49_トレバト本選大会③
アナウンサーの呼びかけとともに、音楽が鳴り響く。
『次の対戦は、『トラのマーチ』対『竜宮の召使』です~。出場者の皆様はステージにお越しください』
トラのマーチの四人は舞台に上がり、対戦相手と握手する。
「広瀬君、今日は楽しみにしとったで~よろしゅう~」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
一番手は、優斗と知り合いらしい。
紗希は横目で見つつ、対戦相手に握手する。
「宮永です。よろしくお願いします」
「初めまして、多田です。よろしゅうお願いします」
関西の人なんだな、と思いながら紗希はトレバトの台に座る。準備ができたところで小林が膝を折って拳を出す。
「…何かあったらすぐに言ってください。後ろから見ています。それに…俺は宮永さんなら絶対に勝てると信じています。頑張りましょう!」
小林に「はいっ!」と言ってグータッチする。
紗希は「シャイニー」を選択して、バトルがスタートする。相手はダニエルで、フィールドは『廃屋の校舎』となった。
作戦会議で相手のプレイを見せてもらっていた。紗希はなんとなく覚えている。
(よぉ~~し~~GUNっぽくないプレイで絶対に勝つ~!!)
紗希が「シャイニー」を選択したことで観客席から驚きの声があがっていた。
GUNが『トラのマーチ』に入会したのは有名な話で、紗希がGUNかと会場がどよめいているのだ。
観客の注目は一気に紗希に向かう。だが、紗希はずっと相手から逃げ回っていた。
(そう…確かこの人…せっかちなプレイヤーだった気がする…)
紗希は対戦相手、多田のプレイを2本見せてもらった。
多田は攻撃をするときにスキが生じるのだ。そのスキを狙って上手く攻撃できれば勝てる、と紗希は確信していた。
相手のスキをただひたすら待った。
小林は後ろからずっと紗希のプレイを見ている。GUNのようにプレイしないと言った通り、消極的なプレイが続く。どんなに攻撃されても逃げ回る。
攻撃を回避するのも上手いな、と思っていると優斗が勝ったようだ。
「紗希さんはどうですか?」
「立ち回りに問題ないよ。ただ、ここからどう勝利するか疑問に思うが…」
小林と優斗が話していると真一が負けてしまった。
悔しい、とつぶやく真一も紗希のプレイに注目する。
逃げ回る紗希に、だんだん多田がイラついてきたのが紗希には分かる。
雑な攻撃を仕掛けた瞬間を狙い撃ちする。
バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン…
バタッ…。
『 YOU WIN !! 』
本来なら一撃で仕留められるが、GUNだとバレないように乱撃ちする。
下手な鉄砲も撃ちゃ当たる、というような体裁で勝利した。
小林は今の攻撃はGUNだろう、と内心ドキドキしたが、会場に驚きの声はない。
一人、胸をなでおろす。
『トラのマーチ』の勝利だった。
優斗は対戦相手、橘と握手する。
「楽しかったです。ありがとうございました」
「この勢いで『青い淡水魚』にも勝ってくれや」
「はい…必ず『青い淡水魚』に勝って僕たちが優勝します!」
橘はその意気や、と笑って出口へ向かう。
ベスト4が決まった。
ここから長い休憩タイムに入るので、小林がお昼休憩にしようと話す。
「紗希さん、お昼はどうしますか?」
「あっ…私は奈々と大輔とマッグに行く予定です」
真一も渉と合流してお昼に行くと告げる。
「それじゃあ…観客席に向かいましょうか?」
そうですね、と紗希は頷く。
小林は一人、インドカレーを食べると行ってしまった。
選手控室から出ると、奈々と大輔と渉が待っていた。
「奈々~大輔~」
紗希は緊張が解けて、幼馴染のもとへ走り出す。
「お疲れさま~。頑張ってるじゃない」
「うん…なんだかヘトヘトだよ~」
次は準決勝なのに大丈夫かな、とさっそく愚痴をこぼす。
「なんだよ、元気ないな~。さっき加奈さんが来てたぞ?」
「えっ、お母さんが…来てる?」
意外過ぎて目が点になる。
「そうよ、うちのママもいたの。仕事で来てるってことだったけど、特別席にいるみたい」
ちなみに広瀬先輩のお父さんも一緒にいる、と奈々は話を続ける。
(…お母さんが来てる!!)
