38_トレバトのキャラ制作秘話
伊織がしばらく考えていると、病室が「ガラガラッ」と開く。
看護師さんかと思ったら優斗と紗希だった。
「あれ…父さん、起きたの?」
優斗が伊織に近づく。
「優斗と…宮永紗希ちゃん…だよね?」
「はいっ、覚えてくれてたんですか…?」
紗希も嬉しそうに伊織のベッドに近づく。
「もちろんだよ、あの時はありがとね」
ニコリと伊織は笑う。その姿が二十年後の優斗の姿のようで紗希はドキドキした。
(伊織さんって、素敵な人だな~)
優斗は椅子を用意しながら父親に説明する。
「あの日…トレジャーバトル4の制作発表会の日、紗希さんはトレバトの個人選で優勝したんだって」
「そうなの?すごいね、加奈の娘だね」
「えへへ~まぁ~。んっ?お母さんもトレバト強いんですか?」
紗希は伊織の言い方に疑問を持つ。
「あぁ、強いよ。加奈はシャイニーが得意なんだ」
「…シャイニー?」
「紗希さんもシャイニーをよく使うよね?」
優斗も会話に参加する。
「そうか。シャイニーは加奈が作ったキャラだから嬉しいだろうな」
「お母さんが作ったキャラ…?」
伊織の説明に驚く紗希だ。
「父さんは…?父さんはキャラを作ってないの?」
優斗の言葉に少し考える伊織だ。
「…そうだな…話すと長くなるんだけど…」
「大丈夫です、時間ならたっぷりあります…私も教えてほしいです…」
紗希が言うと「そうか」と言って伊織は昔話をした。
「僕たちが中学生のときに格闘ゲームが流行っていたんだ…」
聡史の家で加奈と理恵と伊織、四人で格闘ゲームをしていた。
『やっぱり格闘ゲームは面白いよなっ!!』
やんちゃな顔で聡史が言う。
『僕は将来、サガに入って格闘ゲームの開発がやりたいよ』
伊織は将来の話を切り出す。優斗と顔がそっくりである。
『伊織がやるなら私も絶対に同じところで働きたい!』
加奈は元気いっぱいだ。
『加奈は伊織を追いかけるのが好きよねー』
当時の理恵はヤンキーだった。
『別にいいでしょ、勉強だって頑張るもん』
ムッーとする加奈だ。
『勉強なら僕も少しは教えられるし一緒に頑張ろうよ』
伊織は加奈に笑いかける。
『…伊織は加奈に甘すぎるぞ』
幼い笑い声が響き渡る。
加奈がノートと鉛筆を持ってきて、いったんゲームを中止した。
『ねぇねぇ、もし格闘ゲームのキャラを作るなら、どんなキャラがいい?』
『そうねー。金持ちのマダムなんてどう?毛皮とか宝石とかつけて…』
理恵が鉛筆でノートに書き始める。
『武器は宝石か?』
聡史が笑いながらノートを見る。
『ナイフはどう?投げるところに装飾の宝石がキラキラって~ゴージャスなの』
加奈も話しに加わる。
『それ、ナイスアイディアー』
理恵はマダムを書いて、その横に武器や決めゼリフを書き込む。
『次は加奈が書いてみろよ』
理恵が書いた次のページに加奈は書き込む。
『私はジャニーちゃんが好きだから…ジャニーちゃんってキャラで…』
加奈はノートにジャニーを書き込んでいく。
『ジャニーって名前はダメなんじゃないか?』
伊織が言うと理恵も頷く。
『じゃあ、濁点を取ってシェニーは?』
『おかしいよ、聡史~』
聡史の意見は加奈が却下する。
『シャイニーなんてどう?』
伊織が提案する。
『いいんじゃない』
理恵が頷いて加奈も了承する。
『それで、けって~~』
加奈は今度、伊織にノートと鉛筆を渡す。
『僕は…王子様のキャラがいいな…』
伊織が鉛筆で書き出す。
『さすが、学校でも王子様って言われてるものね』
理恵が茶化す。
『爽やかプリンス…だっけ?』
『オレからしたらイジメみたいなあだ名だけどな…』
伊織のことを三人は茶化す。それでも伊織はひたすら鉛筆を動かして書く。
『ねぇ、伊織…。王子様を書いているのよね?』
『そうだよ、理恵』
ノートに描かれているのは王子という顔ではなかった。
『あっ!もしかして人間の王子様じゃなくて違う生き物の王子様ってこと?』
『違う生き物っていうか、魚人?』
聡史の意見に加奈も理恵も笑う。
『そんな変かなぁ、よしできた』
三人は一瞬沈黙したが、そのあと笑いの渦になる。完成の王子様は魚人の王子様だった。
『口のところ…なにこれー?』
『これはバラをくわえてるんだよ』
『これ、バラなの!?』
『バラじゃなくて水が出てるみたい』
魚人の王子様は口のところから何かが飛び出しているように見える。
『ちょっと貸せよ、伊織…』
そういって聡史が鉛筆を握ると魚人の王子様が改良されていく。
『半漁人の王子様って設定でさ、口から水吐くの』
『それが攻撃ってこと?』
『それ、サイコー』
加奈も理恵も笑う。伊織だけは笑えない状況だ。
『頑張って書いたのにヒドイよ~』
一同爆笑でキャラが作られた。
「そのキャラ設定が今のトレバト3なんですか?」
伊織は頷いた。
「全部というわけではないけど、あの時作った設定が生きてるね」
「そんなことがあったんだ…」
優斗も楽しそうに伊織の話を聞いていた。
「あぁ、シャークは僕が作ったようなものだな」
「…そうなんだ……」
「私…優斗さんとシャークで対戦しましたよね?」
「うん、そうだね。紗希さんがシャイニーで僕はシャークで対戦したね」
「へぇ~それは…嬉しいことを聞いたよ。シャークなんて誰も使わないキャラだからさ」
「確かに使われないキャラだよね。だけど僕はシャークが一番プレーしやすい」
「そうか…」
「うん」
親子の会話を邪魔しちゃいけない、と思い紗希は黙って聞いていた。
気がつくと面会終了のチャイムが流れる。
楽しく会話をしていたので、あっという間に紗希は感じた。
「帰りましょうか?」
優斗に言われ、紗希は頷く。
「優斗、退院の日が決まったらメールするから」
「うん、また来るよ」
紗希は深々とお辞儀する。
「今日は楽しかったです」
「もし良かったら、また優斗と一緒に来てください」
はい、と返事して伊織の病室から静かに出た。




