第4話 ライセンス試験
大巳教官と共に訓練場を進み、本来の試験開始位置に到着する。
そこには金髪ツインテに制服のスカートを極限にまで短くした少女が不機嫌気に立っていた。
彼女の名は竜宮寺輝刃。俺より半年遅くに入学してきたのだが、身体能力、魔力、学力、容姿、全てに優れていて同年代ではトップクラス。あっという間に追いつかれてしまっていた。
たまに一緒に座学を受ける時があるが、どこぞのお嬢様らしく常に取り巻きの女生徒がいる。
お嬢、ツインテ、ミニスカ、ニーソ。4種の神器を兼ね備えた彼女が有名にならないわけがない。
出雲四天王に新たに加入して五人目の四天王になる可能性が一番高いと噂される才女。
一人多いだろと思うが、大体四天王って影の五人目、真の六人目、ビッグセブンの七人目、裏四天王の八人目がいるしな。一人くらい誤差だろう。
輝刃は今回のペア実技試験の相方となる人物だ。
「相変わらず始まる前から楽しそうね。小鳥遊君」
輝刃の皮肉交じりのお嬢様スマイル。貫禄だけは既に四天王入りしててもおかしくない。
「いやぁ、いきなりぱっくりいかれるところだったよ」
「あんまり足引っ張らないでくれると助かるわ」
「頑張るよ」
大巳教官は俺たちの前に立つと実技試験の説明を行う。
「今日の実技試験は強襲兵科から龍宮寺輝刃、技能工作兵科から小鳥遊悠悟の二人だ。お前たちにはこれからこの訓練場最奥にある電源ユニットの電源を入れてきてもらう。尚試験中は訓練場内の電気は全て落ちた状態で行うので視界の変化に注意するように」
電源が落ちているんだから当然と言えば当然だな。
「暗闇の中からモンスターが出てくるかもしれないってことですね」
「そういうことだ。進路の確認、索敵を怠るな」
「了解しました」
輝刃はそんな程度で良いの? と言いたげで自信満々だ。
優等生としてはなめられたもんだって感じなんだろうな。
「この試験ではアクシデントポイントを用意しているので咄嗟の対応力が試される。まぁ小鳥遊は何度も聞いているか」
「はい、3度目なんで」
「威張るな。情報共有はしっかりやれ」
「余裕。小鳥遊君はあたしの後ついてくるだけでいいわよ。ラッキーね、何にもしなくても試験パスできるなんて」
輝刃はお嬢様スマイルと共にツインテを後ろ手に弾く。
「そりゃ楽させてもらおう」
「自信があるのは結構だが、この試験はあくまでチーム試験だ。どちらかが棄権、もしくは行動不能になった時点で試験は失敗とする」
その話を聞いて輝刃の顔が曇る。
「小鳥遊君、絶対棄権とかしないでよ」
「頑張るよ。あっ、これまでの試験どんなアクシデントがあったか話そうか?」
「失敗したデータなんて必要ないわ」
輝刃は腕を組んで、自信満々に言う。さすが優等生、失敗から学ぶことなどないということだな。
不遜な態度ではあるが、今まで組んだペアの中で一番の実力者と見て間違いないだろう。
「では、試験を開始する」
大巳教官が合図をすると、訓練場の電気が完全に落とされ真っ暗な空間が出来上がった。
「うわ……本当に真っ暗だ」
何度も来ている訓練場とは言え、視界が0になると不安になる。
しかし輝刃は暗闇を特に気にした様子もなく、奥に向かって歩き始めた。
「目が慣れるまで待った方がいいんじゃないか?」
「時間が惜しいわ。クリアタイムも査定に入ってるから、ちんたらしたくないの」
「それはわかるが、あっそうだ俺懐中電灯持ってるよ」
俺はポケットからペンライト型の懐中電灯を取り出しスイッチを入れると、小さな光が地面を照らす。
「寂しい光ね」
「ないよりはマシだろ?」
輝刃はどうだかと肩をすくめながら訓練場を進む。
暗闇で視界が悪い中、俺はゴツゴツとした岩に足をとられそうになるが、輝刃はカツカツと足音を響かせて歩いていく。
彼女よく見たらハイヒール型のブーツを履いてる……。凄いな、あんな歩きにくそうなので普通に歩いて行くなんて。
時折振り返っては俺がついてきているか確認している。優しさというよりは、こちらの面倒を見ないと不合格になってしまうからだろう。
「早くしてくんない?」
「ちょ、ちょっと待って。なんでそんな普通に歩けるの?」
彼女は脚を上げてハイヒール型のブーツを見せる。
ヒールの部分が非常に鋭く、蹴られると穴が開きそうなくらい尖っている。
「踵がスパイクになってて地面を突き刺して歩いてる」
「意外と実用的な装備をお使いで」
輝刃の奴暗がりで油断したのか、脚を上げた拍子にスカートの隙間からパンツがチラリと見えてしまった。というかライトで照らしてしまった。
そのことに気づき、ばっとスカートを抑える。
「見た?」
「赤」
「なんで見んのよ……」
「そんだけ短いスカート穿いてよく言うな」
「ライト寄越しなさい……」
彼女は俺のペンライトを没収しズンズンと先へと進んで行く。
すると暗がりの中から花の形をしたモンスターが現れる。ツタ状の触腕をもち、花弁の部分には捕食用の巨大な口がついている。
【イートラフレシア】という、見た目もカテゴリーも植物なのだが、触腕で動植物を捕獲すると強酸で溶かしながらバリバリと食ってしまう危険なモンスターだ。
植物だから移動できないだろ? と思うかもしれないが、獲物を見つけると根っこをせかせかと動かして、高速で移動してくる。
油断できないと思っていると、輝刃はハンドガンを取り出し、パンパンパンっと弾丸を花弁に見舞う。イートラフレシアは「キシャー」と断末魔を残して倒れた。
「あっさりだね……」
「銃の使用は禁止されてないわ」
「てっきり魔法的なものを使うのかと思った」
「魔法を使うなんて最終手段よ。銃の方がスマートで効率がいいわ」
優等生が言いそうな言葉だ。輝刃は腰のホルスターに銃を直すと、更に先へと進む。
その間に俺は蜂の巣にされたイートラフレシアから蜜を採取する。この蜜、とても香りが強くモンスター誘引剤の材料として使えるのだ。
「早くして。置いてくわよ」
「待ってくれ~」




