5_政輝と誕生日会
「やたぁー勝ったぁ」
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YOU WIN !!
GAME・ユートピア(野日店) VS セイラ
DATE 2008年5月17日
TIME 21:06
*あなたの成績*
GAME・ユートピア(野日店)((NON TEAM)) 105勝0敗
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「やったな、紗希!」
「うん!大輔のカタキを討てた気がして嬉しい」
チャットが盛り上がっている。
(No.44)セイラに勝つなんてやるじゃん!
(No.45)GAME・ユートピア(野日店)やったね
(No.46)GAME・ユートピア(野日店)おめでとう!!
(No.47)GAME・ユートピア(野日店)って名前長すぎねーか?
(No.48)頭文字だけ取ってGUNって呼ぶのは…
(No.49)GUNか…いいんじゃなイカ?
「紗希、もう準備終わったよ~」
奈々に呼ばれる。
「準備って何だよ、奈々?」
大輔はまだ分かっていないようだ。紗希は「オッケー」と頷く。
「今日はもう、閉店にしちまうか?」
聡史はタバコを吸いながら入り口の近くに行き、ドアを閉めてしまった。
ゲームセンターの奥の扉を開くとダイニングキッチンへとつながる。そのテーブルの上にはケーキ、たこ焼き機、唐揚げ、ジュース、サラダが並んでいる。
「おぉー!何このご馳走?もしかして…オレの誕生日だからっ?」
「そうだぞ。奈々ちゃんと紗希ちゃんがお前のために用意してくれたんだぞ」
聡史もテーブルに座る。
「親父、だからって、閉店にしちまっていいのかよ?」
「たまにはいいだろう」
紗希が最後に部屋に入り、クラッカーを持つ。
「じゃあ、今から大輔の誕生日会を始めま~す」
パーンと紗希、奈々、聡史がクラッカーを放つ。ささやかなパーティーが始まった。
「ここが『GAME・ユートピア(野日店)』だよ」
俊介の案内でゲームセンターまで歩いてきた真一だった。
「なんだよ、やってねーじゃん」
お店には『閉店』と書かれたプレートがぶら下がっていた。真一はイライラしながら、つまんねー、と口を尖らす。
「場所は分かったんだし、また来ればいいじゃん」
「まぁ、そうだけどよー」
チッと舌打ちして帰ろうとする。
「帰り、コンビニでなんか買ってやるから機嫌直せよ」
「マジか?じゃあ、機嫌直す」
二人は来た道を引き返す。
「待ってるアイツらにも何か買ってってやるかな~?」
俊介はお財布の中身を確認した。
誕生日会も終わり、紗希と奈々はゲームセンターの横のドアから出る。
「今日はありがとね、奈々ちゃん、紗希ちゃん。大輔、ちゃんと二人を送るんだぞ」
「分かってるよ、親父」
大輔が紗希と奈々の真ん中を歩いている。
「紗希にもらった目覚し時計と、奈々にもらったリストバンド、大切に使うよ…」
「うん」
「オレ、今日の誕生日会、すごく嬉しかった!ありがとな!!」
紗希と奈々は顔を見合わせる。
「大輔…私たちね…実は、聡史おじさんに頼まれたんだ」
――今、妻が出張でいないから二人が大輔の誕生日を祝ってあげてくれないか?
聡史が紗希と奈々にこっそり言う。
――いいですけど、大輔の家で誕生日会を開けば聡史おじさんも参加できますよね?
――俺も参加するのか?アイツ、嫌がるんじゃないかな…?
