第5話 バッタ
それから何匹か訓練用のモンスターが現れたが、輝刃が拳銃で簡単に撃ち倒していく。
ほんとに何もしなくても試験がクリアできてしまいそうだ。
「あれかしら?」
訓練場の最奥に到着すると、そこにはパチパチと火花が上がる電源ユニットが見えた。
「多分あれだね」
「壊れてるみたいだけど、大丈夫かしら」
「まぁなんとかなると思う」
近づいてみると、雷マークが描かれたボックスからバチバチと激しい火花が上がっている。工具は持ってるので修理できなくはなさそうだが、問題は――。
「高いわね」
「高いね」
俺たちは首を上に向ける。
単純に電源ユニットの入ったボックスの位置が高い。
3メートル弱くらいある柱の上に電源ユニットがあり、どうにも手が届かない。
周囲には梯子や土台になりそうなものもなく、恐らく教官からの問題の一つなのだろう。
「蹴ったら落ちてこないかしら?」
「電源に繋がってる配線とか全部千切れると思うけどね」
そう言ってるにも関わらず輝刃は電柱をガシガシと蹴る。コイツ段々本当にお嬢様なのか疑わしくなってきたな。
「なんであんた身長3メートル無いのよ」
「ミノタウロスじゃないんだから。でも協力すれば届かなくはないんじゃない?」
「そうね、じゃあ」
「「台になって」」
お互いを指さす。
「なんであたしが台にならなきゃいけないのよ!?」
「いや、君修理できるの?」
正論を言うと、輝刃の眉がハの字に曲がり、口はへの字に曲がる。
「…………小鳥遊君できるの?」
「俺は一応機械工学の学科受かってるから」
「技術専攻って言ってたわね……」
輝刃は舌打ちをするとその場にしゃがみこんだ。
「最悪だわ」
「四つん這いにならないと乗れないぞ」
「あんたに乗られたら潰れるわよ! それに四つん這いじゃ高さが足りないわ」
「じゃあどうするんだ?」
「肩車するから乗って」
「そっちの方が難しくないか?」
「いいから早くして」
俺は輝刃の肩に膝を乗せる。
「ほんとに大丈夫か? 俺工具持ってるから重いぞ」
「だい……じょ……うぶ。お嬢……なめんな!」
おぉ凄い持ちあがった。
しかし輝刃の足は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えていて、全然大丈夫そうじゃない。
「頑張れ、もうちょっとだ」
「気軽に言ってくれるわね……」
俺は工具を持って手を伸ばし電源ボックスを開く。
見た目派手に壊れてるけど、部品交換だけでなんとかなりそうだ。
と、思っていると輝刃の膝が限界をきたしたのかグキッと折れ、前のめりに倒れる。
俺はそのまま柱に顔面を打ち付け、ズルズルと崩れ落ちた。
「うん、無理ね」
「無理なら限界をきたす前におろしてくれ」
鼻が折れるかと思った。
「チェンジよ」
今度は俺が輝刃を肩車して持ち上げる。
「あたしが修理するから、小鳥遊君は下から指示して」
輝刃は最初からそうすれば良かったとご機嫌になる。
俺はとりあえず輝刃の状況説明を聞きながら修理の指示を行っていく。
「3本あるワイヤーのうち1本が切れてるわ」
「ワイヤーは黒?」
「黒と……青が1本だけあるわ。切れてるのは黒ね」
「じゃあ予備のワイヤーがあるからそれと交換して。その時青のワイヤーを外してからじゃないと感電するから気をつけて」
「先に青を外してから交換ね……。予備のワイヤー赤いのしか入ってないわよ?」
「それでいい。ヒューズは?」
「ヒューズってどれ?」
「電球みたいなガラスケースに入ったカプセル」
「3本あるけど、もう1本入りそう」
「ん~元から3本で動かしてたのか? それとも試験で教官が抜いたのかな。電源ユニットのどこかに数字書いてない?」
「え~? あぁボックスの横に800VSって書いてるわ」
「じゃあ4本目がいるな。工具箱の中にヒューズが入ってるからだして」
「ヒューズヒューズ……どこよ、ないじゃない」
「よく探してくれ」
輝刃はペンライトを口で咥えながら俺の工具箱を漁る。肩車がきついので早くしてもらいたい。
どうでもいいけど、こいつちょっと脚太い。
「あった!」
ようやく見つけたらしく、ヒューズを取り出す。しかしその瞬間ブーンっと羽音が響いた。それと同時に輝刃が悲鳴を上げ、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
輝刃は肩から落ちないように俺の首に脚を絡みつかせる。ギリギリで落下は免れたが、彼女の脚が締まって窒息しそうだ。
「ぐっ……お前脚太い」
「状況確認する前に言うことがそれ!?」
「なんだ、どうしたんだ?」
「何か空にいる!」
「なぬ?」
輝刃はすさまじい腹筋で態勢を肩車に戻すと上空を見上げる。すると羽音の正体に気づいた。
「……ごめん小鳥遊君。あたしリタイアするわ」
「いきなり何言ってんだ」
俺も顔を上げると、そこにはギチギチと不気味な音を立てる巨大な昆虫の姿が見えた。全身緑色で頭には二本の触覚。三角形の頭をしており尾羽を激しく動かして滞空している。
「なによあれ!?」
「バッタだな。凄くデカい」