「あの…私…ちょっとお母さんと話してきてもいいかな?」
「それなら僕も一緒に行きます。父さんと話したいし…」
優斗は真一に先にマッグに行ってください、と伝える。
「後から合流します」
そう言うと紗希と優斗は特別席のほうへ歩いていく。
真一が疑問顔だったので、奈々が説明する。
「紗希のお母さんと広瀬先輩のお父さんが来てるんです。二人は親に話があるそうです」
「そういうことか…。それなら先に行って二人の席を確保しておくか?」
「そうですね」
真一、渉、奈々、大輔の四人はぞろぞろとマックへ向けて歩き出した。
特別席では加奈、理恵、伊織の順に並んで座っていた。
「紗希ちゃん、今日は慎重にプレイしてるわね」
「やっぱりGUNだってバレないように対策してるのかしら?」
「優斗はめちゃくちゃ強いな~。カメラ持ってくれば良かった」
『ただいまから1時間の休憩に入ります~』
放送アナウンスが聞こえる。
「どこかで休憩する?」
「僕、カメラ買ってくる」
「それじゃあ、私達はお茶でも飲みに行こうか?」
三人が立ち上がって移動をしようとすると、遠くから紗希と優斗が手を振っている。
「あれ…?紗希と優斗君よ」
先頭に立った加奈が二人を見つける。
「お母さ~ん」
「どうしたの…?休憩しなくていいの?」
「うん…ちょっとお母さんに頼みたいことがあって」
紗希は今の状況を説明する。
「私、次の対戦でも「シャイニー」を使ってプレイしたいの。じゃなきゃ負ける気がして…でも…もしGUNだったバレたら大変だし…」
「なるほど…紗希はシャイニーを使って勝負したいわけね…?」
「うん…だから私の代わりにGUNになってほしいの」
「えっ…?」
「お母さんが強いプレイヤーだってお兄ちゃんから聞いたことあるよ。だからお願い。私の試合中にGUNになってオンラインバトルして…」
「う~ん…助けてあげたいんだけど、今日は仕事で来てるから…」
加奈は困ってしまった。
「上司には適当に言っておくけど…?」
理恵が助け舟を出す。
「そうねぇ…。うーん…。あぁ、ちょっと待って、いいこと思いついた!」
加奈はここで待ってて、と言ってどこかに行ってしまう。
「あの…理恵さん…。今日は仕事で来てるんですか…?」
「そうなのよ」
理恵が視線を向ける先はスーツを着たおじさんたちが座っている。そのサラリーマンの中には若い女性の姿もある。紗希は気になって、その女性を見ていた。
「みんな偉い人、もしくは優秀な人たちよ」
「…あの若い女性の人も…ですか…?」
紗希の視線を確認した理恵は、えぇ、と笑う。
「彼女、とっても優秀な営業マンよ。4月から私の下で働くことになってるの」
そんな感じします、と紗希は頷くが、その隣で優斗は目を見張っている。
「…もしかして……香坂里奈さん…ですか?」
「優斗君、知り合い…?あぁ、そういえば彼女、元トラのマーチだっけ?」
「そうです…。まさかこんなところで会えるなんて…」
「少しだけなら話していいわよ?」
それじゃあ、少しだけ、と言って優斗は里奈に話しかける。里奈は驚ていたが、楽しく会話している雰囲気が伝わる。
トラのマーチって色々なメンバーが在籍してるんだな、と紗希は思った。
加奈は誰もいないことを確認して、俊介に電話をする。
「…そういうわけで、紗希の代わりにGUNをやってほしいのよ」
『おれってそういう役だよね…』
「恩に着るわ」
『いいよ、別に…勝てばいいんでしょう?』
「そう、IDはメールするわね」
『分かった』
加奈は携帯を切ると紗希に笑顔を向ける。優斗も里奈との会話を終えていた。
「紗希~。GUN役は俊介に頼んだわ~」
「お兄ちゃんに?」
「俊介さんに?」
紗希と優斗は同時に驚く。
「俊介なら大丈夫。紗希のようにプレイしてくれるわよ」
「本当に…?」
いまいち信用できない紗希だ。
「平気、安心していいわ。IDとパスワード教えて」
紗希はメモ用紙に記入して母親に渡す。
(本当にお兄ちゃんで大丈夫なのかな~?)
話を聞いていた理恵が思い出す。
「俊介君って加奈が昔トレジャーバトルを教えていたわよねー?」
「えっ…そうなの…?お母さんってお兄ちゃんにトレバト教えてたの…?」
昔のことよ、と言いながら加奈は携帯電話を操作している。
俊介にメールをしているのだろう。
「スパルタだったのよー。もうね、見てて俊介君が可哀想って思ってたんだから…」
「へぇー…スパルタ…?」
紗希はいいな、と思った。
「あのさ、お母さん…私もお母さんにトレジャーバトルを教えてほしいな」
「う…うん…今度ね~」
ハハハハ~と加奈は空笑いする。
「さ、さぁ…そろそろ休憩に行ってきなさい」
「うん!本当にありがとう!」
紗希と優斗は手を振って観客席から歩いていく。
「…赤シャイニーが加奈だってまだ言ってないの?」
「うん、まぁ…その…タイミングが難しくて…」
「あのね…タイミングを逃すと大変なことになるわよ?」
理恵と加奈は伊織を見る。
「…なんだよ~?」
伊織と優斗はこじれていた。あんな風にはなりたくない、と加奈は思う。
「そうね!気をつけないと…」
「僕はカメラ買ってくる~」
「買うのはいいけど…こんなお偉いさん達がいる中でシャッター押せるの?」
「大丈夫、大丈夫~。過労で倒れてからみんな優しいし~」
伊織が笑えない冗談を飛ばす。
「そう分かったわ……私達も行きましょうか?」
「…そうね」
加奈たち三人も休憩することにした。




