45_1月の交流会と大人のいけない遊び
1月のトラのマーチ交流会――
紗希は奈々と大輔と一緒にマーチ会(トラのマーチ交流会)に来ていた。
奈々と大輔はブースの外で見学している。
時間になってマネージャーの小林がメンバーを集める。
簡単な挨拶から始まって、来月に行われる大会について資料を読みながら説明している。
「2月にトレバトの大会があり、トラのマーチも出場することにしました。メンバー登録については先月メールで送った通りです」
小林からのメールには、大会の出場メンバーが明記してあり、紗希の名前もあった。
「また、本日は入団テストを行います。実力者だけを選抜し、最終的に私と広瀬君が面談して合否を決定します」
応募人数は30名近いと話し、小林はメンバーに役割分担を述べる。実力者を選抜するために、優斗、真一、阿部と呼ばれる男性が対戦を行う。
阿部も大会に出場するメンバーの一人だった。
「入団テストまで30分です。各自、準備をお願いします」
紗希はキョロキョロとメンバーを見る。俊介のところに行こうかと考えていると、愛想のいい大人の女性に声をかけられた。
「あの…宮永紗希さん…だよね?私は中川花音です」
「あっ…初めまして…宮永紗希です…」
紗希は少し緊張した。そんな様子を見た花音はにっこり笑う。
「私…小林さんから宮永さんのことを頼まれたの。チームのことで分からないことや不安なことがあったら何でも相談してね」
「はい…ありがとうございます…」
「うん…。それで…今日は入団テストがあるからバタバタすると思うの。私のお手伝いをしてくれると助かるんだけど…いいかな?」
「はい…私…入団テストとか分からなくて…色々と教えてください」
「うん、良かった」
笑うと綺麗な人だな、と紗希は思った。
入団テストが始まり、紗希は花音の後ろで手伝いを行った。
テストを受ける人を誘導したり、テストが終わった人に指示を出したりと花音が教えてくれる。
「入団テストを受けに30人も来るって…やっぱり人気が高いチームなんですね」
少し手が空いたので、紗希は花音に話しかける。
「そうだね。久しぶりの入団テストだからかな?紗希ちゃんは入団テストを受けずに合格した特殊なケースだよね」
花音がクスクス笑う。
「私…テストを受けずにチームに入会して本当に良かったんでしょうか…?」
「いいに決まってるよ。優斗君も小林さんも紗希ちゃんが入会して喜んでると思うよ」
「…だといいですが……」
今日は30人が受けて合格したのは1人だった。
「トラのマーチに入るって狭き門…なんですね…」
「うちのチームって学生が多いでしょ?それに紗希ちゃんもマーチに入った。優斗君も小林さんも警戒してるんだよ」
紗希は知らなったが、小林も優斗も紗希がGUNであることを公表しないでほしいと強くメンバーにお願いしたそうだ。
「それにね、本当は今日『ドッグタグ』のメンバーが遊びに来る予定になっていたけど、紗希ちゃんのことが心配だから大会が終わった後に来てもらうことにしたらしいよ」
「…私のことが心配?」
「うん、他のメンバーならそこまで気にしなくていいと思うけど、紗希ちゃんはGUNだからね。心配症の小林さんが用心に用心を重ねてってブツブツ言ってた…」
花音はクスクス笑っている。
「そうですか…」
紗希はドッグタグのメンバーに会ってみたかった。なおかつ対戦できたら楽しかったのに、と思ってしまった。
そこに高身長の男性、阿部がやってきた。
「宮永さん、小林さんと優斗が呼んでんで~」
優斗と同じ歳で、同じモデル仲間だと聞いている。
「あっ、ありがとうございます。すぐに行きます…」
「うん。俺は阿部潤です。今度良かったら対戦してや~」
はい、と返事して、ペコッと頭を下げた。
「紗希ちゃんと対戦したいメンバーっていっぱいいるんだよ」
花音が教えてくれる。
「今度のマーチ会(トラのマーチ交流会)の時、私がメンバー全員を紹介するね」
その際、あいさつ代わりにバトルすればいいと思う、と花音は続ける。
「はい、よろしくお願いします。今日は色々とありがとうございました」
紗希はすごくワクワクした。
「また来月ね~」
紗希はトラのマーチに知り合いが増えて嬉しく思った。
優斗と小林は丸テーブルに座って話していた。
紗希が近づくと、優斗が席に座ってください、とジェスチャーで促す。
「あの…お話は…何でしょうか…?」
まるで面談、という雰囲気に紗希は委縮する。
「宮永さんは来月の大会に出場することに異論はないと聞いてます」
小林は愛想よく話そうとしてる。
「はい…大丈夫です」
「ありがとうございます。それで…その…大会に出場するときに使うキャラをシャイニー以外にしてもらえたらと思いますが…それは可能なことでしょうか…?」
「シャイニー以外…ですか?」
優斗が説明する。
「次の大会でGUNの正体を知りたいと思っている人はたくさんいると思います」
