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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第四章 ミザールで冒険!
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第二話 メモリーズオブポニータ・その二(3/6)

 街を覆っていた雪が溶け、木々に緑が戻ってきた頃、キカザールの街にマードックとラマがやって来た。

 もうだいぶ暖かいというのにマードックは桃色の毛糸帽子を被ったまんまだ。

 指摘すると、どうやらそれはラマが編んだものだったらしく、妹想いのマードックは外したくなかったのだそうだ。

 ポニータは冬の間作っていた藁のかごをラマに見せた。

 編み物好きという共通点が見つかり、二人で大いに盛り上がった。


 フォクスとマードックは顔を合わすなり喧嘩に近いじゃれ合いを始めたが、腕が鈍っていないことを確認すると、肩を組んで食事に出かけた。

 二人とも単純な性格をしている。

 対立する理由がなければ、仲良くなるのは早かった。


『錯乱獣』マードック。


『閃光の魔術師』ラマ。


 彼らの二つ名だ。

 以前、キカザール支部の冒険者たちに彼らのことを聞いて回ったところ、知っている者がちらほらいた。

 フォクスやポニータと並ぶ、期待の若手らしい。

 ただし、オヤマタイショウ支部以外での活動実績がなかったため、彼らの実力を疑問視する声も多かった。


 とんでもない。

 少なくともポニータが見てきた冒険者の中では彼らの能力はずば抜けている。

 フォクス以外の人間と一緒に冒険をしたいと思えたのは初めてだ。

 マードックも同じ気持ちだったのか、飯屋で出した最初の話題が、これからどんな活動をしていくか、だった。


「フォクスは今後も魔物討伐家として活動するつもりなのか?」

「んー、ま、戦いも嫌いじゃないけどさ。本当は俺、探検家志望なんだよね。でも探検家って仕事少ないから、なかなか機会がなくて」

「へぇ、いいじゃん。俺もラマもそろそろ魔物退治に飽きてきたところだ。どうだ、一緒に遺跡探しに行くってのは」

「わかってんのか。新しい遺跡なんてそう簡単には見つからないんだ。何年も街に戻れなくなるかもしれない。文明から隔絶された生活はきついぞ」

「文明から隔絶、ねぇ。俺にぴったりの仕事じゃねぇか」

「どういう意味だ」

「俺、孤児。友達いない。誰も探す奴いない」

「すげぇことぶっちゃけるな……」


 フォクスは咳き込みそうになり、ハンカチで口を押さえた。

 マードックは平然と骨つき肉を口に運んでいる。

 どこまで突っ込んで話していいのかわからないため、場がしばらく静かになった。


 境遇という意味では王族の血を引くフォクスもかなり特殊である。

 身分証の上ではタルタン出身ということになっているが、話し込めばボロが出るかもしれない。

 あまり踏み込みたくない話題だが、マードックが自分からべらべらと喋っていく。


「ま、隠しちゃいねぇっつーか、マダガストだとけっこう有名なんだよな、俺」

「喧嘩っ早いガキとしてか?」

「なんだと……て、当たらずも遠からず。支部の連中には錯乱獣って呼ばれるくらいだしな。俺、孤児として保護される前は野犬に育てられてたらしいんだ」

「野犬って、マジかよ」

「一歳とか二歳頃の話だ。当時はけっこう騒がれたんだぜ。犬の乳を吸って成長した赤ん坊なんて、話題性あるからな」

「それでよく普通に育ったな。ん、でもラマはお前のこと兄さんって……」

「同じ孤児院の出なんだよ」

「あ、なるほど」

「そこを設立したのが有名な冒険者でな。生活に必要な魔術や金になりそうな技術なんかを幼い頃から仕込んでくれるんだ。俺とラマは戦闘が得意だったからな。院を出た後は組んで魔物討伐の仕事をしている」


 マードックとラマは実の兄妹ではないらしい。

 あまりにも似ていないので予想はついていたが、それでも仲の良さは実の兄妹以上に見える。


「で、お前らはどういう関係?」


 マードックがずいと身を乗り出してきた。ポニータは待ってましたとばかりに胸に手を置き、「彼と私は見ての通り恋人同士よ」と説明した。

 しかしフォクスはそれを「冒険仲間だ」と訂正する。


「ひどい!」

「何がだ」

「だってもうすぐ二年よ」

「冒険者としてお前と組んでからな。別に恋人らしいことなんて一度もしていないだろ」

「そうだけど。でも冒険仲間ってひどくない?」

「……特別な冒険仲間だ」

「うーん、うーん……許す」


 二年近くも青春を懸けて、ようやく特別な存在にランクアップした。

 隠そうとしても隠しきれないくらいにやけてしまい、マードックに笑われる。


「こんな簡単な女初めて見たぞ」

「うるさいわね!」


 付き合いの浅い人間には優しく接するように心がけているポニータだが、マードックの無礼な物言いについ素が出てしまう。

 彼はフォクスとどこか似ている。

 一緒にいて楽なタイプの人間だ。


 いつの間にかだいぶ話が脱線してしまった。

 本題に引き戻したのはラマだ。


「もし今後皆さんが探検家として活動するなら、わたしも連れて行ってくださいね。便利ですよ、閃光魔術。松明いらずです」


 彼女の楽しそうな微笑みを見て、ポニータの気持ちも固まった。


「私も魔物と戦うよりは古代遺跡を探検したいわ。というわけで決まりね。しばらく依頼を請けるのはやめて、四人で遺跡を探しに行きましょう」


 フォクス、ポニータ、マードック、ラマ。

 四人は意気投合し、即日チームを結成する。

 それはオヤマタイショウとキカザールで大きな話題となった。

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