ブツブツ言う聡史を奈々と紗希で押し切って行動した。
「おじさんに後で感謝しときなさいよー」
「…親父がオレのために?」
紗希は大輔の背中をバシッと叩く。
「私、コンビニ行くからここでいいよ~。また明日!」
紗希がいなくなった後、大輔は奈々に悩みを話すようにつぶやいた。
「オレ、あんまり空気とか読めるタイプじゃないからさ…」
「ずぅーっと前から知ってるけど…?」
奈々は茶化すように言う。
「だからオレが今日みたいに親父のこと…分かってない状況になってたらさ、教えてほしいんだ」
「…紗希に教えてもらえば?」
「いや、アイツにはカッコ悪いところあんまり見られたくないし」
「あらっ、私ならいいってわけね?」
ふーん、と言う奈々に「別にそういうわけでもないけど…」と焦る大輔だ。
「まぁ…考えておいてあげる」
「おうっ」
奈々は大輔に気づかれないように、フゥーとため息を吐いた。
紗希はコンビニで、じゃがりんの新作が買えてホクホクしていた。コンビニから出ると、偶然にも優斗が歩いている。
「ゆっ、ゆ…広瀬さん!」
紗希は驚きながらも優斗のそばに駆け寄る。呼ばれて振り返る優斗は、肉マンを食べていた。
「あの…宮永紗希です!宮永紗希です!!」
紗希は優斗に名前を憶えてもらいたくて、必死だった。
「そうそう…宮永さん…」
「はい、こここ、こんばんわ…」
「こんばんは…。ごめん、話してる最中に食べてて…」
「えっ…?い、いえ、いえ、もう好きなだけ食べて下さい!!」
クスクス笑う優斗は二口で肉マンを食べ終わった。
「あの…広瀬さんは…肉マンがお好きなんですか?」
「特別好きってわけじゃないけど、さっき知り合いがくれたんだ」
「そうでしたか…」
優斗が笑う姿もカッコイイと思っていた紗希は、マフラーのことを思い出した。
「あっあの、広瀬さんに借りていたマフラーを返そうと思って…」
「あぁ、白いマフラーですね?」
「はい、毎日コンビニに持って行ったんですが、会えなくて…」
「そう…でしたか…。あの…もし良かったら、あのマフラー使ってください」
えっ、と驚く紗希だ。
「…いいんですか?」
「はい、だいぶ古い物ですが…」
「あ、ありがとうございます。大切にします!」
二人は歩きながら話しを始めた。
「あの…この前は一日食べてない、と聞きましたが…ダイエットの一環でしょうか…?」
モデルの職業を行っている優斗に対して紗希は質問をした。
「…まぁ、そんなところです」
うつむいてしまう優斗のことが紗希には分からなかった。まだまだ話したいことがあったが、前回分かれた道まで来た。
「遅いから気をつけて返って下さいね」
「はい、おやすみなさい…。マフラーありがとうございました!」
優斗は会釈して颯爽と歩いて行く。その姿を見ながら紗希は思う。
(儚げな優斗さま…。でも…マフラーくれるとか優しすぎる!!)
優斗さまに幸せを、と念仏を唱える紗希だった。
優斗の携帯電話のバイブが振動した。まだ帰り道の途中である。
立ち止まって電話に出る。
「…はい、広瀬です」
「消費者金融の金本です。今月の入金を確認しました」
「はい…来月も25日までに入金します」
感情がない声で優斗は電話の相手と話す。
「クックック…大変ですよね~広瀬さん。お父様の借金を肩代わりしてるなんて」
「…用件が終わったなら切ります。失礼します」
電源を押して電話を耳から離す。電話をにぎる手に力が入った。
聡史はキッチンでタバコを吸いながら妻の真理と話していた。
「大輔の誕生日は紗希ちゃんと奈々ちゃんが頑張ってくれたよ」
『あらっ、大輔の喜ぶ顔が目に浮かぶわね』
フゥーとタバコの息を吐きながら聡史は真剣な表情になった。
「アイツ、高校に入ったらサッカー部に入ると思ってたんだ」
『昔からサッカーが好きだったものね』
真理も落ち着いた声で話す。
「ああ。だがな、店の手伝いを毎日するんだ。当たり前みたいにさ」
『ぷっ。あの子って根が優しい子なのよね~』
頭ツンツンしてるのに、と真理は笑う。聡史は頭をボサボサかいた。
『心配することないわよ、私が産んだ子だもの』
「…お前が言うと頼もしいよ」
「ただいまー」
どうやら大輔が帰ってきたようだ。
「真理、仕事もいいけどたまには家に帰って来いよ」
聡史は電話を切ってリビングに移動する。
「ちゃんと二人を送ってきたのか?」
「ああ…」
不自然な間に聡史は大輔を見る。
「…なんだ、どうかしたのか?」
「別に…それより今からテレビ観るから」
大輔はテレビの電源をつけ、サッカー番組を見る。
「サッカーか……なぁ…大輔」
「ん?」
「サッカー部に入らなくて良かったのか?」
「何で?」
「サッカー好きだろう」
「…オレさ、サッカーも好きだけど紗希がゲーセンによく来るし…一緒にいたいんだよ」
少し照れながら大輔が言う。
「そうか…」
安心した聡史だ。タバコをフーと吐きながら聡史は奈々のことを考えた。
(奈々ちゃんには可哀想な話しだがな…)
「あのさ…今日の誕生日会…楽しかったよ」
大輔はテレビを見ながら言う。聡史はフッと柔らかい表情になった。
そのあと、夜遅くまで、二人でサッカー観戦となった。