GUNがトラのマーチに入会したのはオンラインバトルをしている者なら誰もが知っている情報だった。
「そんな中、紗希さんがシャイニーを使ったらGUNだとバレる可能性がある、と思いまして…バレたら大変なことになるかもしれませんし…」
「そうですよね…トラのマーチのメンバーの中でシャイニーを使うのは私かお兄ちゃんですもんね…」
「はい…。ですので、もし可能なら大会では違うキャラを使ってほしいと思います」
「…分かりました。少し考えてみます」
「うん…あと…大会に出場する前に作戦会議を開く予定なので日程が決まったらメールでお知らせします」
「作戦会議…ですか?」
優斗から説明を受ける。
「作戦会議は交流会とは違い、出場するメンバーのみで話し合います」
トラのマーチには情報分析班がいるようで、そのメンバーの話を聞きながら進める、とのことだ。
「その日は中川さんにも来てもらう予定なので、何かありましたら彼女に相談してもらっても構いません」
「はい、分かりました」
よろしくお願いします、と言って紗希は席を立つ。
数日後、学校帰りに紗希は『GAME☆ユートピア』に来ていた。
「来月の大会、どのキャラを使うか決めたの…?」
決まらないよ~、と紗希は奈々に愚痴をこぼす。
「いろいろ試してはいるんだけど…」
紗希はイチゴミルクを開けて飲む。
「フリオが無難なんじゃないか?」
大輔もテーブル席に座りながら話に加わる。
「フリオは身長がある分、回転しながらジャンプするときの着地に失敗したり、止まって攻撃しないと命中力が下がったりして使いづらかったんだよね~」
「じゃあ…シャイニーと同じくらいの身長って考えるとマリア…?」
奈々もオレンジジュースを飲み始める。
「うん、今のところの候補はマリアだけど足が遅い~~」
「ケイトよりは早いんじゃないのか?」
「マリアのほうが早いけど、ジャンプ力はケイトのほうがあるよ~」
どうしよう~と頭を抱える紗希だ。
「ちゃんとキャラの分析ができるじゃない!」
「うん、こうやって色々なキャラを使ってると良いところと悪いところがはっきり分かるようになってきて楽しいよ」
「じゃあ、シャイニーって戦闘力があるほう…なのか?」
大輔がコーヒー牛乳を飲んでいる。
「うーん…シャイニーは攻撃があまり飛ばないから、ある程度近づいて攻撃しないとほとんど当たらないよ」
「おぉー紗希が説明してるよ」
「ホント、すごい進歩ね」
奈々と大輔が拍手する。
「な~んか、バカにしてない?」
「まぁ、この前のテストを思い出すとね…」
「俺より点数低かったもんな」
「たまたまだもん~」
あんなに教えたのに、と奈々はガッガリしていた。
トゥルルルー
聡史が受付のカウンターで新聞を読んでいると携帯電話がなった。
「もしもし…」
『…今って暇でしょ?ちょっと顔かして?』
理恵からの電話だった。
「どうしたんだ…?」
『説明は後よ』
「……何の呼び出しだよ?奈々ちゃんには何もしてないし…」
『メールで住所送るわね。もし来なかったら…』
どうしよっかなー、と電話の向こうで真剣に悩んでいる。
「分かった、行くよ。オレに決定権はないんだろう?」
聡史は嫌な顔になる。
『分かってると思うけど見苦しい服で来ないでよ?』
ピッと電話が切られた。
(見苦しい…?この服じゃダメ…か?)
聡史は着ている服を見る。
「大輔~、ちょっと店番頼む」
聡史は大輔たちが座っているテーブルに近づく。
「どうしたんだよ?」
「ちょっと理恵に呼ばれてな…」
「ママに…?」
「あぁ…。ねぇ、奈々ちゃんから見て今着てる服ってダサイかな?」
聡史は奈々に服を見せる。
「ダサくはないですけど…スーツだとカッコイイと思いまーす」
「スーツか…ありがとう。大輔、店頼むな」
聡史はユートピアの奥に行ってしまった。
「親父のやつ、理恵さんに会うのにスーツ着ていくのか…?」
「そうねぇ…なんでかしら?」
「もしかして…」
紗希は意味も分からず推理する。
「…大人のいけない遊びじゃない…?」
「紗希…意味わかんない言葉使うなよ。オレやだよ、不倫とか」
「不倫っ!?」
奈々は混乱しているようだ。
「理恵さんと聡史おじさんが…?」
紗希も不可解な顔をする。
「私、大輔と家族になったら辛いよ…」
奈々は混乱して頭で考えていることを口に出してしまった。
「それじゃあ、オレ…お袋について行くよ」
「大輔、奈良に行っちゃうの?寂しいよ~」
だんだん話が見当違いの方向へ行ってしまう。
「ちょっと落ち着いて…紗希、楽しんでるでしょ?」
「あっバレた?だって不倫とかそんなことあるわけないよ~」
紗希がてへっと舌を出す。
「そうだよな…オレが話をでかくした」
「とりあえず今日帰ったらママに確認してみる」
「明日教えてね」
「分かってる…。まぁー大輔をお兄ちゃんと呼ぶことはないでしょう」
三人の笑い声が響き渡る。




