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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第十二話 あなたと第一ドリアニア(5/9)

 翌朝、まだ暗いうちに起こされた。

 起こされたのである。

 ココロを起こすことはあっても、ココロが起こしてくるなんて珍しい。

 それはもうぎらぎらした目で机に薬品を並べていた。

 黒い液体の入った瓶からは煙が漏れている。

 これは室内で開栓しても良いものなのだろうか。


「安心しなさい。どうすれば上手に化粧できるか、シャクレマスに習ってきた。あなたを人形にしてあげる!」

「人形にはしないでくださいね」

「人形みたいな美人にしてあげる!」


 時間ぎりぎりまでココロに顔をいじくられた。

 鏡がないため自分では確認できないが、ココロは自信がありそうだった。

 化粧できたのは嬉しいが、残念ながら街の女の子が着ているようなおしゃれな服は持っていない。

 無駄遣いもできないので、いつもの継ぎ接ぎだらけの服を着る。


 部屋を出たところでデブトンと鉢合わせた。

 第一声が「夢に出るブスだな」だったが気にしない。

「おはようございます」とだけ挨拶して階段に向かった。

「油絵だってあんなに厚くは塗らねぇぞ」と後ろから声がした。

 もしかしたら化粧は失敗したのかもしれない。

 けれどもココロが一生懸命塗ってくれたのだ。

 ロビンは笑ったりしないだろう。


 山を下りて校庭に向かうと、途中、寮から爆発音が聞こえてきた。

 デブトンが爆発イモを食べさせられたのかもしれないが、寮にはアニーがいる。

 心配しなくても良いだろう。


 校庭のどこで待てば良いのかわからなかったため、ブブカは目立つように校舎の入り口付近に立った。

 早起きしたせいか、動いていないと眠くなってしまう。

 ついあくびが出てしまった。

 危ない、ロビンに見られたら退屈していると思われる。

 気を引き締めてみたのだが、やっぱり眠い。

 そしてなぜだか顔が重い。まぶたが下がってきてしまう。


 ブブカは目を閉じた。

 三呼吸ほどして目を開けると、自分は夢を見ているのかと疑った。

 目の前の光景が信じられなくて何度も何度も目をこすった。


 街を走っていた馬車が、校庭に侵入したのだ。

 街でよく見る荷馬車ではなく、金属や宝石で装飾された王族が乗るような豪華な馬車だ。

 御者は一人。

 鼻の下にひげを蓄えた男性である。

 帯剣していて身なりが良い。

 馬車を引く二頭の馬は化粧でもしているかのように真っ白だ。

 もし白い塗料で色を変えているのならかなり贅沢に使われている。

 油絵だってあんなに厚くは塗らないだろう。


 馬車はブブカの前に停まった。

 馬と目が合う。

 不思議な親近感。

 馬がひひんと鳴くと、幌の中からロビンが出てきた。

 初めて見る、貴族の装いだ。

 髪の毛がセットしてあるし、衣装はおそらく新品で清潔感がある。

 まさにデートスタイルである。

 急に自分の格好が恥ずかしくなってしまった。


「やぁ、おはよう」

「おおおはようございます」


 緊張してうまく喋れない。


「今日は誘いを受けてくれてありがとう。君と行きたい場所があってね。ちょっと遠いから馬車を用意した。乗ってくれ」

「馬車って……これ、第四で借りられる馬車じゃないですよね」

「うん。うちのだ」

「個人でこんなもの所有しているんですか」

「個人というか、家だね。フーリアムの人間は国内外に広く行き来するから。ま、使うには当主の許可がいるけど、今回は大丈夫だった」

「そんなものを子どもだけで使っていいんですか」

「んー、まぁ、その。気にしないで。今日はぼくに任せてよ。ほら、乗った乗った」


 ロビンに手を引かれてブブカは馬車に乗り込んだ。

 大人四人くらいがゆったり座れる空間で、ブブカの正面にロビンが座った。

 目のやり場に困ったが、出入り口とは反対側に窓が空いているので、なるべく外を見ることにした。


 馬車が動き出した。

 行き先はもう決まっているようで、特に指示もなく街に出た。

 朝早いためまだ風が冷たいが、少しすれば蒸し暑くなるだろう。


「今朝は早くからごめんね」

「楽しみで早起きしましたよ」

「ココロに無理矢理起こされたんじゃないかい?」

「あら、わかりますか。そうです、外出の準備を手伝ってくれたんです」

「持つべきものは友達だね」

「ええ、本当に。わたしは魔術兵団で幹部になるための第一歩として魔学舎に来ましたけど、こんなに信頼できる友達ができるなんて思っていませんでした」

「ぼくもだ。正直、魔術や体術の成長よりも、そっちのほうが収穫だと思っているよ。だから今日、君を誘わせてもらった」

「どういう意味ですか」

「君が休学する前に口説き落としたいんだ。いや、これだと語弊があるな。僕たちの関係を友達からステップアップさせたい」

「えっ」

「……ごめん。もっと語弊があったかも。とにかく、今日はぼくの考えたデートプランに付き合ってくれ。女性とデートするのは初めてなんだ。楽しませるための努力はするけど、失礼があったら遠慮なく言ってくれ」

「なんだか楽しみすぎて、空の上まで眠気がぶっ飛んでいきました」

「それは良かった」

「ところで、どこに向かっているんですか」

「あそこ」


 ロビンは馬車の外に指を向けた。

 ドリアニアを象徴する塔が天を突くようにそびえ立っている。

 リーリー・ジューシー・ドリアンが住まう場所、バブルの塔だ。

 あれが建っているのは。


「第一ドリアニア。王族と貴族の住まう都さ。ぼくの故郷を案内するよ」


 馬車は速度を増した。

 市街地を進み石造りの門へと向かう。

 花屋、本屋、八百屋。

 見慣れた景色が流れていく。

 ブブカはおよそ一年ぶりに第四ドリアニアを出るのだ。

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