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第6話 龍宮寺 輝刃

 俺は腕時計型電子生徒手帳レイヴンズ・ファイルを昆虫に向ける。


『バイトホッパー、巨大な尾羽により長時間の飛行を可能にする虫型モンスター。体長は約1メートル程で、通常のバッタの100倍になる。肉食で、強靭な顎を持っており人間の指くらいなら容易に食いちぎる為、注意が必要』


「ピラニアみたいなバッタだな。ってか龍宮寺、お前銃で撃ち落とせよ」

「こんな真っ暗な中、空飛んでる奴に当たるわけないでしょ」

「確かに」

「あのさ小鳥遊君、あたしの可愛いところ聞きたい?」

「お前顔以外に可愛いところあったのか?」

「虫がね……嫌い」


 俺は膝から崩れそうになった。こんなところで乙女設定を持ちださないでほしい。

 するとブーンっと羽音をたててバイトホッパーが輝刃の頭をかすめる。彼女はギャーっと叫びながら再びのけぞった。叫び方が完全にお嬢様じゃない。

 どうでもいいけど、お前肩車の状態で後ろに倒れるとパンツ丸出しになるぞ。


「ちょっと小鳥遊君、なんとかしてよ!」

「なんとかと言われても、戦闘は龍宮寺の分野だろ」

「あんなのがブンブン飛び回ってたら修理できないじゃない!」


 とか言ってるうちに、今度は別の虫モンスターが飛んできた。その影はバイトホッパーより遙かにでかい。

 出てきた巨大なモンスターを見て輝刃の顔が引きつる。


『ジャンボホッパー、バイトホッパーの成熟体。体長は約6メートル程で強靭な顎と硬い甲殻を持つ。重量の関係から飛行能力は低下しているものの、人間の骨程度ならば難なくかみ砕くので注意が必要』

「最悪じゃない! 小鳥遊君あれ殺して! 早く! 何をおいても殺すのよ!」

「だから暴れるなって、プチパニック起こしてんじゃねぇ!」


 中空を巨大バッタが舞う地獄絵図。そして天才まさかのポンコツ化。


「このままじゃ二人仲良くバッタに喰われるわよ!」

「虫に食われるのは嫌だな」

「だったらなんとかして!」

「ならば」


 俺はペンライトを遠くへ放り投げる。するとジャンボホッパーはそれを追いかけ飛んでいく。

 所詮虫コロ。光に反応する本能には抗えないようだ。


「今のうちに修理するんだ!」

「わ、わかった!」


 輝刃が電源ユニットの修理を完了させると、訓練場に電気がつき、周囲に光が戻った。


「なんとかなったわね」


 ほっと息を吐く。しかし安堵したのもつかの間。当然それだけで終わるわけがなくジャンボホッパーがブブブブと羽音を鳴らして戻ってきた。


「しつこい虫ね!」


 輝刃がタンタンタンと拳銃を連射するが、全て硬い甲殻に弾かれダメージが入っていない。

 教官が止めに来ないってことは、多分あいつはこの試験のボス的役割なんだろうな。


「なによこいつ! 全然死なないじゃない! 小鳥遊君殺虫剤もってないの?」

「お前はあんなデカい虫に殺虫剤が通じると思ってるのか」


 とは言いつつも、あの硬い殻をなんとかしないとダメだな。


「ちょっと考えがある、ここであいつの相手しといてくれ」


 俺は輝刃を肩から下ろすと、その場を任せて訓練場を走る。


「あっ、ちょっと逃げないでよ!」

「すぐ帰るー」


 ――5分後


「どひー!」


 俺は上半身裸になって、イートラフレシアから手に入れた蜜を体に塗りたくって訓練場を走り回っていた。

 すると、この匂いにつられた複数のイートラフレシアが「待って~♡」と言わんばりに後ろから追いかけてくる。あれに追いつかれたら頭から美味しくいただかれてしまうので命がけだ。

