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第2話 悪友

「ユウ君、今日レイヴン試験よね? ライセンスとれそう?」

「うん、後はペアのチーム実技試験だけなんだけどね」

「教官は誰かしら?」

「確か大巳おおみ先輩だったかな」


 教官というと普通大人の先生を想像しがちだが、ここでは先輩である上級レイヴンが下級生の試験を受け持つことになっており、大巳先輩は雫さんの同級生でもある。


かなでちゃんか~、あの子厳しいのよね……。ユウ君もう実技2回も落ちちゃってるし……。そうだ私が試験教官しようか?」


 雫さんはグッドアイデアと言わんばかりに手を打つ。


「ダメだよ、雫さんだと忖度しちゃうから」

「でも、ユウ君が可哀想……じゃあじゃあ私が試験のペアになろっか?」

「だ、ダメだよ。雫さん上級ライセンス持ちなんだから。そんなパワーレベリングみたいな……」

「でもでも」

「いいんだよ。ちゃんとレベルが足りてないから落とされてるんだし。むしろ能力もないのに合格しちゃう方が問題だよ」


 適当に合格して、いざ危険な任務を受けた時実力が足らず、最悪死に至ることだってある。

 だったらしっかりと自分の力を上げて、試験を突破しなくてはならない。


「お友達にも抜かされちゃってるんでしょ」

「うぐ……まぁ、それは……うん」

「私、ユウ君がポンコツって言われてるの聞いちゃって、将来ポンコツカラスになるんじゃないかって心配してるの……」

「う、うん。ごめんね不出来で」


 ポンコツカラスとは何度もミッションに失敗する、レイヴンの蔑称みたいなものである。


「いいのポンコツでも。昔の諺にバカな子ほどかわいいっていう言葉があるのよ」

「う、うん。雫さん。多分それ慰めになってない気がする」

「もしユウ君がレイヴンになれなれなくても私がユウ君を一生守ってあげるから安心して!」

「あ、ありがとう。でもヒモにはなりたくないから」

「ヒモじゃないわ。だって従妹だもの!」


 従妹と言ってもかなり遠縁にあたるのだが。

 雫さんは若干過保護なところがある。そのお陰で学園の同級生からはママが見てるぞ、なんてからかわれたりもする。ママって言うな姉と呼んでほしい。


「いや、あんまり試験に落ちてると放校処分になっちゃうし」

「させないわ! その為に偉くなったんだから!」


 ダメだこの人、権力の使い方が清々しいほどにブラコンだ。


 時刻は午前8時半を回り、俺は実技試験が行われる訓練場へと向かう。生徒が住む宿舎エリアを抜け、エントランスへと入った。

 このエントランスには8基のエレベーターがあり、それぞれが艦の学科教室、訓練場、生徒宿舎、ショッピングセンター、農業、工業エリア、出雲機関室、職員室へと移動することができる。

 俺は電子端末にIDカードをかざすと、訓練場行きのエレベーターが開き、中へと入る。

 本来俺みたいなライセンスを持っていない生徒は座学と訓練の繰り返しで、たまに上級レイヴンのミッションへとついていく。

 ここにいる生徒の大多数は決められたカリキュラムを持っているわけではなく、各々が特化したい学科を受講し、単位を取得してからライセンス試験へと臨む。その為皆揃って授業を受けることの方が珍しい。

 そんな俺は機械工学と化石復元学という、ちょっとかわった専攻をしている。


「ライセンスがとれたら一人前なんだけどな」


 必修の戦闘科目のハードルが落ちこぼれにはかなり高い。

 レイヴンに戦闘はつきもので、戦えて当然という風潮がある。それはそうだ弱いレイヴンなんて需要がない。

 俺が小さく息を吐くと、チーンと音を響かせてエレベーターが開く。

 訓練場目指して廊下を歩いていると、前から友人の猿渡さるわたり慎吾しんごが姿を現す。名字の通り眼鏡をかけたひょろい男で、とてもエージェントとは思えない凡庸なオーラが漂っている。

 猿渡はかなりお疲れの様子で、紺色の制服のいたるところに泥がついていた。


「おぉサル」

「おっ、トリ」

「今帰ったのか?」

「そっ、プリンシティで合流した」

「すげぇお疲れだな」

「上級生のミッションに随伴したんだけど、めちゃくちゃ疲れた。肉食モンスターを捕獲する為に湿地帯の泥沼で一日中待機。マジで地獄」

「大変だな」

「とりあえずこれでライセンスに必要な任務科目の単位は取得した。お前は?」

「今から実技試験だ」

「あーそっか、お前確か実技2回も落ちてるんだろ?」


 あはははダセェと笑う猿渡。他人事のように言っているが、こいつは3回落ちている。

 コイツとはライバルというか、底辺を争う赤点仲間のようなものだった。


「技術士に実技を求めるのは酷だと思う」


 本当なら俺は出雲のような艦を直したり、任務で使う特殊車両などを扱うのが主目的で戦闘は得意ではない。


「教官鬼になってない?」

「少しツノ伸びてきてる。でも大巳教官が厳しいのはいつものことだからな」

「オレのときは死にたいのかこのゴミムシが! って散々尻を蹴り飛ばされたぜ」

「それは嫌だな」

「あぁ、興奮が止まらなかった」


 猿渡は真性のMである。


「それは良かったな」

「まっ、試験落ちてオレと肩を並べてくれ」

「全力で断る」

「じゃ俺は、悲報小鳥遊悠悟、3度目の試験落ちを期待しながら寝るわ」

「お疲れさん」


 ヘロヘロな猿渡はそのまま自室へと帰って行った。


「いろんな任務があるんだな……」


 っと、悠長に話している場合ではなかった。早く試験場に行かなくては教官に怒られてしまう。


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