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44_広瀬家の事情


2009年1月――


年が明けて数日後、優斗は眠りについていた。


(なんだか…コゲくさい…)


寝返りを打ったが、ニオイは消えない。


(火事…?)


「うわっ、火事だ!!」


布団から起き上がりそのままリビングに行くと父親の伊織が料理していた。


「おはよう」


伊織はフライパンで玉子を使って料理しているようだ。その隣では味噌汁を作っているのだろう。


「…父さん、どうしたの?」


「見れば分かるだろう、朝ごはんを作ってるんだよ」


「朝ごはん…父さんが…?」


コタツの上には炊き立てのご飯が置かれている。その手前の黒い物体は魚に違いないと優斗は思った。


(こげたニオイはこれのせいかな?)


「こんな朝ごはん…久しぶりだよ、顔洗ってくる」


伊織はスクランブルエッグを盛り付けて優斗を待つ。顔を洗ってきた優斗は前髪が少し濡れていた。


『いただきます』


二人で朝ごはんを食べ始めた。時間は9時過ぎである。


「ご飯なんか作って…急にどうしたの?」


優斗はこげた魚をいじっている。


「あぁ、たまには一緒の朝ごはんもいいかと思って…」


「…そう。うん、美味しい…とはいえない味がするから料理は僕の方が得意だよ」


優斗はこげた魚を一口食べる。


「そうか、医者に栄養のバランスを考えて食事しろと言われてしまって…」


「それなら僕が作ってあげるよ」


「作ってもらうのはありがたいが、冷蔵庫に何も入ってないじゃないか」


「借金があるから…あまりお金を使えなかったんだ…」


優斗はお味噌汁をすする。


「生活費は銀行から毎月使っていい額があるだろう?」


「それも足して借金の返済をしてたんだよ…」


(何だ借金って…。借金のほうから動いたほうがいいのか…?)


黙り込んでしまう伊織に優斗は意を決する。


「ねぇ、借金のことは父さんに任せるよ。それより僕は母さんのことが知りたい」


「美穂のことが…?あぁ、そうだよな…。今日はきちんと優斗に話すつもりなんだ」


「本当?」


優斗は食べる手を止める。


「食べ終わったら母さんに会いに行こう」


「…うん」


(母さんに会いにいける…!)


