、殺し、妄想のドラゴンだけを心の拠り所にして旅をしながら生きてきた。だからよくわからんのだ。父親とはそんなに嫌いなのに会いたいものなのか」

「それは……もし父ちゃんがこれから母ちゃんのそばにいてくれるなら、許してやれるから……」

「ふむ。私に家族愛とやらはわからんが、こう見えて血みどろの恋愛は経験している。お前が父親を悪くいうのは、好きが故の嫌いというやつだな。まだどこか父親に期待しているんだ」

「わかんねぇけど……そうなのかも」

「やはり、私の口から伝えるには荷が重い。恨み言でも愛情表現でも直接ぶつけたほうがいい。ココロの話に乗るわけではないが、お前は旅に出るべきだ。あの女神が名指しで助けを求めてきたのだぞ。動機も能力もあって、会いたかった父親にも会える。これは一生に一度のチャンスだ」


 トリネラの横でココロがそうよそうよと同調する。

 ロビンは微笑みを浮かべたままこちらを見て、けれども干渉しないでいてくれている。


「ポーク、私はお前が欲しい。お前とココロとロビンが欲しい。もしお前が私の旅についてきてくれるのならば、私は今回の仕事の報酬をすべてポニータ・デリシアスのために使おう。お前がいなくても安心して暮らせるようにできることはなんでもする。お前の懸念はすべて晴らす。だから……私と来てくれないか」


 トリネラが右手を差し出した。

 こんなに熱烈なアプローチを受けたのは初めてだ。

 興奮して握り込んだ拳の中がじっとりと濡れている。


「トリネラ……お前、熱いな。激熱だ。もしこれが他の誘いなら、それがなんであれ受け入れちまったと思う。でも、さ」


 ポークは握りしめた自分の右手に左手を重ねて隠した。


「ごめん、無理だ。オレは弱い。母ちゃんから離れるのが怖いんだよ。たった一年離れていただけでライガードは死んで母ちゃんはあの有様だ。未だに王権隊に追われる夢を見る。きっと心の病気だと思う。治さなきゃいけないってわかってるけど……怖いんだ。世界がどうとかいわれても、どうしようもなく怖いんだよ」


 正直な気持ちを伝えた。

 トリネラはふっと息を吐くと、差し出した右手で額の汗を拭った。


「わかった。私からはもう言わん。だが気が変わったらいつでも言えよ。ミザールに戻って調査結果を報告するまで私たちは旅の仲間だ」

「ああ、ありがとう」


 ポークはトリネラの気遣いに感謝した。

 ココロは納得していないようで、舌打ちして睨んでくる。


「弱虫」

「姉ちゃんは別に行ってもいいんだぜ。母ちゃんの面倒はオレが見ておくから」

「あたしはね、あんたとチームなの。ロビンだってそう。一緒に冒険するって約束したから、今もこうしてマダガストにいるのよ」

「それは……ありがとう。でももう無理して付き合ってくれなくてもいいんだぜ。トリネラについていけば他の国でも宝石ハンターの仕事ができるんだ」

「全然わかってないんだから。前に言ったでしょ。あんたが隣にいないと、あたしはどれだけ凄い宝石を見つけたって嬉しくないの。あたしはあんたに自慢したいの!」

「姉ちゃん……」

「あんたが行かないならあたしも行かない。これは決定なんだからね」


 ココロは腕を組んで顔を背けた。

 ココロが自由になることを願っているはずなのに、ポークはどこかほっとした。

 本当は母と同じくらい、この不器用な姉と離れたくないのだ。


「そうだね。今後についてはぼくもとりあえず保留しておく。ただ、リリアの話していた滅亡の危機がどういうものなのかが気になる。サムソンの時代から問題を抱えていたとしたらそんなにすぐに何かが起こるとは思えないけど……もし何か予兆があれば、ぼくは旅に出るよ。トリネラを追う形になるのかな」


 ロビンはトリネラに向かって微笑んだ。

 全方位に気を遣うところがロビンらしい。

 トリネラもふふっと笑い返す。


「なんだ、ロビン。すぐに来てくれてもいいんだぞ。もしかして私と二人きりが嫌なのか」

「まさか、そんなはずないだろう。ぼくはポークやココロと一緒にいたいだけだ。それにもしかしたら、ぼくが隣にいることでポークの気が変わるかもしれない。もしそうなったらぼくは最速最短でトリネラを探し出すよ。だからトリネラは気の向くままに冒険を続けてくれ」

「ふん。お前は本当に優しい奴だな」


 トリネラがロビンの髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱した。

 トリネラ流の愛情表現だろう。


「よし、まずは残りの部屋の探索だ。それが終わったら製図と地質調査を行う。後々、協会が調査隊を雇うだろうから報告書の資料として添付できる程度でいい。製図はロビンとポーク、地質調査は私とココロで行う。二日以内に終わらせるつもりでやるぞ」


 トリネラが階段を上がっていく。

 探索の再開だ。


 回廊を一周して各部屋を簡単に調べてみたがヤマタノカメサンの他に魔物はおらず、古代の遺物も見つからなかった。

 そこら中に積まれた岩に価値ある鉱石が混じっているかもしれないが、量が膨大で調べきれない。

 石の回収は後の調査隊に任せるとして、ポークは製図の作業にとりかかった。


 製図用の紙を地面に広げ、遺跡の内部構造を定規と鉛筆で図にしていく。

 白魔晶のあった地下室やヤマタノカメサンの眠っていた穴などもしっかり書き込み、実際に遺跡を歩いてミスがないかを確認した。

 地味な作業だが、後にこの遺跡に来るであろう冒険者のことを考えると頑張ろうという気になれた。

 こんなに精細な見取り図が描けるポーク・カリーは優秀な探検家だと、そう思って欲しかった。


 製図と地質調査が終わると四人で協会に提出する報告書をまとめた。

 当初はトリネラひとりの名前で提出する予定だったのだが、遺跡攻略の栄誉は平等に受けたいというので、四人の連名で出すことになった。

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