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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第四章 ミザールで冒険!
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第十話 古代遺跡探検隊(3/8)

 廊下に戻り、探索を再開する。


 四人は先ほどと同じく右回りに廊下を進んでいく。

 先を見ると右手側にいくつも部屋が連なっている。

 何かお宝はないかと一部屋ずつ覗いていくが、砂や岩石が積んであるだけでこれといったものは何もない。

 しばらく廊下を歩いていくと突き当りに到達する。

 そこは左折できるようになっていた。

 先を見るとまた右手側にだけ同じような部屋が連なっているのがわかる。


「構造的には回廊かな」


 ポークはそう予想した。

 左手側には継ぎ目のない頑固石の壁が続いているだけで今のところ入り口らしきものはない。


「せめて階段が見つかれば気が楽なのだがな」


 前を歩くトリネラは振り返らずに話す。


「なんで階段?」

「単純に探索できる場所が増える。それに、深い場所には価値あるお宝が眠っていることが多いんだ。アトラチウムとかな」

「そうなんだ」

「未発見の遺跡というのは一万年前の大災害から完全に手つかずなものと、その後人類に使われていたがいつの間にか存在を忘れ去られたものに分類される。この遺跡はおそらく後者で、完全な手つかずではない。壺の一つも見当たらないからな。記録に残っていない時代に持ち出されたんだろう。そうなると当時の人々の手が入っていない深い階層まで潜らなければ、お宝は出ない」

「この遺跡が昔の人に荒らされた後だとして、古代の遺物がまだ残っているなんてあり得るのか?」

「いくつも階段を下るような深い遺跡の場合、途中に強い魔物がいるとそこより先には進めないだろう。そういう理由で攻略が大変な遺跡ほど多くのお宝が残っていると聞く。ただこの遺跡は山の中に掘ったものだ。大して深いとは思えんな」

「今まで最も深かった遺跡って地下どれくらいまで階層があったんだ?」

「地下百階だな」

「マジかよ」

「広大で魔物も出る大迷宮だ。食糧事情なんかもあって、踏破には一年近くかかったそうだ。ほんの十年くらい前の話だぞ」

「そこでお宝は手に入ったのか?」

「アトラチウムの剣が見つかったと聞いている。しかも二本だ」

「すげぇな。どんな剣だ」

「知らん。持ち主はもう西アトラにいないからな。ただその剣はそれぞれ聖剣と邪剣と呼ばれていた」

「もういないって、もしかして……フォクス?」

「なんだ知っていたか。あれも優秀な探険家だったが、断離の長城に挑んでから音沙汰がない。生きていれば良いのだが」


 トリネラは廊下を進んでいく。

 一つずつ部屋に入って探索するが収穫は何もない。

 どの部屋も岩や砂ばかりで、あとはぼろぼろになったシャベルや杭などの金属片が落ちているくらいだ。


 ポークはこんな緊張感のある場所で探索と関係のない話を続けていいものか悩んだが、我慢できず聞いてみた。


「トリネラってフォクスに会ったことあるの?」

「魔物討伐の仕事で一緒になってな、戦っているのを見たことがある。桁外れの実力だぞ。私たち四人でかかっていっても手も足も出ないだろうな」

「やっぱりすげぇんだな、父ちゃん……」

「父ちゃん?」


 トリネラの足が止まった。

 ポークは話に夢中で歩き続け、トリネラにぶつかってしまった。

 後ろからココロも衝突してきて、挟まれたポークは「ブヒィ」と変な声が出てしまう。

 まだ探険中だというのに、トリネラは振り返る。


「父ちゃん、とはどういう意味だ」

「あー、うー、そのー、うー」

「ココロが苦し紛れの嘘をつくときみたいな口調になってるぞ。言いたくないなら無理に話さないでいい」


 動揺して目が泳いでしまう。

 後ろから「あたし嘘ついたことないし!」と大嘘が飛んできたが反応する余裕はない。

 しばらく黙っているとポークに代わってロビンがトリネラに声をかける。


「ぼくがポークに口止めしていたんだ。身の安全にかかわることだから他人には話すなって。ごめんね」

「かまわん。ならば聞かないでおこう」

「いいや、トリネラ、君は仲間だ。ぼくたちを信頼してここまで連れてきてくれた。隠し事は失礼だ。ポークが良ければだけど……ぼくたちの秘密、話すよ。どうしてぼくたちがドリアンじゃなくマダガストで冒険者をやっているのか知りたいだろう」


