48_トレバト本選大会②
開会式が終わり、トラのマーチのメンバーは舞台上から移動する。
「すぐに呼ばれると思いますので待機場所に移動します」
選手控室とは別に舞台裏に待機場所がありチーム毎に固まっている。そこで待っている間、紗希はずっと疑問だったことを優斗に聞いてみた。
「あの…私は2番手に登録したって小林さんが言ってましたが、どういうことですか…?」
「説明してなかったですよね。席順みたいなものです。紗希さんは2番手なので僕と真一さんの真ん中に座って対戦になります」
なるほど、と紗希は理解する。
「今日は『トラのシッポ』を持ってきましたか?」
交流会の時に優斗からチームグッズとして『トラのシッポ』をもらっていた。
大会に出場するメンバーは付けるらしい。シッポのキーホルダーのようなものだ。優斗も真一もズボンの横に取り付けている。
持ってきました、と言って紗希もスカートに取り付ける。
「悪い…俺…シッポを持ってくるの忘れてしまった…」
小林は詫びているが、優斗はあきれている。
「…昨日あんなに荷物を確認してたのに…忘れちゃったんですか?」
「カメラとパソコンと書類は確認したんだけど…」
小林はブツブツと言い訳を繰り返す。
優斗は昨日、小林の家で話し合いをしていたらしい。会話の流れから紗希は推察する。
「まぁ、いいじゃん。それより俺、あれがやりたいんだけど…」
真一は円陣を組んで掛け声をしようと提案する。トラのマーチではお馴染みの決まりのようで、優斗が紗希にやり方を教える。
小林が号令をかける。
「トラのマーチ、行くぞ!」
『ガオー!!』
3者3様のやる気が感じられた。
『続きまして~『トラのマーチ』対『竜が辻』です~。出場者の皆様はステージにお越しください』
音楽が鳴り響く中、小林を先頭に、優斗、紗希、真一の順にステージ上を歩く。
紗希は大会に出場するのが初めてで緊張している。
(ドキドキしてきた~~)
紗希が胸に手を当てながら呼吸をしていると、優斗が大丈夫です、と微笑む。
「紗希さんなら勝てます」
「…はい!!」
優斗に話しかけられ安心する。
(私は大丈夫…よしっ~勝つぞ~)
対戦相手と握手してトレバトの台に着席する。準備ができたタイミングで小林が膝を折って握りこぶしを紗希に差し出す。
「宮永さんなら勝てる。頑張ろう!」
「はいッ!」
気合を入れて、グータッチした。
隣には優斗と真一がいる、そのことが少しだけ紗希を安心させる。
紗希は「マリア」で、対戦相手は「ケイト」のキャラを選択する。
『BATTLE START!!』
ランダムで選ばれたフィールドは『大聖堂』。
ゲーム開始と同時にケイトが走り出す。
紗希はマリアを動かしながら慎重にプレイしていた。負けるわけにはいかない。
ケイトに近づく。ケイトの攻撃、宝石のナイフが飛んできた。
シュッ、シュッ、シュッ…
それを避けながらマリアは慎重に攻撃する。
マリアの攻撃は手榴弾だ。
爆風に巻き込まれると自分も体力ケージが減ってしまう。距離感を意識しながら攻撃する。
ドン!ドン!ドン!ドン!
バタッ…
マリアの手榴弾が直接相手に当たる。
『 YOU WIN !! 』
(やたぁ~~勝てた~!)
紗希は楽しくプレイすることができた。
両サイドを確認すると、優斗と真一は、余裕で勝利していた。紗希は時間をかけていたらしい。
(あっという間に感じたけど…もしかして…時間かけ過ぎたかな…?)
