7_トラのマーチと神田家の料理
『GAME☆ユートピア』では、テーブル席に紗希、大輔、奈々、三人が相談をしていた。
「テストが終わってやっとゲームできると思ってたんだけどな…」
紗希はトレジャーバトルの台を見る。一週間前より客が増えたようだ。
「最近GUNが姿を見せないのは、『GAME☆ユートピア野日店』にいるからだってウワサで盛り上がってるわよ?」
奈々は、じゃがりんを一つ持つ。
「どーゆうこと?」
紗希は、イチゴミルクのパックジュースを飲みながら奈々に視線を向ける。
「ゲーセンに追っかけが来て、GUNは正体がバレたくないから、オンラインバトルしてないってことらしいわ」
「オレはゲーセンの店員が怪しいって書き込まれたチャットを見た」
「それって…ほぼ正解だよね…?」
紗希もじゃがりんを取った。大輔が真剣な表情になる。
「紗希…オレは、GUNの正体はバラさないほうがいいと思う」
「私も賛成」
手のひらを上げて奈々も続く。
「なんで?正体を隠した方が面白いから?」
紗希はのん気だ。
「正体がバレると変なことに巻き込まれるかもしれないだろう…?」
大輔はコーヒー牛乳のパックを飲んだ。
「そうね、変態にストーキングされても怖いし」
「えぇっ、そんなことあるの?」
「分からないわよ?」
意地悪く奈々が茶化す。
「オレが『GAME・ユートピア(野日店)』なんてIDにしたのが悪かったのかも…」
「そうかしら、この集客率はスゴイと思うけど…?」
店内は結構な人数のお客で賑わっていた。
「私、こんなにお客さんが入ってるユートピアを見るの、初めてかも」
「私もー」
紗希と奈々が笑っていると聡史が話しに加わった。
「盛り上がってるところ悪いね~」
「聡史おじさん、どーしたの?」
紗希が聡史に聞く。
「一週間くらい前にGUNに渡してくれって手紙もらってさ…」
「手紙とか置いていくんですか?」
アナログー、と奈々がつぶやきながら4通ほどの手紙やメモを紗希に渡した。
「一応、紗希ちゃんに渡しておこうと思ってね」
それだけ言うと聡史はまたカウンターに戻って行った。
「なんて書いてあるんだよ、紗希」
手紙が気になる大輔だ。一つ目のメモを開いた。
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GAME・ユートピア(野日店)さま
僕はあなたのファンになってしまいました。
もし良かったら今度ゴハンに行きませんか?もちろん僕の奢りですけどね。
会いたいです。あなたも僕のことが気に入ると思いますよ。
メール待っています。
×××.××○○××@co.jp
◎◎ ¥¥
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「なにこれ~超怖い」
紗希は完全に引いている。奈々も痛い顔をしていた。
「はい、捨てよう」
大輔が紗希からメモを取りビリビリに破いた。
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こんにちは
俺たち、『イエローモンキー』ってチームです。
もし良かったら俺たちのグループに所属しませんか?グループに所属するって楽しいですよ。交流場所は▽▽駅のゲーセンです。
気軽に電話して下さい。お待ちしています。
090-××○○-1234
イエローモンキー 代表:×◎ ××
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「チームのお誘いってわけね」
「興味ないや~」
またビリビリにメモを破いた大輔だ。
「親父もこんなの無視して捨てておけばいいのに」
大輔がブツブツ言う。
紗希が「あっ!」と言いながら奈々に質問をする。
「ねぇ、奈々。チーム名って必ず動物の名前が入ってない?」
「確かに…『イエローモンキー』とか『トラのマーチ』とかな」
大輔も思い出したように奈々に言う。
「うーん…諸説あるけど、二人は『ドッグタグ』って有名なチーム知ってる?」
「オレは聞いたことあるぜ」
得意気になる大輔だが、紗希は首を振る。
「私は知らない」
「強いチームなんだけど、そのチーム名の真似をして動物の名前をチーム名に入れるのが流行したのよね」
へぇ~、ふーん、と質問した二人の反応は薄かったが、奈々は気にせず話を続ける。
「他には『青い淡水魚』、『眠れる森の小鳥』『黒猫のタンゴ』…とか、有名かしら?」
「どこでそんな情報を手に入れるの?」
「ちょっとしたコネでね、大きい情報源を持ってるの」
可愛くウィンクする奈々だった。
紗希は次のメモを広げる。
「あれ…?」
大輔もすぐにメモを確認する。
「ト、トラのマーチ…?」
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俺と勝負しろ!
お前に初めて黒星をつけてやるよ!
ID名は「真一」だ。
トラのマーチ 真一
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「ホントだー」
紗希も驚く。奈々は、トラのマーチの話を続けた。
「真一ってプレイヤー有名よ」
「そんな有名人がわざわざ来たのかよ~」
スゲーという大輔に紗希も続く。
「ウワサをすればだね…」
二人は驚いているが、奈々だけは真剣な表情になって考えていた。
(なにか引っかかるわね…)
三人は次のメモを開いてあーだ、こーだと話していた。
奈々は自宅のマンションに帰った。玄関には自分が履かないピンヒールの靴がある。
(あれっ…ひょっとして…帰ってきてる?)
奈々がリビングを開けると母親の理恵が食事を作っていた。キッチンは使い終わったようなボウルや材料などで散らかっている。
「…ママが早い時間に帰ってくるの珍しいね」
奈々はカバンを置いて理恵の元へ近づく。
「あらっ、お帰り~」
理恵はフライパンでステーキを焼いていた。
「…ただいま」
(ステーキであんなに散らかるの?)
奈々は驚きながら母親の食事風景を見る。
「ママって何でもできるけど、料理は段取り悪いよね…」
奈々は冷静にジャッジを下した。
「お金ガンガン稼げるからいいのよ!」
ポジティブな母親に奈々は笑う。
「そうだね…私も手伝う」
リビングに出しっぱなしの食料を冷蔵庫にしまう。
「奈々、高校生活はどう?」
「うん、楽しいよー。でも今ユートピアが大変なことになってる」
「ああ、聡史から聞いてるわ」
理恵はワイングラスを持ってワインを飲む。
「紗希ちゃんがやってるトレジャーバトルのことでしょ?」
「話しが早いね」
「今日、加奈とも話したんだけど、明日から対処していくわ」
「紗希のママと話したの?それで…対処って何をするの?」
「まぁ、見てなさい」
パチっと片目をつぶりながら自信あり気の理恵だった。
「それと、赤シャイニーのことなんだけどさ~」
チーズを取り出しながら理恵は話を続ける。
「あっ!その話しはいいの。赤シャイニー本人から聞きたいし」
奈々はさっぱりしている。ふと見ると理恵が高級なチーズをステーキに乗せようとしていた。
「ママ、こんな高いチーズ乗せるのはもったいないよー」
「そう?何事もチャレンジでしょ!」
チーズを乗せる理恵だ。キャーキャー言いながら料理が終わらない沖林家だった。