47_トレバト本選大会①
トレバト本選大会の前日――
サガの本社では、加奈が偉い人と電話で話していた。
『宮永さんは責任者としての自覚はあるんだな?』
加奈は2月に入って、『トレジャーバトル4』の開発責任者となったのだ。
「はい」
『何かあったらまた電話する。期待してるからな』
「はいっ…」
ガチャ…。
ハァ~とため息をつきながら受話器を置く。
コンコン…
「入るよ」
伊織が加奈の仕事部屋に入ってきた。
「なに…?どうしたのよ?」
「仕事は順調かな…と思って…これを差し入れに…」
伊織の手にはイチゴがある。
「順調…?分からないわよ、開発責任者になったのなんて初めてのことだし…。ただ分かることはプレッシャーがものすごいってことだけね…」
加奈はイチゴを受け取る。二人分のコーヒーを淹れて休憩用の丸テーブルに置く。
「本来なら僕の仕事だったけど…加奈に引き継いでもらったからな」
伊織が過労で倒れた後、重要な仕事はすべてほかの人に引き継ぐことになった。トレジャーバトル4の後任は加奈が抜擢された。
「当然の結果よ~。これで伊織も私の下についたってことよね~」
あー気持ちいい、と言いながら加奈はコーヒーカップを揺らす。紙コップからは湯気が立つ。
「加奈…何か分からないことがあったら何でも言ってくれ」
「ん、ありがとう」
二人で話していると、部屋にノック音が響いて、理恵が顔を出す。
「入るわよ~」
理恵は大量の資料を抱えている。
「あら…?伊織が仕事中に自分の部屋から出るなんてねー」
めずらしいー、と言いながら理恵はテーブル席の前に立つ。
「よっぽど暇らしいわぁ~」
「そんなことないよ。最近は定時で帰って夕飯作ってるからさ」
伊織は理恵が抱えている資料をテーブルの上に乗せていく。
「優斗君とうまくやってるみたいね」
「理恵のおかげだよ、加奈にも感謝してる」
コーヒーご馳走さま、と言うと伊織は部屋から出て行った。
「…で、どうなの?初めての開発責任者は?」
「もう大変…伊織ってば新作の仕事をしつつ他の案件も抱えていたんでしょ?ほんと、信じらんない!」
理恵は自分でコーヒーを紙コップに注ぐ。
「じゃあ、伊織に変わってもらう?」
「嫌よ、初めて伊織に勝った気がするのに~~」
ブーという顔になる加奈だ。
「そう…それなら、明日は気晴らしに外回りに行くわよ?」
理恵は伊織が座っていた場所に座る。
「…外回りって営業的なこと?」
「違うわ。トレバトの大会を見に行くの」
「それって…」
「そう、トラのマーチも出てるわよ」
ウインクしながら告げる。
「うそ~楽しみ過ぎる!!」
「そうでしょう。そういうわけで、今日中に打ち合わせしましょう」
理恵は束になっている資料をトントンと指でたたく。
「はっ…?何これ…?」
膨大な資料を前に加奈は固まってしまった。
「仕事よ。言っとくけど伊織なら一時間でまとめられる内容だから」
「…私なら45分で終わらせるわよ~~!!」
加奈は気合いで乗り切ろうと決めた。
「その意気よ」
ニヤリと笑う理恵だった。
トレジャーバトルの大会当日――
紗希は奈々と大輔と一緒に会場まで来ていた。
場所は国際展示城だ。トレジャーバトル4の制作発表会と同じだったので迷わず来れた。
「前に来た時より人数が多いね~」
紗希は会場を見渡す。出店も並んでいて、流行りの飲み物や食べ物も売っている。
「待ち合わせ場所ってどこかしら…?」
「えーっと『ホールA』の看板の下で待ち合わせだろう…?ここからだと…」
パンフレットを持って大輔は紗希と奈々を案内する。
待ち合わせ場所にたどり着いた三人だったが、人が多くて、優斗たちを見つけられない。
「広瀬先輩たち、どこにいるんだろうねー?」
「うーん…電話しちゃおっか…?」
三人で悩んでいると、遠くから紗希を呼ぶ声が聞こえる。
「…紗希さーん!」
優斗が手を振っていた。優斗の傍にはトラのマーチのメンバーも集合している。
紗希たちは駆け寄った。
「こんにちは、広瀬先輩」
「ちわーす」
奈々と大輔が優斗に挨拶する。
「こんにちは、沖林さん、大輔君」
優斗の後ろでは、真一と渉が笑っていた。
「紗希さんが見つかって良かったですね」
「紗希、聞いてくれよ。優斗がさ、紗希がなかなか来ないから心配で探しに行くとか言い出してさ~」
「ちょっ…真一さん。僕、そんなこと言ってません…」
「えっー、俺にはそう聞こえたけど…?」
真一が優斗をからかって楽しんでいると、マネージャーの小林が時間ぴったりにやってきた。
「全員そろいましたか?」
小林は邪魔にならないようにメンバーを端に集める。
「紗希、私達は応援席に行ってるねー」
「頑張れよ!」
奈々と大輔は席を確保すべく会場のほうへ足早に向かう。
小林は集まったメンバーを見る。紗希を含めて10名近くの人数だ。
「今日は大会に参加するチームが過去最多ということです」
運営からの知らせで『トラのマーチ』は出場するメンバー以外は大会の控室が使えない、しかも補欠のメンバーも入れない、ということらしい。