紗希は疑問顔で立ち上がり、対戦相手と握手する。
「お疲れ様、良かったですよ」
小林だった。紗希は小林に褒められると思ってなかった。
「あ、ありがとう…ございます」
頭を下げ、優斗と真一とハイタッチしてステージを降りた。
またすぐに対戦だと言われ、選手控室には戻らず、ステージ裏で待機した。
観客席では、奈々と渉が並んで座っていた。大輔は飲み物を買いに行っている。
「初めての大会観戦はどうですか?」
「うん、すごく楽しいし、こんなに盛り上がるなんて知らなかった。でも…今日は渉君が大会に出てるところを見れると思ってたから…少し残念だったけど…」
「そうですね…僕も…出られるかなって思ってましたが……」
せっかく補欠として選ばれたのだから選手控室からメンバーを応援したかった、というのが本音だった。
「でも…ここから奈々さんと大輔と応援できて良かったとも思います」
「そう…?」
「はい、選手として出場できれば良かったですが、撮影班としてチームに貢献できると今は思います」
二人が話していると、アナウンサーが次の対戦をコールする。
『続きまして、『トラのマーチ』対『モダン飛行記』です~。出場者の皆様はステージにお越しください~』
トラのマーチは小林を先頭に優斗、紗希、真一が出てくる。
対戦相手と握手している中、大輔が戻ってきた。
「わりー遅くなった」
手にはテイクアウト用のカップホルダーにホットドリンクが入っている。
「ギリギリセーフだよ」
「うん、飲み物ありがとう、助かったわ」
本当は奈々がジャンケンに負けたので、買い出しに行く予定だったが、大輔も渉も奈々の方向音痴を知っている。
こんな大勢の中、応援席に無事に帰って来れないのでは、との不安から大輔が買いに行くことになった経緯があった。
舞台上では対戦が始まり、大きなモニターからそれぞれ観戦できるようになっている。
優斗と紗希は「ケイト」、真一は「フリオ」で対戦している。
「広瀬先輩ってどのキャラでも強いよね~」
「紗希さんも慣れないケイトですが、お手本のようなプレイで良いと思います」
話していると優斗と真一が速攻で勝利する。
少し遅れて紗希が勝利し『トラのマーチ』の全勝で終わった。
「ここまでは順当ですが、問題はここからですね…」
「どういうこと?」
「次の対戦からシードのチームが出場するって意味じゃない?」
そうです、と渉は答える。
「シードチームは必見です。どのプレイヤーも強いですよ」
「マジか…それは楽しみだぜ」
司会進行がアナウンスする。
『ただいまの試合が終わりベスト8が決まりました~!」
ひときわ大きな歓声があがる。いよいよシードチームの登場だった。
選手控室で紗希は試合を見ていた。
シード権のあるチームは紗希から見ても油断できないと感じる。
(私、やっぱりシャイニーじゃなきゃ負けるかも…)
「…紗希さん、どうしたんですか?」
紗希の表情が暗いことに気がついた優斗だ。
「あの…私、このままシャイニー以外のキャラでプレイして…本当に勝つことができるのかなって不安で……自信がないんです」
紗希は落ち着かない。
「そうですか…。それなら小林さんに相談してみますか…?」
「そうですね…話してきます…」
少し離れた場所で小林は携帯電話を操作していた。声を掛けたら、愛想よく対応してくれた。
「あの…次の対戦で「シャイニー」を使っても…いいですか?」
次の対戦はシードチームの『竜宮の召使』だ。
事前の作戦会議では、「ケイト」を使う予定で打ち合わせており、そのためのプレイ攻略などを話し合っていた。
「本来なら「ケイト」を使ってプレイする、と話し合っていたのに申し訳ないですが…」
「いえ…あの…どうして「シャイニー」でプレーしたくなったのでしょうか?」
紗希は難しい顔になりながら、心の内を打ち明ける。
「あの…私…「ケイト」も「マリア」もプレイしたんですけど、思う通りに操作できてないんです…。それで次の対戦が正直不安で…「シャイニー」を使ってもGUNみたいにプレイしません。ただ私は「シャイニー」なら負けない自信があります」
そうですか、と小林は眼鏡をクイッとかけ直す。
「宮永さんの気持ちは分かりました。GUNだとバレずに操作することが可能なら…問題ないと思います」
「えっ…いいんですか…?」
小林から了承を得られると思っていなかった。
正直、ダメ元だった。
大会の前に作戦会議があった。
その席で、小林は紗希に対して特に細かく指示を出していた。
正直、細かすぎて紗希には分からない、ということも多々あったが、紗希は分かった、という顔をして座っていたのだ。
「GUNだとバレずにプレイすることができれば問題ありません。ただ…GUNだとバレずに勝ってくださいね…?」
「……」
優斗が慌ててフォローする。
「すみません、小林さんってこういう人なんです…全く悪気はないんです…」
「…今の言い方はダメだったか?」
クエスチョンマークの小林に、ダメです、怖いです、と優斗は首をふる。




