40_紗希の誕生日会①
12月22日――
今日は天気もよく朝から気持ちいい空気だ。
「おはよ~~」
いつものように元気いっぱいで紗希は奈々と大輔に挨拶した。
「おはよ、紗希…」
「はよっす」
奈々と大輔は元気がない。その様子に紗希は理解できない。
「どうしたの~二人とも暗いね…?」
三人は学校への道へと歩き出す。
「紗希は朝から元気ねー」
「うん、優斗さんからメールが来たの~」
それに反応したのは大輔だ。
「どんな内容なんだ…?」
「今日、少しだけど話しませんかって…」
キャァァ~とテンションが高い紗希だ。
「…良かったな」
大輔は複雑な表情を浮かべながらも嬉しそうではある。
奈々は昨日の一件のことで精神的に参っていた。
「奈々、どうしたの?」
「…あっ、ちょっと考えごと」
「そっか~」
紗希のテンションとは対照的に奈々と大輔は重い足取りで学校まで歩いていた。
キーンコーンカーンコーン
ホームルームが終わり、紗希は帰り支度をしていた。
「紗希、放課後は一緒に帰れるんだよね?」
「うん、大丈夫だよ~」
帰ろうか、と話していると、クラスの男子に紗希は呼ばれる。
「おーい、宮永。呼ばれてるぞー」
紗希も奈々も声がするほうに視線を向けた。
「やぁ…」
優斗は恥ずかしそうに手を振っている。
「優斗さんっ…?」
紗希は優斗が立っているドア付近に足早に近づく。
「…ど、どうしたんですか?」
「一緒に下校しようと思ったんだけど…騒ぎが大きくなっちゃって…」
紗希が廊下を見ると野次馬なのか、大勢の人だかりになっている。
「…広瀬先輩、学校のアイドルなんですから目立ちますよー」
奈々が優斗を茶化す。
「僕が…学校のアイドル…?」
「そうですよ。紗希のこと、よろしくお願いしまーす」
奈々は紗希の背中を押して送り出してくれた。
「楽しんできてねー」
うん、と返事して紗希は優斗と歩く。色々な人に見られて紗希は学校を出るまで下を向いて歩いていた。
優斗が女子といるのが珍しく、たちまち学校中が大騒ぎになった。
「おい、奈々…」
騒ぎを聞きつけて大輔がやってきた。
「なにかあったのか?」
「王子様が紗希のことを迎えに来たのよー」
奈々は教室の窓から紗希と優斗を見ていた。優斗は紗希のことをかばいながら歩いていく。
「なるほど…そういうことか…」
大輔は納得した。
「…私たちも帰る?」
「そうだな…」
昨日から二人の間には微妙な空気が漂っていた。
「なぁ、オレに気ぃ遣うことないから」
「…なにが?」
「紗希と奈々に彼氏ができて…オレが一人になっても…大丈夫ってこと…」
大輔は視線を外しながらそっけなく話す。
「そう…分かったわ…」
奈々は前を向く。大輔の顔なんて見れない。
「おうっ、渉っていい奴だし…良かったな…」
(なにそれ…大輔に言われるとかなり痛いわね…)
大輔は奈々を好きではない、紗希が好きなんだと改めて思い知らされる。
奈々は泣きそうになって、腕でサッと涙をぬぐった。
紗希と優斗はやっと学校の外に出ることができた。
「ごめん、あんなに騒ぎが大きくなると思わなくて…」
「…私は大丈夫ですけど、優斗さんのことを好きな子はショックでしょうね」
(ショックを受けている子がいたら教えてあげたいな…。私は優斗さんの友達でチームメンバーの一人ってだけ…想像するような関係じゃないよって言いたい…)
紗希が落ち込むのを見て、優斗は気が動転する。
「あの…今日のことで…他の子に何かされたら絶対言ってくださいね…?」
「あっ…はい、ありがとうございます」
優斗が心配してくれていることが紗希は嬉しかった。
今日は優斗の父親の伊織が退院する日だ。優斗はスーパーで買い物して帰ると言う。
「それじゃ私、買い物に付き合います。荷物持ちできます」
