第九話 遺跡を探してゴーゴーゴー(5/5)
ミザールに来ておよそ二年。
その間ロビンとココロはずっとポークに寄り添ってくれた。
彼らには彼らの人生があるはずなのに、今もミザールで冒険者をしてくれている。
ココロはライチェ村に家族がいる。
本当は顔を見せに戻りたいはずだ。
ロビンも第一ドリアニアに戻れるはずだし、ザンギャクやシャバクネーゼとの繋がりを得た今、タルタンにだっていつでも行ける。
それでも彼らがポークから離れないのには理由がある。
魔学舎に通っていた頃に、一緒に冒険しようと固い約束を交わしたからだ。
ポークは母の介護のためにミザールを離れられず、ロビンとココロはポークとの約束があるからポークから離れない。
近いうちにこの歪んだ関係を解消しなければならないとポークは理解している。
約束と称した束縛からロビンとココロを解放するのだ。
彼らに今後の心配をさせないためにも、今回の探検で大金を稼がなければならない。
地盤のしっかりした岩場を黙々と進んでいくと、派手な落石の跡を見つけた。
左手側には切り立った岩壁があり、上から崩落してきたものと思われる。
「ふむ、これは調べてみたほうが良さそうだな」
トリネラはポークからロープを受け取ると、肩に担いで浮いていく。
崖の中腹に足場があったようで、着地してロープを垂らした。
ポークがロープで崖を登ると、そこは地盤の平らな広場となっており、さらに上から降ってきたと思われる石が岩壁近くに積もっていた。
下から見たときにはわからなかったが、ここは山を迂回するための近道になっているようだ。
高さがあるため多少危険だが急いで山を越えたい旅人ならばここを通るかもしれない。
「お、南回りで当たりっぽいね。良かった」
ロビンが嬉しそうにするのでポークは目を凝らしたが、遺跡らしきものは見つからない。
「なんでここが当たりだってわかる?」
「いや、別に確信してるわけじゃないよ。でもこの土砂をどかせば入り口があるかもしれない。というわけでポーク、頼んだよ」
「力仕事は任せとけ……ていいたいけど、その前に説明しろよ」
「たぶん今回探している遺跡は数百年、数千年前、もしくは大災害のときに入り口が埋まったものだと思う。それが最近、雨や土砂崩れで地形が変わって見えるようになった。そう考えれば比較的人里に近いこの場所で新しい遺跡が見つかっても不思議じゃないでしょ」
「ああ、たしかに。普通に人が通りそうなこんな山に未発見の遺跡があるっておかしいもんな」
「それに今回探している遺跡は情報屋に売られたものでしょ。ぼくが遺跡の位置情報を売るとしたら他の人に見つからないよう、入り口を隠しておくよ」
「そう言われるとなんか不自然に岩が積んである気がする。ちょっと待ってろ」
ポークはリュックを下ろして袖を捲り、大きな石から順番に動かしていった。
もし崖の下に人がいたら大変なことになるので、落とさないように注意しながら近くに石を積んでいく。
「おっ」
積み上げた石がポークの身長を超えた頃、小さな空洞が見つかった。
掻き出すように周囲の石をどけていくと、それがただの隙間ではなく深い洞窟だとわかる。
中の空気は湿っていて、鍾乳石が天井から地面まで伸びている。
「すげーな、ほんとにあったぞ」
人が余裕で通れるくらいの大きさまで穴を広げるとポークは洞窟内に侵入した。
「奥は見えるかい」
洞窟の外からロビンが聞いてくる。
「駄目だ、まったく見えねぇ」
「においは?」
「湿気はひでーけど、ガスはないと思うぜ。松明でいける」
「了解、念のために換気するね。壁に寄って」
ポークが手探りで岩壁に背を寄せると、ロビンの魔術で大風を起こり、外から新鮮な空気が入り込んでくる。
「この感じだと奥はどこにも繋がってないね」
風魔術を止めたロビンが洞窟内部に入ってきた。
空気が吹き抜けていく感触がないようだ。
古代遺跡が奥にある可能性がぐっと高まる。
「火、つけるよ」
ココロは洞窟に入ってくると新品の松明に火を点けた。
外に置いてあったポークのリュックが押し込まれ、その後トリネラも入ってくる。
斧が大きすぎて通す角度に苦労していた。
「行くぞ。最大限に注意しろ」
斧を構えたトリネラを先頭に感覚を研ぎ澄ませて進む。
遺跡情報を売った人もここを通ったはずなのでわかりやすい危険はないと思うが、遺跡探検は初めてなのだ、慎重すぎるくらいでちょうどいい。
ココロの持った松明の火を頼りに毒蛇や縦穴を警戒して歩いた。
緩やかに右に曲がり、左に曲がり、また緩やかな右曲がりの道を進むと、奥から松明以外の明かりが見えてくる。
艶のある石の壁や床が天井からの光を反射して眩いばかりに存在を主張している。
「あった……やったぞ」
トリネラが斧を下ろして立ち止まった。
洞窟は途中から線引きしたように頑固石の床や壁に変わっている。
天井に埋め込まれた暖色に光る石はアリュカトレイズで見た覚えがある。
半永久的に光り続けるという古代の魔道具だ。
長い旅路を経てついにポークは憧れの古代遺跡を発見したのだ。




