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豚に奏でる物語  作者: あいだしのぶ
第二章 ドリアニアで冒険!
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第十一話 怪盗ブレイブレイド・ポーク編(2/5)

 ブレイブレイドは血まみれだった。

 服が黒いせいでわかりにくいが、左手の雷撃手袋からは液体が滴っている。

 動物の血抜き程度であそこまでひどくはならない。

 不意に浴びたものだろう。

 たとえばそう、返り血のような。

 ポークは恐る恐る視線を動かす。


「う、おおおおお」


 ブレイブレイドの近くにココロが寝かされていた。

 腹の上に手を重ねたその姿勢は他の生徒たちと変わらない。

 だが彼女の服は一目でわかるほど大量の血に染まっていた。

 ポークは似たような光景を一度だけ見たことがある。

 あれはライチェ村がアリクイクイに襲われた日。

 火葬のために集められた、犠牲者の死体だ。


「許さねぇぞ、ブレイブレイド!」


 ポークは窓から飛び降りた。

 木槌の重さが体重に加わり、着地に大きな衝撃があった。

 ほんの少し前まで大切だった虹のかけらが、今はちっぽけなものに思えた。

 ココロを危険に晒すくらいならおとなしく渡してしまえばよかったのだ。

 不殺の義賊という評判に踊らされたことを後悔した。


「いやいやいや、大きな誤解だ」

「うるせぇ!」


 ポークは怒りに任せて木槌を振った。

 一発、二発、三発と地面を叩いた。

 自分でも攻撃が単調になっているのがわかる。

 だが頭からぺしゃんこにしてやらないと気が済まない。


 ポークの攻撃にバッチが連動した。

 ポークとは異なる方向からの袈裟斬りである。

 もう逃げたり隠れたりする作戦は使えない。この場で決着をつけるしかない。

 ブレイブレイドは魔剣、月下奇人を抜いた。

 バッチの剣を弾き、両手で上段に構えて威嚇する。


「照らせ満月の如く。帯電!」


 そう言うとブレイブレイドの左手が一瞬、雷のように光った。

 雷撃を発動したのだ。

 月下奇人は雷の力を半透明な刃に宿した。

 白く、明るく光っている。


「悪いがバッチくんとは遊べない。本気で相手をさせてもらう」

「おう、来いや。こっちも生徒を殺られて仲良くやれるほど酔っちゃいねぇ。みじん切りにしてやるよ」

「もうそれでいいよ。明日、きっちりシャクレマスくんを教育してくれ。すべて彼が悪い」


 ブレイブレイドが剣を振り下ろす。

 一筋の稲妻が剣先から放たれた。

 避けられる速度ではない。

 バッチはそれを剣で受けるが、雷の力は全身に伝わってしまう。

 筋肉が固まり、服が焦げる。

 バッチは地面に手を着いた。


「すごい根性だ。麻酔効果なしの純粋な雷魔術だぞ。普通はぴくりとも動けない」


 ブレイブレイドがもう一度上段に構えた。

 剣に雷を帯びるつもりだ。


「させるかよ!」


 ポークは正面からブレイブレイドに向かっていった。

 もし剣を振り下ろされたら身体が二つに分かれるだろう。

 冷静さを失っていた。

 ココロがいない世界を憂い、自暴自棄になっていた。

 だがブレイブレイドは剣を片手持ちに変え、木槌だけを切断した。

 身体は斬られていない。


「格上に正面から挑むとは、勇気を通り越して無謀だぞ」

「人殺しの説教なんて聞くか」


 ポークは手元に残った木槌の残骸を投げつけた。

 やはりアトラチウムの剣に対抗するには武器の強度が足りない。

 状況を考えれば、この場は逃げるか降伏するのが正解だろう。

 だが、今のポークにはそんな選択はできない。


 木槌の残骸を受け、ブレイブレイドは体勢を崩した。

 ポークは腰にタックルしようと突撃したが、手が届く前に顔面を足蹴にされた。

 靴の底が吸いつき、頬の肉が引っ張られる。

 壁を歩くという靴の魔道具の効果だ。

 引き剥がすために足首を掴もうとすると、吸着力が消えた。

