51_トレバト本選大会_準決勝
準決勝が始まった。
紗希の相手は「チャーリー」、フィールドは「ジャングル」だった。
シャイニーは、木々に飛び移りながら相手の出方を見る。チャーリーは最短コースでシャイニーに近づいているように見える。
(狭い場所に誘ってみようかな…?)
シャイニーは木々があるほうへと飛び移る。相手は警戒しながらシャイニーを追いかける。
(私が望む展開にわざと乗ってくれたのかな…?そんな…まさかね…)
狭い場所にシャイニーとチャーリーがいる。お互い動かずに木の上に立っている。
相手は撃ってこない。
(嫌な空気…そっちが来ないなら…私から行くよ…)
シーンとした静寂を破ったのはシャイニーの攻撃だ。
バンッ!
チャーリーは木に飛び移りながら攻撃してくる。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
チャーリーの攻撃は二丁拳銃だ。ようやく攻撃してきたな、と紗希は思った。
(うまいけど…これなら大丈夫…)
緊張感や不安感が消えた。
急に視界がクリアになる。紗希は無謀にも相手プレイヤーに近づく。
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
当然、チャーリーの攻撃の的になるが、シャイニーには当たらない。
シャイニーは攻撃に転ずる。
バンッ!
バタッ…
シャイニーの攻撃がヒットし、チャーリーは木から落ちて倒れた。
『 YOU WIN !! 』
開始15分足らずで紗希は勝利する。
後ろから見ていた小林は「もうGUNだろう、これは完全にアウトだろう」と心の中で思ったが言わないことにした。
紗希のプレイを見た観客のざわめきはピークだ。
『どういうこと…?やっぱりGUN…?』
『嘘だろう…あんなプレーできるか?』
観客席にいる奈々も渉も気が気でない。
「紗希…大丈夫かしら…?」
「そうだよな…さすがに…バレたか…?」
「いえ…ネットで見る限りバレていません…」
俊介がGUNになりすましてオンラインバトルをしていると渉にも伝えてある。
オンラインバトルは携帯電話から見ることもできる。
渉は携帯電話を奈々と大輔に見せる。
「俊介さんのプレイはGUNそのものって感じです…。いつものようにシャイニーを使って速攻で対戦を終わらせるスタイル…。見る限りGUNで間違えありません」
「さすが紗希の兄貴だな」
「本当ね…良かった…」
三人が話している中、真一が負けてしまった。
「ぎゃぁーー。真一さんが負けたーー!!」
渉の叫びに奈々と大輔がビクッとする。
「渉…まだチームが負けたわけじゃないぞ!」
「そ、そうよ!広瀬先輩ならきっと大丈夫よ!応援しましょう!!」
三人は声をそろえて優斗を応援する。
大将対決に会場はなお一層の盛り上がりを見せる。
「小林さん、すみません…」
「惜しかったな…あとちょっとだった…」
小林が真一をねぎらい、そのまま三人で優斗を見守る。
優斗は集中していた。相手は「チャーリー」フィールドは「工場跡地」だ。
平田はスピーディーな動きかつ多彩な攻撃を仕掛けている。一筋縄ではいかない相手に優斗は悪戦苦闘していた。
(…もう近くまでいるっ!!)
気づいた時には攻撃が飛んでくる。
バン!バン!バン!バン!
(攻撃が…移動が…早い…早すぎる…)
チャーリーは距離を取るために後ろに飛ぼうとした。
(狭い…そうか…!)
バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!
狭い路地に誘いこまれていたのだ。危機一髪だった。冷汗が流れる。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
シャークは威嚇射撃した。その攻撃をチャーリーはあっさり避ける。
その避ける姿を見た優斗はあることに気が付いた。
(そうだ…このスピードにキレがある避け方…まるでGUNのような…?)
このまま対戦していたら確実に優斗は負ける。
もう選択の余地はない。優斗は全身全霊を傾けて勝負に挑む。
(仕掛けるんだ…僕から……いけっ!!)
優斗は無謀にも正面から相手を待ち受ける。
「ゆ、優斗…危ないっ!!」
「優斗さんっ!!!」
後ろから仲間の声が聞こえる。だけど僕は止まらない。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
バン!バン!バン!バン!バン!
バタッ…
ワァァアアアアアァァ~~~~~~!!!
