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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第五話 アリクイクイ(2/5)

「そのへん脆いから、転ぶなよ」


 川辺の石の上は歩きにくいため、ポークは少し離れた土の上へ移動した。

 水を飲みいくらか体力が戻ったようで、ココロも遅れずついてくる。

 川を目視できる距離を保ちながらポークは歩いていった。

 昨晩、枯葉の中で寝ていたせいか腰が痛い。魔物との死闘よりも枯葉で休んでいたことのほうが身体に痛みを残しているのだから、まったく人体とは不思議なものである。

 

 途中で何度か休憩を挟みながら、ポークたちは順調に川沿いを進んでいった。

 昨日大喧嘩したとは思えないほど会話が弾む。

 特にココロはよく喋った。

 サキの治癒魔術が頭に回っておかしくなったんじゃないかと疑ったほどだ。

 ポークの少し後ろを歩くココロはちょうどいい大きさの石を見つけると蹴飛ばし、ポークにぶつけてきた。


「ふふふ、ごめんね」

「気をつけろよ」

「やっぱり許してくれた。ありがとう、ポーク」


 ココロは何度もポークにちょっかいを出し、にやついた顔で謝ってくる。

 どんな心境の変化があったのかわからないがちゃんと謝ってくるココロを見て、ポークは嬉しく思った。


「あれ、あそこ、あの石。夏にライガードが洗濯物を乾かしたやつじゃないか」

「ほんと? みんな同じに見える」

「姉ちゃん、水汲み来ないもんな。オレは覚えてる。ここはいつもの水汲み場だ」


 ついに目的の地形を発見した。

 これで村に着いたも同然だ。

 ポークはいつも目印にしている三本並んだ大木から林道に入った。

 今まで歩いてきた密度の濃い森の中と違い、人の力で拓かれた切り株の並ぶ道は文明の香りがした。


「助かったーって感じするね」


 ポークの心を読んだようにココロが言った。

 顔に出ていたのかもしれない。


「帰ったら村のみんなに謝らないと。仕事止めてまで探してくれたんだよな。うう、ほんとに迷惑かけすぎた」

「大丈夫。もし怖いなら、一緒に謝ってあげる」

「マジかよ。それならもし母ちゃんが怒鳴ってきたらなだめて。母ちゃん、姉ちゃんには甘いからさ」

「任しといて!」


 ココロが自分の胸をぽんと叩いた。

 その火傷した右手を見て、村に着いたら治療のためサキのところに連れていかれるんだろうな、と思ったが、ポークを助けてくれようとするその気遣いが嬉しかった。


 村への道のりを半分ほど歩くと休みやすそうな切り株を見つけたのでココロを座らせた。

 疲れただろ、と休憩を促したがそれは建前で、村に戻る前に気持ちの整理がしたかった。

 どうやって謝れば良いか相談していると、何かを思い出したようでココロが急に話題を変えた。


「そういえばポークはどうやって森に入ったの?」

「どうやってって、普通に。姉ちゃんと喧嘩した後、炭工場に行ったんだけど、ライガードと顔を合わせたくなくて森に入った」

「あそこにクヌギの木があったじゃない。あんた、そこでおならした?」

「覚えてるはずねぇだろ」

「すんごい臭かったんだよね、そこ。だからポークが屁をこすりつけたんじゃないかと」

「屁をこすりつける……そんなことできるなら今頃、屁の魔術師を名乗ってるよ」

「だよねぇ。なんかにおいの質が違ったし、なんだったんだろうなぁ」


 ココロが腕を組んでうーんと唸った。

 村を出る前、森の入り口にクヌギの木があったことは覚えている。

 近くに落ちているどんぐりがナマハムに食べさせられたものと同じだったので嫌な気持ちになったのだ。

 だがポークが森に入ったとき、特別なにおいがした記憶はない。


「気になるなら今度調べてみようか」

「いいよ面倒くさい。どうせ酔っ払いが吐いたとかでしょ。あんたの屁なら面白かったのに」

「面白いか、それ」


 どうでもいい雑談が始まりそうだったので、ポークは休憩を終えて歩き出した。

 いつの間にか足元の影が長くなっていた。

 ライガードとポニータは今どこにいるのだろうか。

 村に戻って二人ともいなかったら誰に謝って良いかわからない。

 勝手に家を抜け出して遭難したココロも家族から叱られるはずなので、そこについていこうか。

 サキは歯に衣着せぬ言い方でポークを罵倒するだろうが、それはポークの望むものだ。

 アルノマだから仕方がない、と寛容で差別的な対応をされてしまうと犯した罪を贖えない。

 罰を受けて、自分を許してあげたかった。


「あれ、どうしたんだろ」


 地面を見て歩いていたポークだが、ココロの声で顔を上げた。

 木と木の隙間、村の方角から黒い煙があがっている。

 生木を燃やしたときに出るものだ。


「たぶん狼煙だ。オレたちに村の場所を教えてくれてるのかも」

「でも、おかしくない? 煙の量が多すぎる」

「ほんとだ」

「あれじゃ、まるで……」


 はっとして顔を見合わせた。

 あれは一年ほど前、村のはずれで起きた火事の煙に似ていた。

 燃え盛る家屋を遠目で見て怯えていたのを覚えている。

 あのときと同じ掴めそうなほど濃い煙がはるか遠くまで膨れていく。


「何かあったのかも。急ごう」


 ポークは歩く速度を上げた。

 ココロが疲労していなければ全力で走っていただろう。

 不穏だった。

 ポニータとライガードが不在の今、もしウゴウゴから火が出ていたら全焼は免れないだろう。

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