 直後、同じ足で側頭部を蹴られる。

 威力はないが、脳を揺さぶられたせいで平衡感覚がおかしくなった。

 前に進もうと思って転んでしまった。


「立てよオレ。姉ちゃんの仇を討つんだ」


 地面の砂をぎゅっと握った。

 みんなやられてしまったのだ。

 ココロの無念を晴らせるのは自分しかいない。

 今動けなくて、何が冒険者だ。


「ドリアン式剣闘技……狂者の剣録!」


 バッチの声、それと同時に金属のぶつかる音がした。

 顔を上げると、バッチがブレイブレイドと剣戟を繰り広げていた。

 心臓突き、首を刎ねる軌道の回転斬り、関節への蹴り。

 訓練では見せたことのない連続した動きだ。

 これがバッチの本気か。


「雷撃をくらってここまでやれるのか」

「余裕こいてんじゃねぇ!」


 バッチの眼前で刃がぶつかった。

 ぎりぎりと剣を押し合っている。

 アトラチウムの剣と打ち合っているのにバッチの剣は折れていない。

 剣ばかりに強化魔術を集中させると肉体の運動速度が低下するはずだが、バッチはそれを感じさせない。

 抜群の戦闘センスでブレイブレイドと渡り合っている。


「動け。学長を助けるんだ」


 ポークはふらつきながらもなんとか立ち上がった。

 今、二人は膠着状態だ。

 たとえブレイブレイドが相手でも、ポークが全力でぶん殴れば骨くらいへし折れるはず。

 腕でも足でもいい。

 壊してしまえばバッチが始末してくれる。


 ポークの接近を察知したブレイブレイドはその場から逃げようとして半歩下がった。

 しかしバッチが剣を押し込み、逃がさない。


「うーん、ピンチだ。ちょっと待ってくれない?」

「待たねぇよ」


 ポークはブレイブレイドの脇腹を狙って正拳を突き出した。

 大岩をも粉砕する威力だ。

 ブレイブレイドも直撃を避けたかったのか、肘で軌道を逸した。


「よくやった」


 体勢を崩したブレイブレイドをバッチが押し飛ばした。

 ちょうどいい剣の間合いだ。


「死んで詫びやがれ!」


 バッチがブレイブレイドの首を狙って横から斬りつけた。

 ブレイブレイドは無様に背を反って、それでも仮面に傷がつくくらいぎりぎりで回避した。

 バッチは好機を逃さない。

 剣の柄を浅く持ち、目一杯腕を伸ばしてブレイブレイドの心臓を突いた。

 剣はブレイブレイドの胸部を見事に捉えたのだった。


「何!」


 がちんという金属音がして剣が逸れた。

 黒い服の下に銀色のプレートが埋め込まれている。

 バッチの剣はブレイブレイドの守りを突破できなかった。


 今の一撃に全力を尽くしていたのだろう。

 バッチの魔素の制御は乱れ、強化魔術が弱まった。

 ブレイブレイドはその一瞬を見逃さない。

 バッチの剣の腹を月下奇人で叩き折った。

 武器を失ったバッチはそれでも戦闘を続けようと、再度肉体を強化して拳を構えた。

 だがブレイブレイドは雷のような速さで動き、バッチの握り拳の上に雷撃手袋を重ねた。


「今度こそ、おやすみだ。雷撃!」


 ブレイブレイドの左手とバッチの身体が発光する。

 ロビンやシャクレマスに使ったときよりも高出力だ。

 それでもバッチは気絶しない。


「ややややられるかか」


 強靭な意思の力で雷撃に耐えながらバッチはブレイブレイドの仮面を殴りつけた。

 しかし力は残っておらず、ついに気を失って倒れた。

 雷撃を浴びすぎたせいで服も髪の毛も焦げている。


「よし、片づいた。彼は急所ばかり狙ってきたから、チャンスがあれば心臓を突いてくると思ったんだ。この服は特別製だから、中に仕込んであるプレートを強化魔術でより硬くできる。準備の差だね」


 ブレイブレイドが剣をポークに向けた。

 バッチが倒れた今、万に一つもポークに勝ち目はなかった。

 だがココロを殺した相手に屈服するつもりもない。

 死ぬまで抵抗してやる。

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