後ろにいるメンバーは優斗のモニターをのぞき込む。
『ただいまの試合、『トラのマーチ』の勝利だ~!!』
大会の司会進行のアナウンサーが会場を煽ると、驚きとどよめきと…そして最後は客席から割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「優斗さん…すごい…」
紗希は圧倒された。
果たして自分は今のようなプレイができるのだろうか、と考えてしまう。
「優斗…」
マネージャーの声にも優斗は反応しない。
会場の拍手は鳴りやまず、スタンディングオベーション。とても準決勝戦とは思えない。
歓呼の声がボルテージを超えてようやく優斗は立ち上がる。
対戦相手の平田も立ち上がって優斗とステージ上で握手する。
優斗は穏やかな表情でメンバーの元に戻ってきた。
「やりました…勝ちました…」
「さすがです、優斗さん~!!」
「たいしたもんだぜ」
「…喜ぶのはまた後で」
小林はメンバーをまとめて舞台上に整列を促す。対戦相手と握手して、ステージを降りる。
「次は3位決定戦です。決勝戦まで時間がありますので少し休憩しましょう」
小林は選手控室に戻らず、ステージ裏から3位決定戦を見ていると伝える。
「僕たちは控室に戻りましょうか?」
「そうだな。紗希、優斗、よくやったぜ!」
三人はハイタッチした。
選手控室のモニターでは、3位決定戦が映し出されている。
『青い淡水魚』対『眠れる森の小鳥』だ。
優斗は小林と話があると言って選手控室からステージの舞台裏に歩いて行った。
紗希が座っている席から二人が見える。
「…小林さんは勝ててもあんまり嬉しくなさそうですね?」
小林は勝っても表情を崩さない。無表情すぎる、と紗希は思う。
「いや、そんなことないぞ。小林さんはああ見えて、めちゃくちゃ喜んでる」
そうかな、と疑問の紗希だ。
「…紗希は知らないかもしれないけど…小林さんの夢は大会で優勝することなんだ。小林さんの夢は僕が叶えるって…前に優斗が言ってた」
「優斗さんが…?」
「そう。あの二人には特別な絆があるんだ。それに『眠れる森の小鳥』の3番手、花崎さんは元トラのマーチだから…気になっているんだと思う」
「…元トラのマーチって多いですよね。今日も…香坂里奈さん…でしたっけ?その女性に会いました」
「そうか…紗希も里奈のこと知ってるのか…」
「少し聞いただけです…。真一さんがトラのマーチに入会したのは香坂里奈さんがいたからだって…」
「紗希…その話はまた今度な…」
もっと話が聞きたい…と思う紗希の前に、突如、モデルのような男性が立ちはだかる。
サングラスを外した目はキラキラしている。
「やぁ、倉梯君と…宮永さん…?」
紗希は誰だろうと思ったが、隣に座っていた真一がスタッと立ち上がる。
「こ、こんにちは、芹沢さん!」
「…うん、いいお返事…元気にしてるみたいだね?」
真一の頭をポンポンと撫でている。
「…大学には受かったの?」
「は、はい…おかげさまで…」
「…ハル兄…真一さんが怯えてます…」
優斗と小林が戻ってきた。
「ユウ君~会いたかった~」
「さっきも挨拶したじゃないですか」
優斗と戯れている人は誰だろう、と思っていると席に座り直した真一が教えてくれる。
「芹沢春樹さん、元トラのマーチ…で…今は『ドッグタグ』のリーダーだ」
「えっ…?ドッグタグの…リーダー…?」
前に優斗の家で芹沢の写真を見たことを紗希は思い出した。
トラのマーチの初期メンバーで、優斗が兄のような存在だと言っていた。
「芹沢さん、今日はマネージャー枠で大会に参加しているらしい」
真一の一言にさらに驚く。
「そう…なんですか…?それじゃあ大会には参加しないんですね…?」
優斗が強いプレイヤーだと言っていたので、見たかったと思う紗希だ。
芹沢は優斗と小林と三人で楽しく話している。
もともと同じチームに在籍していたなら仲が良くて当然かもしれない。
「紗希さん…紹介しますね…」
「は、はい…」
突然、優斗に話しかけられて、紗希は勢いよく立ち上がった。
「芹沢春樹さん。今は『ドッグタグ』のリーダーですけど、前はトラのマーチに在籍していました」
「は、初めまして…宮永紗希です…。昨年の11月にトラのマーチに入会しました。よ、よろしくお願いします」
紗希は深くお辞儀した。
「芹沢です。トラのマーチを辞めたくなったら、いつでも僕のチームに来ていいからね」
紗希はどう答えたらいいのか分からなかった。ただ、芹沢の目がキラキラしていて、キラキラが紗希に飛んできそうだった。
「ハル兄…」
「な~んてね、冗談だよ」
芹沢は小林の肩をポンッとたたく。
「匡宏、最高の決勝戦にしよう」
「はい…よろしくお願いします!」




