42_YOUとGUNの再戦①
12月24日――
越尾家では賑やかなパーティーが行われていた。
大輔と聡史はもちろん、紗希と奈々と京太郎がテーブルを囲んでいる。
クリスマスイブということもあり、テーブルの上は豪華なラインナップだった。
「明日は広瀬先輩とデートなんでしょー?」
優斗からメールが来た、クリスマスに遊ぶなんて嬉しい、と紗希は飛び回っていた。
「デートじゃないけど…すごく楽しみ~」
紗希は優斗からもらったリボンの髪留めをつけている。
「今じゃすっかり仲良しって感じだな」
大輔はから揚げを食べている。
「トラのマーチのリーダーって知ったときは絶望してたからねー」
「あの期間は辛かったけど…二人がいたから乗り越えられた」
紗希が奈々と大輔に感謝している横で、聡史と京太郎はビールを飲んで酔っ払っていた。
「ユートピアはGUN効果で客が大入りだったんですよ~」
「紗希が『GUN』というID名でオンラインバトルしてるんですよね?」
二人とも顔が赤い。
「そうなんですよ、紗希ちゃんのおかげなんですよ~」
「いや、こちらもタダで遊ばせてもらってますから。いつもお世話になってます」
聡史も京太郎も楽しく飲んでいた。
サガ本社では、大きな会議室を使ってささやかなパーティーが行われていた。
『トレジャーバトル4の新作発表が決まりましたのも皆様方の取り組みのおかげでして、さらにますますの発展と…』
壇上で偉い人が演説している。パーティー会場には加奈と理恵の姿がある。二人とも強制参加で出席したが、早く終わらないかな、とそればかりだった。
『えーそれでは、乾杯…!』
役員の話が終わった、と嬉しい表情の加奈と理恵だ。持っていたグラスを掲げる。
「とりあえず、お疲れ様!」
「今年もお互い頑張ったわね!」
シャンパンをチンッと鳴らして二人は飲んだ。他愛のない話をしていると、ひときわ賑やかなグループがあった。加奈が目をやると、伊織が何人かに囲まれて楽しそうに話していた。
「…どこにいても人の中心にいるわね」
「伊織のこと…?昔から伊織はみんなの王子様…小、中、高、大学と人気は変わらず、会社に入ったらさらに人気が上昇して…今じゃ会社の顔だものね」
「そうよね…。いっつも伊織だけが特別扱いされて不公平よ~」
そう言って加奈がシャンパンを一気に飲む。
「場所を考えて飲みなさいよ」
はいはい、と返事して、加奈はシャンパンをウエイターから受け取る。
「でもさ…やっぱり…人気があって当然って感じで…」
「なに…?もしかして惚れ直してるの…?」
「違うわよ!伊織が前に指摘してくれたテスト結果のおかげで仕事が順調に進んで…」
加奈は伊織が退院した日、仕事場に来てテスト結果がおかしいと指摘した話を理恵に話し始めた。
「あぁ、伊織が退院した日に本社に来て加奈に言ってたわよね?」
「えぇ、伊織の代わりにやったテストで指摘されて…私って本当に伊織を助けてることになるのかなって思ったんだよね」
「…めずらしいわね、弱気の加奈も」
「伊織に追いつきたくて…いつも強気じゃないと怖かった…」
フーとため息をつく。
「…伊織が入院したって聞いたときも怖かった」
「加奈…」
「伊織のことを考えるのが怖くて、仕事が忙しいことに救いを感じてたの…。でも、そんな弱い自分なんて嫌いッ」
加奈は感情的になっているようだ。
「加奈は、自分の仕事を抱えて、伊織の仕事も引き受けて…頑張って戦ってるじゃない。弱くない、私が保証する」
理恵はキレイにウインクする。
「ありがとう…少し…楽になったわ…」
「いいのよ、それより…もっとスッキリする方法、見つけちゃった」
「なに…?」
「伊織の恥ずかしい過去を伊織信者に暴露するってどう…?楽しそうじゃない…?」
加奈は呆然としたが、少しだけ口が緩む。
「それ、楽しそう…だけど…いいのかな…?」