嬉しくなってご飯を食べ始めたが、こげた魚を残すことになってしまった。





サガの会社では、加奈が徹夜で仕事をしていた。

理恵は加奈の郵便ポストから手紙を抜くとそのまま加奈の仕事場へ届ける。


「手紙持ってきたわよ」


「ん~ありがとう」


加奈は資料チェックをしているところだった。テーブル席に座って赤ペンを持っている。


「ヒドイ顔ね…」


「あとちょっとで終わるから…今日は帰ってもう寝るし…」


「進捗が遅れていたの…?」


理恵は向かいの席に座った。


「伊織がまた何日も泊り込みで仕事するから言ってやったのよ」


加奈は目をこすりながら先ほどの会話を伝える。



――また家にも帰らず仕事してるわけ…?今日はもう帰りなさいよ


――でも…このテストの立ち会いをしないと…


束になっている資料を伊織は見せる。


――そんなの私が見ておくわよ、貸して


加奈は伊織から資料をひったくった。


――伊織は帰って優斗君に朝ごはんでも作ってあげなさい


――…ありがとう


――いいのよ、どーせ伊織が作ったテストでエラーが起きるわけないし




「なるほどー。で、見返りがそのドーナツってわけね…?」


加奈の横に置いてある市販のドーナツの箱を見る。


「…そーよ、好きなのよ」


理恵は立ち上がった。


「イチゴからドーナツに嗜好を変えたわけ?」


「なによ、嫌味言いに来たの?」


「忙しそうだし急用でもないから、またの機会に話すわ」


理恵は加奈の部屋から出て行った。フーとため息をついて加奈は仕事に戻る。


「何しに来たのよ~。………あれっ?そういえば、伊織ってご飯作れるのかしら?」


仕事をしながらそんなことを思う加奈だった。





優斗と伊織は八王寺に来ていた。風が冷たい。吐く息も白い。


「ねぇ、母さんと約束してたって前に言ってたけど…何を約束してたの…?」


――美穂との約束があったんだが、まぁ、許してくれるだろう


以前、入院先の病院で伊織が話したことを思い出した。


「美穂がまだ元気な頃の話だな…」


二人は駅を出てからずっと歩いている。坂を上っていくと大きな病院が見えてくる。


「病院に向かって…歩いているの?」


「そうだよ、美穂はずっと入院している…」


伊織はそう言って先頭を歩いていく。

病院の中は充実した設備が整っている。伊織は慣れた足取りだ。


「…どうして入院していることを話してくれなかったの?」


「入院しているのを優斗に話さないのが美穂との約束だったんだ」


病室の前で足を止める。「広瀬美穂」と書かれている。個室のようだ。


「ここだよ」


伊織は扉をあけて中へ入っていく。


「…美穂はこの姿を優斗に見られたくなかったんだ」


優斗も静かに病室へ入っていく。美穂が眠るベッドに近づく。


「か…あ…さん?」


美穂は装置につながれて眠っていた。


「美穂はもともと体が弱かったんだが、どうしても子供が欲しいと言って出産したんだ」


伊織はベッドの近くに座る。優斗も伊織の隣に座った。


「僕を…産んでくれたの?」


優斗は母親を見る。


「あぁ、優斗が産まれて嬉しそうだった。でもそれから急に体に変化が起こったんだ」


「僕を産んでくれたから?」


「そうじゃない。もともと体が弱くて病気が…進行していたんだ」


「母さんの病気は治るの?」


優斗の声は震えている。


「治るよ。ただ難病で…今は治療薬がないけど…いつかは治るって父さんは信じてるんだ…」


「難病…?」


どんな病気なのか簡単に説明を聞いた。


「多少の補助金は出るけど入院費と色々な薬、ケア代などでお金がかかる。だから僕はとにかくお金が欲しかった」


「それで父さんは家にも帰らず仕事をしていたの?」


伊織はトレジャーバトルが好きな仕事人間なのだと思っていた。


「言い訳のように聞こえるかもしれないけど、こんなに長くかかると思わなかったんだ…。こんなことなら早く教えてあげれば良かったな…」


「そ…うだよ…。父さんが説明してくれなかったから…僕ずっと勘違いしてた」


「どんな勘違いをしてたんだ?」


「…父さんは仕事人間でそれに嫌気がさした母さんが逃げた…と思ってた」


伊織は相好を崩す。


「笑わないでよ、僕は真剣に悩んでいたんだからね!」


「そうだよな、何も説明してなかったし…悪かったな…」


「いいよ…。それより父さん一人で頑張ることないよ。僕にできることはないの?」


伊織は目を丸くする。


「…知らない間に優斗は成長してるんだな。運動会や授業参観にも本当は行きたかったんだ。友達はできたかな、とか勉強のこととか、色々心配してた」


「心配してるなら電話くらいしてよ。あと、一人でご飯食べるのって味がしないんだ…。だから今日みたいにたまには家に帰ってきてよ。二人で食べたほうが美味しいと思うから。今度は僕が作るし…」


「そうだな。約束するよ」


優斗は今まで話せなかった分、父親に伝えたいことがたくさんあった。


「……僕、トレジャーバトルなんてなくなればいいと思ってた」


「そうなの?」


「うん、ゲーム内を荒らしてみんながプレーしなくなれば…父さんは家に帰ってくるかなって思って…でも母さんのために一人で頑張ってたんだね」


「優斗…そうか…ごめんな…」


「いいよ。話してくれたし誤解だって分かったから…」


その後、病院を出た二人はたくさんの食糧を買い込んで帰った。







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