「シードのチームはまた別らしいが…。それで対戦するメンバーをここで発表します。一番手は優斗、二番手は宮永さん、三番手は倉梯君、マネージャーは俺の四名を登録しました。補欠で登録したメンバーは申し訳ないのですが、控室には入れません。観客席で待機をお願いします」
この大会に登録したメンバーは六名だった。ちなみに渉と阿部も登録されていた。
「大丈夫です、僕たち、客席で応援してますから!」
渉と同様、ほかの二人もはい、と頷く。
「ありがとうございます。俺は書類を運営に提出して来るので、出場するメンバーは優斗と先に控室に行ってください」
小林は優斗に頼んだぞ、と言って本部があるブースへと歩いて行く。
「紗希さん、真一さん、僕たちも行きましょうか?」
優斗は大会に何度か参加しているだけあって勝手知ったる足取りだ。
「僕は奈々さんと大輔と合流しますね。頑張ってください!」
渉に手を振られて、紗希と真一は優斗についていく。
選手控え室に到着し、テーブル席に座ることにした。他のチームの参加者もいる。
しばらくして小林がやってきた。
「このネックホルダーの装着は出場するメンバー全員の義務になっています」
首から下げるカードホルダーを渡される。よく見るとチーム名が記入されていた。大会についての規定などの話を聞いていると、運営スタッフの声が響き渡る。
『そろそろ開会式が始まります~出場するチームはメンバーごとにお集まりください~』
「俺たちも行くか」
小林の掛け声にメンバーは頷く。
渉は応援席にいる奈々と大輔に合流できて安心した。さっそく荷物から三脚を取り出す。
「…渉君、何してるの?」
奈々と大輔の疑問に三脚を組み立てながら答える。
「大会の撮影をするんです。カメラ撮影は禁止されていませんし、トラのマーチの撮影係のようなことをしています」
本当は別の人がやっていたが、その人がチームを抜けるときにカメラ一式を引き継いだと補足する。
「引き継いだって言うけど…こんな立派なカメラ…高いんじゃないのか?」
大輔の疑問はもっともだ、渉は鞄から一眼レフカメラを取り出す。
「そうなんだよ。カメラ本体だけでも数十万円って聞いてるからさ…」
落とさないように慎重に扱っているとぼやく。奈々は開いた口が塞がらない。
「…本気で言ってる?」
「はい…三脚、カメラ、レンズ、その他もろもろで…結構な額です」
驚く奈々と大輔に、ここだけの話ですが…と渉は二人にこっそり裏話を語る。
「小林さんが働いている会社のカメラだそうで社員割引を使って半額で購入した、という話です」
「…でも…いくら半額で購入したって言っても…お金はどうしたの…?」
「チームの交流会費から捻出したと聞いてます。うちのチームにお金持ちのメンバーがいて、戸矢崎環さん、という方なのですが、その人がほぼ出してくれたとも聞いてます」
渉はカメラの設定が終わったようだ。
「今日は大会前に優斗さんのお父さんが『開会宣言』をしますし、ちゃんと撮影しないと小林さんが無表情で「どうして撮れてないの?なぜ?いかなる理由で?」って刑事顔負けの取り調べが始まるんですよ~。話も長いし…」
苦笑する渉だ。
「渉って色々大変なんだな…」
「うん…だけど俊介さんが撮影班に入ったんだ。だから今度からは俊介さんにお願いしようと思ってて…」
「撮影班?」
トラのマーチに入ったら、どこかの班に所属する必要がある。ちなみに渉は撮影班と情報分析班を兼任していて、真一は情報分析班の班長だ。
「俊介さんが撮影班に入ったので、紗希さんも撮影班に入るかもしれませんね」
「へぇ~」
三人で話していると、大会の開始時間となった。
ワァァァァーー
会場中が歓声につつまれ、音楽が甲高く響いて照明が暗くなる。
『大変長らくお待たせしました。それでは早速、選手の入場です~』
司会進行のアナウンサーがチーム名を読み上げる。
『ドッグタグ~!!青い淡水魚~!!竜宮の召使~!!眠れる森の小鳥~!!』
司会者の呼び声と共に大会に参加するプレイヤー3名とマネージャー1名、計4名が舞台に上がり縦一列に並ぶ。
「俺…ドキドキしてきた…」
「私も…」
奈々と大輔は緊張しながら舞台上を見ている。渉はカメラのモニターを見ながら録画していた。
『最後にトラのマーチだ~!!』
司会者に名前を呼ばれ小林を先頭に優斗、紗希、真一の4名が出てくる。
奈々と大輔は盛大に拍手した。
『それでは開会宣言をサガ株式会社、広瀬伊織さんが行います。どうそ、お願いします』
司会者のアナウンスで伊織が登場する。
より一層大きな拍手が起こる中、伊織は出場するメンバーの中央に立ち、グルリとメンバーを見渡す。
朗らかな表情を浮かべスタンドマイクに向かって宣言する。
『ただいまより、2008年度トレバト3本選大会の開催を、ここに宣言いたします』
ワァァアアアーー
会場中が熱気と歓声につつまれた。