「ありがとう。あのさ…今日は紗希さんの誕生日って大輔君に聞いたんだ」
「大輔に…?」
「うん…だから父さんの退院祝いと紗希さんの誕生日会を一緒に僕の家で祝いたいんだけど…どうかな?」
「わ、私がお邪魔してもいいんですか?」
優斗は頷く。
「嬉しいです~!」
紗希はその場で飛び跳ねて喜んだ。
一方、退院した伊織は私服のままサガの本社に来ていた。
セキュリティゲートを通って、加奈の仕事部屋まで歩きノックした。
「どうぞ~」
部屋の主の声が聞こえてから伊織は部屋に入る。
「加奈…迷惑かけたな」
加奈は声に反応してすぐに振り返った。
「はっ…?伊織…?もう退院したの…?」
加奈は椅子から立ち上がって駆け寄る。
「あぁ、今日退院したんだ…」
「そう…良かったわ…」
加奈は安心した様子だ。
「あの…少し話せる?」
「えぇ、大丈夫よ」
加奈の了承を得て、伊織は部屋の中に入り、休憩用に使っているテーブル席に座る。加奈はコーヒーとお茶を用意した。
「今やってるシステムの設計書ってこれ…?」
伊織はテーブルに座りながら書類を見る。
「そうよ、ちなみに伊織が倒れていた分の仕事もやっておいたわ」
二人分のマグカップを置いて加奈も席に座る。カップからは湯気がたっている。
「そうか…面倒かけたな…。僕は本当に…自分が情けないよ」
「気にしてないわ。それに私は伊織が救急車で運ばれたって聞いた瞬間、死んだのかと思ったし~」
加奈の発言に伊織はお茶をこぼしそうになった。加奈は優雅にコーヒーを飲んでいる。
「…死なないよ、まだ死ねない。それより…こっちのは僕が引き受けるよ」
伊織は分厚い資料をパラパラめくっている。
「そんな大きいの一人でできるわけないでしょ?」
「そうかな。考え方によっては一人の方が効率が上がると思うけど…?」
ブツブツ考え始めた伊織に加奈は残念でした、と微笑む。
「今回の伊織の過労でプロジェクトマネージャーが上からキツク言われたらしいわよ~」
「そうか…それじゃあ、やらせてくれないかもな…」
伊織は別の資料をパラパラとめくる。
「…加奈、ここのテスト結果あやしいぞ」
伊織はテーブルの上にある付箋を使って、加奈に書類を渡す。
「あら…?確かに数字が合ってないかも…?」
コーヒーを飲んでいた加奈はマグをテーブルの上に置いて確認する。
「んー…ここの連結テストも合ってない気がする」
伊織はテーブルの上にあるペンを使って、怪しい数字を囲みながら加奈に見せる。そんなことをしていると理恵が入ってきた。
「加奈いる~?」
理恵は伊織の姿を見て目を丸くする。
「あらっ、伊織じゃない?今日から出勤…なわけないか…」
伊織は席から立ち上がる。
「理恵、ちょっと話したいことがあるんだけど…」
「なによ、突然」
理恵は書類を加奈に渡しながら伊織の話を聞く。
「調べて欲しいことがあるんだ」
伊織は優斗に書いてもらったメモを見せる。
「いいけど、年始からでもいい?」
「うん、平気。悪いな」
理恵は伊織からメモを受け取った。
「で、加奈はなにを難しい顔してんのよ?」
「伊織に指摘されたテスト結果を確認してるの」
加奈は書類から目を離さない。
「さっき見たらおかしいところがあってさ…」
伊織が理恵に説明すると、理恵は両手をあげる。
「ちょっと見ただけで分かるなんて嫌味よねー」
理恵が伊織を茶化す。
「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。優斗とご飯食べようって話してて…」
時計を見ながら確認する伊織に加奈と理恵が目を合わす。
「面白そうだから、私たちも行っちゃう?」
「そうね、楽しそう」
「あの…僕の家で快気祝いなんだけど……平気?」
慌てる伊織に、加奈と理恵は平気、平気、と笑う。
「それなら…いいけど…」