「いいの、いいの。私に任せて~」
理恵はいい友達だな、と改めて加奈は思った。
翌日の朝は、曇りがちだ。奈々はユートピアに顔を出した。
「大輔、昨日の片付け大丈夫だった?」
モップがけをしている大輔に奈々は聞いた。
「おうっ、片付けは得意だし好きだからな」
笑顔の大輔だ。
「そっか、じゃあ、私も行って来るわね」
「楽しんでこいよ」
大輔は奈々を見送った後、聡史に近づいた。
「親父~、店の大掃除はいつやるんだよ?」
新聞を読んでいた聡史が顔をのぞかせる。
「…なぁ、大輔。掃除も大切だけどな」
「…んだよ?」
「いやさ、紗希ちゃんも奈々ちゃんもクリスマスに男の子と予定があるだろう?」
聡史はタバコに火をつけながら話しを続ける。
「俺は心配だぜ、お前も女の子と遊んで来いよ」
フーとタバコの息を吐き出す。
「なっ、余計なお世話だっつーの」
大輔は怒り出してモップがけの作業に戻る。
(オレだって好きで一人になったわけじゃねぇ。紗希の恋も奈々の恋も応援するって決めた
んだ)
おりゃーとモップがけをする大輔の姿を見て聡史は思う。
(昔の自分を見てるようで痛いな…)
聡史はまた新聞を広げて読み始めた。
奈々は立ノ川に来ていた。
「渉君、お待たせー」
「いえ、僕もちょうど来たところなので…」
笑う渉の顔は赤い。だいぶ前から来て待っていたのかもしれない。
(こういう気遣いは大輔にないわね…)
話ができる場所に移動しよう、と二人は歩く。
「紗希さんって今日は優斗さんと遊んでるんですよね…?」
「…知ってたの?」
「はい…ここだけの話ですが、優斗さんは紗希さんにトレジャーバトルの対戦を申し込むそうです」
「広瀬先輩が紗希に…?」
「はい。昨日、優斗さんから電話が来たんです…。紗希さんが対戦中、一瞬動きが止まった理由について何か知ってることはあるかと聞かれて…」
紗希と優斗がオンラインバトルで対戦中、渉たちが『GAME☆ユートピア』に遊びに行ったから紗希が動揺した、と渉は優斗に伝えた。
「そしたら明日は紗希さんと会うから、もう一度トレバトの対戦を申し込みますって言われました」
「そっかぁ…。広瀬先輩って几帳面っていうか真面目っていうか…」
そうですね、と渉も同意する。
「なので今頃、紗希さんと優斗さん、対戦していると思います」
「なるほど~。それで、渉君は気になるって感じなのね…?」
渉は慌てて否定する。
「いえ、ただ奈々さんには話しておかなきゃと思ったんです」
そっか、と奈々は空を見上げる。相変わらずの曇り空だ。
「ねぇ、今からゲーセン行く?」
「えっ…?」
「私も紗希の対戦が気になるしさー」
「でもっ…」
「そんな深く考えないで。それに私、渉君にトレジャーバトルを教えてほしいんだよね」
「トレバトですか…?奈々さんに…?」
「そうっ。紗希も大輔も教えるの上手くなくてさー」
奈々はそう言って方向転換して歩き始める。
「ねっ、渉君なら教えるの得意そうだし。そうと決まればゲーセンにレッツゴー!」
「分かりました。あの…ゲーセンはこっちです」
奈々が先に歩いてしまうので渉は駆け足になって、反対方向です、と案内する。
紗希と優斗は新宿に来ていた。
新宿は人も多く、クリスマスということもあり、カップルがやたらと多かった。
「優斗さん、ドーナツ食べませんか?すごく人気のお店があって食べてみたかったんです」
「いいですね…行ってみましょうか?」
注文を済ませて席に着く。
優斗はコーヒーを飲みながら、トレバトの大会について話をする。
「来年の2月にトレバト3の最後の大会があるんです…。紗希さんにも参加してほしいと思っているんですけど…どうですか?」
「トレバトの大会…ですか?もちろん参加したいです!」
元気いっぱいの返事だった。
「良かったです。詳細は後日お話しますね…。あと…それと…」