 トリネラは深く聞こうとしない。

 ポークを気遣ってくれている。

 実際、いくらでもごまかす方法はあった。

 父親は有名人のあの人なのよと子に話し目標に据えて教育に役立てるシングルマザーなんてそう珍しくはないし、それが事実かどうか調べるほどトリネラは野暮ではない。

 ポークはただ母がそう言っていたとだけ話せば良かった。


 けれども、ポークはすべて話すことを決意した。

 まだ出会って日は浅いが、彼女が信頼に足る人間だとポークは知っている。

 冒険者協会のエリートで、ドラゴンにしか興味がなくて、だからこそポークたちをドリアン王国に売ったりしない。


 ポークは遺跡の探索を続けながら、フォクスとドリアン王家の関係からアリュカトレイズの襲撃まで包み隠さず話した。

 背中で聞いていたトリネラは左に続く曲がり角まで廊下を進むと、先に魔物がいないことを確認して立ち止まった。

 ロビンが角で弓を構えて一時的に安全な時間をつくる。


「頑張ったな」


 トリネラは表情を変えず、しかしこれまでのポークの人生を労ってくれた。

 まだ探検中だというのにしっかりとポークに顔を向き合わせてくれている。


「ポニータ・デリシアスが反乱準備の罪で捕らわれたときからおかしいとは思っていたが、やはり裏があったのか。あの厳重な監獄からよく逃がした。彼女は協会に多大な功績を残した冒険者だ。クソ以下の国王が退位するまでドリアンには近づかせるな」

「母ちゃんも知ってるんだ」

「あれは良い冒険者だった。金ではなくロマンを求めて世界中を探険していた。双剣のフォクス、アシナガバチのポニータ、錯乱獣マードック、閃光の魔術師ラマ。四人は当時、驚異の新人として世界中の話題になっていた。私も歯軋りして活躍を羨んだものだ。彼らが見つけた遺跡のうちたった一つでも見つけていれば、今ごろ私は断離の長城を越えてドラゴンに会えていたのかもしれないからな」

「母ちゃんもトリネラを知ってたよ。憧れてたって言ってた。自由奔放で強くって、魅力的な冒険者だったって。オレもそう思う。きっとトリネラなら……断離の長城も越えられるはずだ」

「そうか、そうなったらいいな」


 トリネラはふっと息を吐き、よく見ていなければわからないくらい微かに口元を笑ませた。


「もし、さ」

「ん」

「もし向こうで父ちゃんに会ったらさ、どうにかしてオレたちに顔を見せに来てくれって伝えてくれ。母ちゃんさ、作り笑いをしてるけど本当は辛いはずなんだ。脚がないんだぜ。歩けないんだぜ。二度と冒険できないんだぜ。なのに父ちゃんは……自分だけ好き勝手冒険して……オレの顔も知らないんだ。そんなの、駄目だろ。冒険者としていくら優秀でも……父親としては失格だろ。だから殴ってやる。母ちゃんがどんな気持ちで生きているか思い知らせてやりたいんだ」


 本音も本音。

 ロビンやココロの前でも出せなかった恨み言がここぞとばかりに出てきた。

 ポークはずっとフォクスに憧れていた。

 しかしポニータが脚を失い、育ての親であるライガードが死んでしまった今、無責任な男に思えて仕方なかった。

 もしフォクスがポニータのそばにいてくれたなら王権隊だって撃退できたはずだ。

 あの男は自分が冒険したいがために妻と子を捨てたのだ。


「フォクスはどうしてお前とポニータ・デリシアスを置いていったんだろうな。私が見たあの男はとても仲間想いで、仕事のときも率先して危険な魔物と戦っていた。とても妊娠したパートナーを放っておくような男には見えなかった」

「母ちゃんは父ちゃんがいない間に黙って宿を出ていったんだって。父ちゃんはドリアンに来られないから、そこで別れたっきりだ」

「それでも私には信じられん。あの男はなんというか……けっこうな無茶をする。本気で家族のためを思えば危険を顧みず国境すら越えるはずだ」

「でも父ちゃんはオレたちに会いに来なかった。父ちゃんにとってオレたちは……その程度の存在なんだよ」

「わかった。どんな理由であれ今お前たちが辛い思いをしているのなら、それをフォクスに伝えておく。だができれば私からじゃなく……」

「なんだ?」

「いや、やめておこう。まずはここの攻略だ。クソ遺跡っぽいがせめて何か見つけよう。金さえ入ればお前の母親も少しは楽な暮らしができるはずだ」


 トリネラは見張りをしていたロビンに礼を言うと、角を曲がり廊下を進む。

 ポークはまだまだ言い足りない不満をぐっと呑み込み彼女を追った。

 魔物の気配がないとはいえ、今は探検の最中だ。

 続きは後で話せばいい。

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