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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第四章 ミザールで冒険!
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第二話 メモリーズオブポニータ・その二(4/6)

 遺跡探しは冒険者協会から紹介される仕事ではないため、決まった報酬が発生しない。

 だが有用な特性をもつ遺跡の発見を報告すれば、その価値に応じた金額が冒険者協会から支払われる。

 そういう意味で探検家は一攫千金を狙える数少ない職種だが、遺跡の数には限りがある。

 冒険者協会の設立によって土地の開拓が進んだため、現在も発見されていない遺跡はかなり少ないといわれている。


 事実、四人が初めて古代遺跡を発見するまでに半年もの時間を要した。

 その間、一度も人里に立ち寄っていない。

 キカザールを出て北東に進み、地図に情報のない地域を目指して枯れた大地を歩き続けた。

 牧草が生えていないため馬が使えず、食糧となる動植物の確保すら難しかったが、だからこそ誰も立ち入ったことがないと確信できた。

 馬の行ける場所なんてレイモンド・エスペルランスが活躍した時代に探し尽くされている。

 不毛の荒野にこそ未発見の遺跡があるとフォクスは予想したのだ。


 遺跡は切り立った崖に空いた洞窟の中にあった。

 一見しただけではただの洞窟にしか見えないが、地面まで届く鍾乳石の隙間を縫って奥に入り込むと、白く艶のある壁が見えてくる。

 洞窟内の岩盤を掘削し、埋め込まれたような造りだ。


「おいフォクス。頑固石……だよな、これ」

「ああ、間違いなく古代遺跡だ。協会に報告に戻りたいところだが、街まで最短で三十日はかかるな。このまま内部を探検するぞ」

「うおー、ようやく、ようやく見つかった。お宝、お宝、アトラチウムー!」


 マードックが戦斧を掲げ喜ぶ横で、フォクスはボディバッグから鉛筆と冒険手帳を取り出し、何やら記録している。

 ポニータはほっと息をつき、長い旅路を思い出した。


 この半年間で四人の役割はある程度はっきりしてきた。

 索敵と戦闘は本人の希望によりマードックが担当している。

 彼は未だにフォクスに対抗心を燃やしているようで、少しでも強くなるためにできるだけ多くの魔物と戦いたいのだそうだ。

 しかし彼はなまじ格闘に自信があるため、すぐに武器を投げつける。

 投擲を前提としているためか多種多様な武器を扱えるのは長所だが、剣の腕を徹底的に磨いたフォクスには敵わない。

 フォクスを見倣い両手に武器を持ったりもしていたが、結局、投げる。

 それでも道中の魔物は危なげなく倒してきたのだから、やはりマードックは強いのだ。


 マードックが周囲の危険を取っ払ってくれるおかげで、フォクスは思考に時間が割けるようになった。

 元々、フォクスはリーダーの素質があったのかもしれない。

 その頭脳に蓄えた膨大な知識をもって旅の指針となり、全員の進む道を示してくれた。


 ポニータとラマは補佐である。

 フォクスの苦手な分野……調理や縫製、衛生面の改善を提案し、旅のストレスを減らすように努めてきた。

 夜間の見張りやテントの設営などは全員で分担しており、誰か一人でも欠けていれば蓄積した疲労でここまで来られなかっただろう。


 ポニータはリュックを下ろし、中から水袋を取り出した。

 ずっと探していた遺跡を前にして緊張してしまっていた。

 一口水を飲み、ラマとマードックに水袋を回していく。

 最後にフォクスに水袋を渡そうとしたが、彼の手は手帳と鉛筆で塞がっている。


「よし、決めた。マードック、生き物を探してきてくれないか。獣……はいないだろうから鳥でいい」


 フォクスは何か思いついたようで、マードックの顔を見た。


「そんなにお腹減ってるの?」


 食糧補給するタイミングではないと思い、ポニータは聞いた。


「この遺跡の攻略難度をチェックするためだ。遺跡にはいろんな特性があるだろ」

「あー、そっか。初めて入る遺跡だもんね。アリュカトレイズみたいな魔術が使えなくなる特性で、もし中に魔物がいたら何もできずにやられちゃう」

「エスペルランスは伝記の中で、動物を先に中に入れて特性にあたりをつけていた。先人に倣おう」


 話の途中から、ごりごりと重いものの動く音が聞こえてきた。

 見るとマードックが岩を足で押し動かしている。


「そういう理由なら虫でいいだろ。ほら、これなんかどうだ」


 ミミズだか百足だかわからない細長い虫を摘んでマードックは見せてくる。

 フォクスはしばらく虫の様子を見た後、「ポニー、紐かなんかで、ほら」と言った。

 フォクスの意図を理解したポニータはリュックから紐を取り出し、虫の腹に結びつける。

 そうして釣り餌のようになった虫を、海ではなく遺跡の中に投げ入れた。

 ここが煉獄と同じ特性の遺跡ならば今頃紐ごと炎と化し、消滅しているところだが、虫はうねうねと動いている。


「反応、なーし」

「少なくとも即死するような遺跡じゃないな」


 フォクスがまた手帳に何やら書き込んでいる。

 ポニータは紐を手繰り寄せた。


「あれ?」


 頑固石と岩盤の境目まできた虫が、急に動かなくなってしまった。

 紐を持ち上げてみると、虫も持ち上がる。

 しかし境目より外には出られない。

 まるで見えない壁に阻まれているようだ。


「もうちょっと力入れてみろ」

「いいのね」

「ああ。間違いだったじゃ済まないからな」

「うーん、えいっ」


 小さな抵抗があったが、紐は手元に戻ってきた。

 虫は境目を越えられず、紐の力で二つに分断されてしまった。

 頑固石の上でうねうねと暴れている。


「残念。不可出の遺跡で確定だな。たまに二重特性の遺跡もあるが、おそらくはただ出られないだけの遺跡だろう」


 フォクスは冒険手帳を閉じてバッグに入れた。

 ポニータは紐の輪を解きながら聞く。


「残念? 不可出特性って一番ポピュラーなんでしょ。初挑戦なんだから、楽なほうがいいじゃないの」

「そうだけどさ……」

「何よ、言ってごらんなさい」


 含みのあるフォクスの言い方が気になった。

 フォクスは肩をすくめると、剣の柄に左手を乗せた。

 彼は剣を触っていると落ち着くらしい。

 緊張しているのかもしれない。


「始まりの冒険記は知っているか」

「もちろん。英雄サムソンの伝記よね。冒険者なら必読の本よ」

「そこに書いてあっただろ。サムソンが断離の長城に挑むきっかけになった話」

「あったわね。あ、まさかフォクス」

「そうだ。冒険者になると決めたときから、俺は彼の物語に憧れている。まだまだ先の話だろうけど、いつか断離の長城を越えて東アトラを見てみたい」


 フォクスがここまではっきりと目標を語るのは初めてだ。

 彼の話にポニータは真剣に耳を傾けた。

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