 全力疾走で電源ユニットのある場所まで戻って来ると、輝刃が苦戦を強いられていた。


「龍宮寺ー! 今からそいつを柔らかくするからなんとかしてくれ!」

「はぁ!? ってかあんたなんて格好して……って何連れてきてんのよ!」


 輝刃は俺の後ろからついてくるイートラフレシアの大群を見て悲鳴をあげる。

 俺は走り幅跳びの要領で浮遊するジャンボホッパーに飛びかかった。

 ギリギリ距離が届かない、俺は腰にぶら下げているピッケルを振りかぶってジャンボホッパーの背中に突き刺す。

 ジャンボホッパーは大暴れしてブンブンと体を振るので、俺はなんとかしがみついた。

 輝刃はその様子を下から見上げ、口元を歪めていた。


「あいつなんで虫に抱き付いてるの……?」


 俺の上半身についた蜜がべったりと奴の甲殻に付着する。

 俺はピッケルから手を離して地面へと跳び下りると、俺を追いかけてきたイートラフレシアが次々に酸を吐き飛ばした。

 奴らの吐いた酸は全てジャンボホッパーに命中し、硬い甲殻がジュウジュウと煙を上げる。


「龍宮寺!!」


 俺が叫ぶと、意図を察した輝刃が一気に飛び上がった。その跳躍力は10メートルを超え、並の人間の脚力ではなく明らかに魔術による強化がされている。


「やるじゃない小鳥遊君」


 彼女は両手に魔力を溜めると、何もない空間から真紅の槍を呼び出した。輝刃は空中から落雷を落とすかの如く槍を投擲する。

 真紅の稲妻となった槍が酸で柔らかくなった甲殻を貫通した。


ぜろ!」


 彼女が空中で拳を握り込むと、槍が爆発を起こしジャンボホッパーは木端微塵になった。周囲にいたイートラフレシアも爆発に巻き込まれ皆吹き飛ばされていく。

 なんて派手な奴なんだ。

 モンスター達を一掃すると、空中に浮かぶ輝刃は、ブイとピースする。

 あの跳躍力、滞空時間、あいつ強襲兵科でも一番難しいって言われてる竜騎兵ドラグーンだったんだな。

 凄まじい跳躍力で一気に敵地へと潜り込んで、空中から奇襲を行う兵科で習得難易度が非常に高いと言われている。

 だけどその機動力、魔槍による一撃必殺は素直にカッコイイと思った。さすが天才と呼ばれるだけはある。

 と思った矢先……彼女は空中で姿勢を崩し悲鳴を上げる。


「ふあああああああ!」

「なんだどうしたんだ?」

「槍に魔力使いすぎて姿勢制御できない! ごめん小鳥遊君受け止めて!」

「よし任せろ!」


 ひゅーんと落ちてくる輝刃をキャッチする為、落下地点へと走る。ここでお姫様抱っこでキャッチして「や、やるじゃない、小鳥遊君しゅき(赤面)」となること必至。フラグ建設必至!

 が、落ちてくる輝刃は少しでも落ちる速度を落とそうとしているのか、両手両足を広げている。

 あれ、これじゃお姫様抱っこキャッチは無理だな。しょうがない抱きとめる感じで受け止めよう。

 しかし若干落下地点を見誤ってしまったようで、輝刃は脚を広げた状態で、俺の顔面に飛びかかってきた。当然その体重を首だけで支えられるわけもなく俺は後ろにばたりと倒れた。


「いたたたた。ごめん」

「とりあえずどいてくれ」


 輝刃は慌てて俺の顔の上からどく。

 首に輝刃の全体重がかかってグキッと変な音が鳴った。


「まさか開脚したまま飛びかかって来るとは思わなかった」

「嫌な言い方しないでよ! 上級の変態みたいでしょ!」


 まぁ役得もあったので、何も言わないことにする。

 パンチラではなく完全にパンモロ、顔面カニばさみだったしな。 

 その様子を見て、大巳教官がパチパチと拍手しながらやってきた。


「試験クリアおめでとう」

「クリアでいいんですか?」

「ああ、ミッションは完了だ。最後に出てきたジャンボホッパーも倒した……が、まさか自分の体に蜜を塗って他のモンスターを集めてくるとは思わなかった」

「早く風呂入りたいです」


 俺がそう言うと輝刃は自分のスカートに手を入れて太ももをチェックする。するとにちゃーっとした蜜が付いていることに気づき顔をしかめる。

 顔にも蜜を塗りたくったからな、そこに顔騎すればそうなる。


「だろうな。龍宮寺も魔槍を使い的確に弱点を貫く技術力の高さは評価する」

「ありがとうございます」

「ただ、お前の竜騎兵能力は初めから小鳥遊に伝えておくべきだった。仲間の能力がわからないことで小鳥遊は自分の体を張るしかなくなった。戦闘で工作兵を失うデメリットは大きい。極端な話、小鳥遊さえ生きていれば今回のミッションは遂行できる。逆は不可能だ」

「はい……」

「私は最初に言ったな、情報共有はしておけと。仲間の能力をチームが把握していないのは論外だ」

「はい」

「すみません」


 俺たちがしゅんとすると、大巳教官は小さく息を吐き珍しく笑顔を見せた。


「まぁ合格した後に説教するのもなんだ。二人ともおめでとう、ライセンスが交付されれば一人前のレイヴンだ」

「「はい!」」


 こうして俺たちは実技試験を突破したのだった。

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