「はい、なんでしょう?」
「この後…トレジャーバトルの対戦をしてくれませんか?」
「えっ?トレバトで対戦…ですか?」
紗希はドーナツ片手にポカンとなる。
「実は渉から聞いたんです。僕との対戦中、紗希さんの動きが一瞬止まった理由を…」
「あ…れは、私が勝手に驚いて…」
紗希は気まずそうな顔をする。
「うん、だからもう一回対戦してほしいなと思って…ダメかな?」
「いえ…いいですよっ!やるからには負けませんけどね!」
「ありがとう、僕も全力を尽くすよ」
二人は店を出ると、交流会の時に使うゲームセンターまで歩く。
「オンラインのYOUとGUNで対戦してください」
「オンラインバトルですか…?」
「あのときの決着をちゃんとつけたいんです」
「分かりました…優斗さんに一敗をつけますよ」
「望むところです」
ゲームセンターは混んでいた。
4階にあがり、トレバトの空いている台を探す。端の一台がちょうど空いていたので、お互い対面に座った。
「紗希さんに対戦の申し込みをしました」
優斗は立ち上がって、紗希に話しかける。
「分かりました、フィールドはランダムにしますね」
紗希もゲーム機からひょこっと顔を出して伝える。
紗希は『トレバト3』を操作する。
『フィールドを選んでください』
ランダム、決定
『キャラクターを選んでください』
シャイニー、決定
ゲームはヒュンといって『Now Loading』が表示された。
YOUのシャークからムービーが流れる。
シャークは半漁人だが、スーツを着ている。テーブル席でコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。病院の中なのか背景が白い。新聞を読み終わると、横においてあった花束を持って個室へと入っていく。
続いてシャイニーのムービーが流れる。
シャイニーは、バスローブを着ながらクローゼットの前に立っている。ワンピースを着て耳に大きいイヤリングをする。ネックレスをつけてリップをつける。鏡に向かって強気に微笑むとジャケットをバサッと羽織ながら玄関へ向かう。ハイヒールを履いてドアを開ける。
『BATTLE START!!』
フィールドは教会だ。大聖堂は三階建てでクリスタルの窓がキレイに輝いている。
シャークとシャイニーは同時に走り出す。優斗は積極的に仕掛けてくるようだ。紗希はシャークの動きを確認しつつ、カメラを回し、視界に捉える。
バン!バン!
シャークには当たらなかったようだ。左上にある画面を見ると距離が遠くなっている。
(後方によけながらジャンプしたのね)
ヒュッヒュッ
シャークは、着地した瞬間に口から液体を吐き出しシャイニーに攻撃をした。
紗希と優斗のオンラインバトルを奈々と渉は観戦している。
「観戦の数がすごいですね」
チャットの方も盛り上がっている。
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(No.28)再戦 ☆☆ YOU vs GUN ☆☆
(No.29)またやってるよー、すげぇーよ
(No.30)同じチームでオンラインバトルするなんて仲悪いの?
(No.31)トラのマーチの不仲説あり
(No.32)GUNのリベンジじゃねーの?
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「広瀬先輩の攻撃もすごいけど、それをかわす紗希もすごいわ」
二人は同じ画面で観戦している。
「どちらが勝つと思いますか?」
「…賭ける?私は紗希に賭けるけど…」
ニヤリと笑う奈々に渉も頷く。
「この後のお茶代を賭けましょう。もちろん僕は優斗さんに賭けます」
「そうこなくっちゃー」
奈々も渉も興奮しながら観戦することになった。




