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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第一章 ライチェ村で冒険!
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第五話 アリクイクイ(1/5)

 モモモ森林には特徴的な地形がなく地元の木こりですら道に迷うことがある。

 来た道を戻れるか若干不安だったが、見覚えのある木を辿っていくと、昨晩ポークか根城にしていた崖の岩肌を見つけた。

 川から近いので水の心配もいらず、反るように切り立った岩肌は落盤の危険はあるが雨を防げる。

 昨日、この場所を見つけられなかったらポークは死んでいたかもしれない。


 昨日の夜はとにかく寒かった。

 気温は低くなかったが雨で服が濡れていたのだ。

 このままでは死んでしまうとまで思ったが、この岩肌が落ち葉の吹き溜まりになっていたおかげで山になった枯葉や枝を天然の寝床として活用できた。

 蟻やダンゴムシなどがわさわさと動いていたが、もしかしたら虫にも体温があるのではないかと錯覚するほど温かかった。

 朝になり山菜を探しに出たがどれが食べられるものかわからず、母のように野鳥でも狩ろうと投石の練習をしていたところ、ココロの爆発イモの音を聞いたのだ。


「へえ、いい場所じゃない。心配して損した。ご飯さえあれば普通に暮らせそう」


 後ろからついてきたココロが近くの岩に腰を落とした。

 きょろきょろと周囲を探っている。昨晩獲ってきた川魚を見つけたようだ。

 一口だけ食べてみたが気持ち悪くなって捨てたものだ。


「あんたそれ、生で食べたの?」

「だって火がないし。でも不味かったから捨てた」

「火も通さないで食べるなんて馬鹿じゃないの。おばあちゃんが言ってたよ。怪我よりも病気よりも寄生虫が怖いって。治癒魔術で治せないから」

「寄生虫ってなんだ」

「人の身体の中で育つ虫だよ。魚を焼かないで食べたら、お腹の中で育っちゃうんだから。大きくなった虫がおへそを破ってぷしゃーって出てくるんだよ。ご愁傷さま。ポーク、あんたもう死んだね」

「ママママママジかよ」


 腹部に痒みが走った。

 虫はどこにいる。

 服をめくってへその周辺に爪を立てた。

 力任せに掻いていると、それを見てココロがくすくすと笑った。


「馬っ鹿じゃないの。よほど運が悪くないと魚一匹くらいじゃ当たらないって」

「へそを食い破ってこない?」

「アグレッシブすぎるでしょ。宿主殺す虫とかもう寄生してる意味ないよね」


 よく考えればそんな虫の魔物のような生物がいたら食べている間に気づきそうだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。


「それで、川はどこにあるの?」

「すぐ近くだ。そこの木の先が段差になってて、下っていけば見える」


 ポークが先導して歩き出すとココロはおとなしくついてきた。


 昨日、ココロと喧嘩別れして森に逃げ込んだポークは目的もなく歩いているうちに運良く川に行き着いた。

 いつも水を汲んでいる場所ではなかったが、転がる石の形や水の味などから同じ川だと思われる。

 上り道を多く進んできたため、おそらくはいつも水を汲んでいる場所よりも上流だろう。

 つまりその川沿いを下っていけば知っている場所に行き着くはずなのだ。


「わぁ、冷たい!」


 夏の間は心地よかった水音も、今は寒々しく思える。

 昨日の雨の影響か川の流れはとても激しくそこら中で水しぶきがあがっている。

 足を突っ込んだら堪えきれず流されてしまいそうだ。


 よほど喉が乾いていたのだろう、ココロは本流から離れた水溜まりに口を寄せて直接水を飲んだ。

 ポークも喉が乾いていたので両手で水をすくってみる。

 水は砂一粒混じらず澄んでおり、一口飲むと全身の疲労が和らいだ気がした。


「そういえば、昨日はどうやって魚とったの?」

「石、ぶん投げた」

「なんで石を投げて魚がとれるの」

「わかんないけど、本気で投げたら魚が浮いてきたんだ。見てて」


 ポークは昨晩と同じように、人の頭ほどの丸い石を手に持った。

 投げようとして構えると、ココロに頭を叩かれた。


「お魚がかわいそうでしょ。食べない生き物を獲ったりしたらいつか食べ物がなくなっちゃうよ」

「食えばいいんだろ」

「だから生は駄目だって」

「でもオレ、本当に石で魚採ったんだ」

「わかったわかった。疑ってないから」


 ポークは石を地面に捨てた。

 格好良いところを見せたかったのだが空回りしてしまったようだ。


「ライガードがいればなぁ。火の魔術で焼いてくれるのに」

「あんたが覚えればいいじゃない。字は覚えられたんだし、次は魔術の勉強しなさいよ」

「魔術かぁ。できるようになるのかな、オレ」

「この天才魔術師、ココロ・マックローネと比べたらゴミみたいな才能だと思うけど、まったく覚えられない人は珍しいみたいだから大丈夫じゃない?」


 火を起こせないというのはサバイバル環境下において致命的である。

 これからどう生きていくにせよ、基礎魔術は習得しておいたほうが良さそうだ。


「魔術の授業をしてもらえるように今度ライガードに相談してみるよ。その前にボコボコにされるかもしれないけど」


 ライガードの言いつけを破りポークは暴力に手を染めた。

 その上、怖くなって村を逃げ出したのだ。普段温厚なライガードだが簡単に許してはくれないだろう。

 けれど、どんなことをしてでも許しを乞う覚悟はできている。

 まずは帰り、そして謝る。それからだ。


「まだ疲れはあるだろうけど、ここからいつもの水汲み場所までどれだけ離れているかわからない。ゆっくりでいいから歩こうぜ」

「えー、あたしもうくたくた」

「姉ちゃんだって夜までに帰りたいだろ」


 彼女を姉と呼ぶのはまだ気恥ずかしいが、すぐに慣れそうだ。


 家族という関係性にポークは絶対的な信頼を置いている。

 ポークにとってウゴウゴは家で、一緒に生活する人は家族だった。

 実の父親でないライガードが家族であるように、血は重要ではないのだ。

 改めて思えば勉強を教えてくれるようになったあの日からずっとココロは気を遣わずになんでも話せる姉だったのかもしれない。

 そう自覚した今、ポークにとってココロは真っ暗な夜道を照らす満月のように心強い存在となった。

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