第六話 キオチル山脈(3/6)
出発当日、支部前に集まった冒険者の質は想像をはるかに下回っていた。
自ら選別した隊員十名を見た支部長は満足そうにはしゃいでいたが、その後ろで受付のお姉さんが唾でも吐き捨てそうな軽蔑の眼差しを浮かべている。
ポークの気持ちはおそらくお姉さんに近い。
「なんでガキが隊長なんだ」
「そうだそうだー!」
「お守りさせんなら報酬増やせや」
「そうだそうだー!」
小汚い格好をした冒険者たちがブーイングを合唱する。
中には堂々と酒を飲んでいる者もいる。
これが登録冒険者の上澄みだというのだからミザール支部は恐ろしい。
「みなさん、静まってください」
ロビンが優しく言うが、彼らは聞く耳を持っていない。
どんどん要求はエスカレートしていく。
「俺に隊長をさせろー」
「そうだそうだー!」
「豚は豚小屋に帰れー!」
「そうだそう……痛ぁ!」
ココロの蔓の鞭が太った中年冒険者の肩を打った。
服が破れる寸前くらいの力を込めている。
「コーちゃん、暴力は駄目でしょ!」
支部長が言ってもココロは聞かない。
口を開いた冒険者を鞭で次々と叩きまくる。
「何すんだこの……痛ぁ!」
「やめ……痛ぁ!」
「痛ぁ!」
痛みに転げ回る者もいるが、ロビンは黙認している。
支部長には悪いが、適材適所という考えもある。
文句しか言わない冒険者をまとめるには飴と鞭が必要で、ポークとロビンでは飴と飴なのだ。
「あんたらどうせ荷運びくらいしかできないんだから、黙ってロビンに従いなさいよ」
「ふざけんな、俺は何十年もキャリアを積んだベテランだぞ。ガキより……痛ぁ!」
「支部長がロビンを隊長って決めたの。ちゃんと隊長って呼びなさい。あんた平隊員でしょ。偉そうにしないでよ」
「お前も平隊員じゃん……痛ぁ! わかった、ロビン隊長な、わかったから」
ポークは冒険者たちの身のこなしをチェックしていたが、手加減しているはずの鞭の動きすらまったく見えていなかった。
よくこれまで生きてこられたものだと感心する。
「なぁロビン」
「うん、わかってる。ここまでとは思わなかった。用意したプラン全部白紙だね」
「夜の見張りも任せられねぇな」
「ぼくたちで交代だね。ココロの身も守ったほうがいいかも。恨み買ったし」
どこで噂になったのか足くさ女と罵られ、ココロが鞭を振り回した。
砂煙が起こるほどの大暴れだ。
他の冒険者が弱すぎてまるで勝負になっていない。
さすがにポークも文句を言いたくなって、支部長に詰め寄った。
「これ、ちゃんと選別したのかよ」
「したわよ。みんな良い子たちよ」
「どこがだよ。あと良い子とかいうな。加齢臭むんむんのおっさんしかいねぇじゃねぇか」
「真夜中にむくりと起きて無表情で人をめった刺しにするような奴らはちゃんと排除しておいたわ。話せばわかる子ばっかりよ」
「具体的すぎねぇか。その犯罪者ちゃんと街から追放しろよ」
「それじゃ、チームポコロ、グッドラック!」
支部長はそそくさと建物の中に逃げていった。
受付のお姉さんはいつの間にか姿を消している。
残ったのは豚と足くさ女とイケメン、そして加齢臭を放つおっさん集団のみである。
調査の旅を始める前から失敗が確定している気がした。




