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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第四章 ミザールで冒険!
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第二話 メモリーズオブポニータ・その二(5/6)

「サムソンが偉業を成すことになったきっかけ、それは世にも珍しい、白魔晶の遺跡を発見したことに他ならない。なんの特性もなく、ただ白い魔晶が台座に置かれているだけの小さな遺跡だったという。だがその白い魔晶こそが失われた通信魔術の媒体だった。サムソンは白魔晶を通してアトラ神話教の女神リリアから、絶滅の危機に瀕したドラゴンを救うように啓示を受けたんだ。こうしてサムソンは断離の長城に挑む決心をした。幼い頃から崇拝してきた神様が自分に助けを求めてきたんだ、断るわけにはいかねぇさ」

「でも、どこまで真実なのかは疑問よね。サムソンが啓示を受けた後、白魔晶は壊れてしまって、以来女神の声を聞いた人はいないんでしょう」

「そうそう。でも女神リリアはいると思うぜ。白魔晶の遺跡が他に見つかってないだけだ」

「あー、フォクス、もしかしてここが白魔晶の遺跡じゃないかって期待してたの?」

「ああ。いい機会だから話しておくか。これは憶測なんだが……」


 フォクスは剣の柄に手を乗せたまま洞窟内をぐるぐると歩き回った。

 目の前の遺跡よりも話に熱中してしまっている。

 話が長くなりそうなので、ポニータはリュックを担いで壁面に寄っかかった。

 遺跡に侵入する前から疲れるわけにはいかない。


「サムソンが断離の長城を越えてからもうすぐ二百年も経つというのに、未だ他に攻略者がいない。冒険者協会が挑戦者を絞っているのもあるが、それにしたってあのレイモンド・エスペルランスが戻ってこなかったのはおかしい。だから俺は思うんだ。断離の長城は攻略不可能なんじゃないかって。現に煉獄のような絶対死の遺跡もある」


 フォクスが遺跡の前で立ち止まると、マードックはその背中に疑問をぶつける。


「だったらサムソンはどうやって東アトラに行ったってんだ。断離の長城を避けて……空や海から向こう側に渡ったとでもいうのかよ」

「そうじゃない。話はもっと単純で、おそらくサムソンは断離の長城の攻略方法を知っていたんだ。数多の挑戦者のうちリリアに招かれていたのはサムソンだけだからな。遺跡特性の詳細か、攻略に必要な鍵か、そういうものを啓示の際にリリアから聞いたんだと思う。俺は東アトラに行くために、まず白魔晶の遺跡を見つけてリリアと話したい。だってさ、全冒険者の夢だろう、東アトラに行って、ドラゴンの背に乗るのは」


 フォクスが後ろを振り返ると、洞窟内はしんと静まった。

 簡単そうに話しているが、女神リリアと話そうだなんて非現実的すぎる。

 そのくせ真剣なもんだから、愛想笑いもできない。


 フォーズ、マダガスト、ドリアン。三大国の領内で発見された古代遺跡は現在までに百箇所を超えている。

 けれども白い魔晶を見ることができたのはサムソンたった一人だけだ。

 考古学者の間では、同種の遺跡は残っていないのではないかとまでいわれている。

 よほど運に愛されていなければ発見できないはずだ。


「それを私たちに話したってことは、つまり、手伝ってほしいんだよね。白魔晶の遺跡探し」


 ポニータは静寂を破った。

 彼が常識の枠に囚われるいわゆる普通の男だったならばポニータはここにはいない。

 だから今さら何を言われても驚かない。


「ああ。何年、何十年かかるかわかんないけど、お前らと一緒なら見つかる気がする。それと、ゴールは白魔晶の遺跡じゃねぇぞ。東アトラだ。四人で断離の長城を越える」

「おもしれぇ!」


 まずマードックが返事をした。

 遅れて「何十年……」とポニータ。

 ラマは何も答えなかった。

 フォクスは子どもみたいな笑顔で「頼りにしてるぜ」とマードックの肩を叩いた。

 続いて肩を叩かれそうになったポニータだが、一歩下がって避ける。


「大きな目標を掲げるのは良いと思うわ。この旅も楽しかったし、私には探検家の適性があると思う。でも、私やラマは何十年もこんなことやらないからね。白魔晶の遺跡を探すなら、若いうちにしてよ」

「なんでだよ。冒険すんの楽しいじゃんか」

「冒険は人生のすべてじゃないの。ね、ラマ」


 ラマに話を振ると、彼女は「ええ」と答えてくれた。

 冒険馬鹿の男たちと違い、ポニータやラマには他にもやりたいことがたくさんある。


 ラマはフォクスの目の前に立ち、ボディバッグを手にとると、ベルトと本体の継ぎ目部分を伸ばしてみせた。

 縫い合わせた跡がある。


「あなたや兄さんの服や荷物を修復しているのはわたしたちですよ。知ってました?」

「……いや、うん、わかっているつもりだが。すまん、感謝が足りなかったか」

「別に嫌味じゃないです。自分で言うのも変ですけど、なかなかの腕だと思いません?」

「ああ、すごく助かってるよ」

「でしょう。それでわたし、ポニーと協力して小物を作ったんです。ほら、これ」


 ラマはポニータの背にあるリュックを引っ張ってフォクスの前まで持っていく。

 枝が突き刺さって破れた部分がワッペンで補修されているはずだ。

 細かい布切れを縫い重ねて鱗まで表現したドラゴンのワッペンである。

 暇を見つけてラマと作ったものだ。


「これ、店で買ったんじゃなかったのか」

「まったく、何も知らないんですから。でも褒めてくれたのは嬉しいです」

「褒めた?」

「店で売れるくらいの出来なんでしょう?」

「うん、そうだな。補修に使うのはもったいない」

「えへへ、ありがとうございます。実はこれができた後、二人で話してたんですよ。次は宝飾品作りに挑戦してみたいなーって。ネックレスとか、腕輪とか、髪飾りとか。もちろん、今は冒険者ですから、遺跡探しを優先します。だけど、数年ならともかく数十年はかけられません。他にやりたいこともありますし、それに」


 ラマがリュックをぐりんと回し、それによってポニータはフォクスと向かい合う形となった。

 手が届くほど近くにフォクスの顔がある。

 わざわざラマが場を整えてくれたのだ。

 ポニータは勇気を出して本音を告白する。


「私がおばさんになる前に、一緒になってほしいの」


 言葉を口にした瞬間、かーっと胸が熱くなり、湿気が服の内側にこもった。

 一瞬の静寂の後、なんでいきなり求婚しているんだと我に返り、羞恥の気持ちで叫び出したくなってしまう。

 だが今さら発言を撤回できない。

 ポニータはフォクスの口元を注視した。

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