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6_中間テストと挑戦状


――とある昼下がり大企業の開発室で一人の女性がパソコンに向かって仕事をしていた。


「ちょっと一休みしない?」


コーヒーを机に置きながら営業スマイルを浮かべるのは沖林理恵だ。奈々の母親で営業職に就いている。


「美味しそうなコーヒー…」


紗希の母親の加奈がラフな格好でパソコンから視線をあげる。。パソコンの横には写真立てがある。その写真に写っているのは宮永家だった。


「…加奈、お化粧してないの?」


振り返る加奈は眠そうな顔でひどく疲れた様子に見える。頬がやつれてしまっていた。逆に理恵の方はキッチリとしたパンツスーツにお化粧もバッチリで、ほのかにシトラス系の香りがする。


ここは、大手ゲーム会社サガの自社ビルで『トレジャーバトル3』の開発制作室である。加奈はゲーム開発チームの責任者の一人だ。


「それどころじゃないのよ…」


加奈は情けない声を出す。開発部屋には休憩スペースがあり、二人はそこに座る。


「スケジュール押してるの?」


「三日分くらい進捗が遅れてる」


加奈は理恵が買ってきたコーヒーを飲む。


「あらっ、大変…。営業部の私にできることはないけど…」


別にいいわよ、と肩をすくめる。


「それでね…この前、聡史から電話があったんだけど…」


「また新しいプリクラの機種を貸せって?」


大輔の父親の聡史と加奈と理恵は幼馴染である。


「違うわよ、娘がね…赤シャイニーは誰かって聞いたんだって」


「さすが奈々ちゃんね!」


加奈はコーヒーを置いて笑い出す。理恵の方はうーんと考えているポーズだ。


「私もさ…離婚して自分勝手に生きてきたから…」


「ついつい、奈々ちゃんには甘くなっちゃうわけね?」


理恵の先を加奈は読む。


「奈々ちゃんには本当のこと話してもいいわよ」


加奈の開発部屋には一台のゲームマシーンが置いてある。そのマシンを使って、毎日娘の紗希と対戦していた。


「母親の私が紗希と対戦してる赤シャイニーだってね…」





ゲームセンター『GEME☆ユートピア』はちょっとした現象が起こっていた。


「トレジャーバトルしている『GAME・ユートピア(野日店)』って人、知ってますか?」


カウンターにいる聡史はちょっと面倒くさい表情になっている。


「店の外に貼り紙を出してますけど…そんな人は知らないんですよ」




******************************

当店からのお知らせ


トレジャーバトルの『GAME・ユートピア(野日店)』と当店は全く関係がありません。

『GAME・ユートピア(野日店)』をお待ちいただくことはご遠慮させて頂きます。


店長

******************************



張り紙をしても朝から『GAME・ユートピア(野日店)』のことを聞かれた。また、トレジャーバトルのゲーム機はほぼ全部プレイされていた。


プレイしていない客も誰がGUNなのか興味津々といった感じだ。


(盛況でいいことなんだが…どうしたもんかな…)


トレジャーバトルの台を見ながら少し困っている聡史だった。すると若い二人組みの男がゲームセンターに入ってきた。


真一と俊介だった。


「貼り紙に書いてあったけど、やっぱりGUNはいないのかよ!」


「渉が言うには女の子じゃないかって話しだよね…?」


俊介が辺りを見渡すと女の子も何人かトレジャーバトルの台にいる。


「GUNは、午後の4時から6時くらいに出没か…」


「なぁ、あの左側の茶髪がシャイニー使ってプレイしてるぜ」


真一が大学生くらいの茶髪を指さしながら言う。二人は茶髪の男の近くに移動した。




大輔たちが学校から帰ってきた。大輔の後ろには紗希と奈々の姿もある。


「聡史おじさん、こんにちは~」


紗希と奈々は聡史に対していつも通りの挨拶をする。


紗希たち三人はゲームセンターの奥へと進んで、キッチンダイニングに入ると靴を脱いでテーブルに座った。


「相変わらずトレジャーバトルの台が、すごいことになってるわね」


「聡史おじさん、本当に困ってないの?」


紗希は教科書を取り出す。


「後でお店の手伝いに行こうか?」


奈々も教科書と筆記用具を並べる。大輔は飲み物を準備していた。


「それより中間テストの心配しろって言われたぜ?」


大輔がコップを三つ持ってきて置いた。


「頑張るしかないってことだね…」


勉強があまりできない紗希はやる気がない表情だ。よしっ、と奈々が気合を入れる。


「中間テストまであと一週間、みっちり勉強するわよ」


紗希と大輔はガクッとなった。




「x²-4x+4=0ならば、xの値は?」


奈々が二人に問題を出す。


「x=-2?」


大輔が計算しながら答える。


「おしい。落ち着いて、因数分解してみて」


「(x-2)²=0だから…」


「x=2ってなるよね」


奈々と大輔のレベルについていけない紗希だ。


「ごめん、奈々。もう一回説明して?」


「いや、今説明したじゃん」


どうしたら紗希が理解できるか奈々は骨を折ることになる。いつものことである。


「紗希、6x×3x²のxの値は?」


「えーと…18x²」


「おしい…18x³でしょ?」


奈々は根気よく紗希に数学を教えていく。





一週間後――


立ノ川サガのゲームセンターでは、真一と渉がいつものようにトレジャーバトルの台にいた。


「一週間くらいGUNがオンラインバトルしてないんですよね~」


渉がオンライン用の画面で観戦をチェックする。真一はシェイクを飲みながら画面を見る。


「俺も『GAME☆ユートピア』のゲーセンに行ったけど、GUNは分からなかったんだよな…」


真一は思い出しながら力無げにシェイクを飲む。


「…実は僕、GUNのあることに気がついちゃったんですけど」


「なんだよ?」


「GUNっていつも同じフィールドで対戦してるんです」


人差し指を立てながら渉が言うと、真一はしばらく考えてピンときた。


「工場跡地…鉄パイプフィールドってことか?」


「そうなんです」


大きく渉は頷く。


「しかも僕がGUNの追っかけを開始したのは、僕が負けた後すぐ…だったんですけど」


椅子を半回転しながら渉は続ける。


「ほぼGUNは、鉄パイプフィールドで対戦するんです」


「得意なフィールドって誰にでもあるし、珍しくないんじゃないか?」


あまりピンと来ず真一はフーンと流す雰囲気だ。


「さっき、僕が負けたあとすぐにGUNを追っかけしたって言いましたよね?」


「あぁ…」


「僕が負けたときにGUNのIDをチェックしたらGUNは一勝目だったんです」


「あの10分で負けたバトルな、覚えてるよ…」


笑う真一はハッとなる。


「ん?渉に勝ったのがGUNのデビュー戦ってことか…?」


「はい、あれからGUNは同じフィールドで必ず対戦するんです」


確信に迫りそうな表情で渉は笑う。真一もまた興味が出てきた様子だ。


「何かありそうだな、GUN」


真一も不敵に笑う。





「あっ、いたいた~」


俊介が合流した。


「なぁ、今日はなんだか周囲がザワザワしていないか?」


俊介は辺りを見渡す。真一と渉を見る何人かの女の子がいるのだ。


俊介は知らないが真一と渉はかなりモテる。二人の追っかけと単純に『トラのマーチ』のチームの追っかけもいる。


「何でって真一さんの追っかけですよ、俊介さん」


「『トラのマーチ』ってかなり有名なんだぜ?」


「よく分からないけど、スゴイな~」


俊介はマイペースに驚いている。


「月1回の交流会のときは、もっと周囲もスゴイぜ」


「特に女性客が多いです」


「ココで交流会してんの?」


素朴な疑問に渉が答える。


「新宿西ですよ」


ヘーと言う俊介だ。



突然真一は思い出して先ほどの話を続ける。


「そうだ、渉!」


「なんですか、真一さん?」


キョトンとする渉だ。


「俺、この前『GMAE☆ユートピア』に行った時に店員にあるものを渡してきたんだ」


「…あるものって何ですか?」


「挑戦状!」


ハハッと笑う真一に驚く渉だった。







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