37_伊織の目覚め②
紗希たちは病室の外のファミレスで食事していた。
「伊織さんが目覚めてよかった~」
美味しくパフェを味わいながら紗希はつぶやく。
「そうね、過労で倒れたから会社からたくさんお金が入ってくるはずよ」
「おい、金の話はするなよ」
「そう?あれだけ仕事をするってことはお金以外に考えられないんだけど…?」
理恵はステーキを一口食べながら考える。
「お金…と言えば…優斗さんが言ってたんですけど…」
優斗の父親が借金を作り母親は出て行った、と紗希は告げる。
「…本当なの?」
加奈は食べていたサンドイッチから手を離した。
「うん…」
紗希も食べる手を止めて深刻な表情になる。
「うそでしょ…伊織が借金なんて…しかも美穂さんが出て行った?」
「美穂さんって…病気があるんじゃなかったっけ…?」
美穂というのは優斗の母親だ。加奈も理恵も面識がありショックを受けた。
プルルルー
加奈の携帯がなる。仕事用の電話のようだ。
「はい、えっ…なんで事前に気づかなかったの?待ってて、今行くから」
加奈は、携帯をしまってコートを羽織る。
「システムエラーでテスト中断。ありえない…ちょっと行って来る…」
「私も後で行くから戻ってこなくていいわよ」
「分かった、また連絡する。聡史も…今日会えて良かったわ」
加奈は慌てて出て行く。休日も仕事なんて大変だな、と母親を見送る。
「…お母さん、大丈夫かな?」
「加奈は優秀なシステム屋だから平気よ」
「修羅場を何度も経験済みだからな」
そうですか、と安心した。パフェを食べようと長いスプーンを手に取る。
「ねぇ、紗希ちゃん。さっきから気になってたんだけどさー」
理恵はニヤニヤしている。
「もしかして…伊織の息子と付き合ってたりする?」
「それ、俺も気になってた…」
「…えっ?いえ…付き合ってないですよ…。ただ私が一方的に好きってだけで…」
紗希はモジモジした。
「そうなの…?紗希ちゃんの片思い…?」
「…さすが…親子だなって感じるよ」
聡史がボソッと言うのを聞き逃さない紗希だ。
「あの…それって、どういう意味ですか…?」
「なっ、何でもないんだ。気にしないでくれ」
「気になりますよ~」
プーとなる紗希だ。聡史が慌ててる状況で理恵は助け舟を出した。
「紗希ちゃん、先に伊織のところに行っててくれる?」
「私は構わないですけど…」
「ごめんさいね。私、別件で聡史と話すことがあるの…後から行くから…」
紗希は立ち上がってコートとバッグを持つ。
「はい、分かりました。先に行ってますね~」
ごちそうさまでした、と深々お辞儀して、紗希はそのまま店を出て行った。
優斗は病室で椅子に座っていた。
どうやら伊織はまた眠りについてしまったようだ。優斗はもう落ち着いている。
「優斗さん、入ります…」
部屋をノックして紗希は伊織の病室に入る。
「…お父さんが目を覚まして良かったですね」
「うん、良かった…本当に…」
優斗は隣に座って下さい、とジェスチャーで紗希を促す。
「あの…優斗さんはお父さんに伝えたいこと…話せたんですか?」
コートを着たまま椅子に座る。
「まだだけど、すぐに退院できるみたいだから…そのときに話すよ」
「すぐに退院できるんですかっ?」
「うん、年内にはできるって言われた」
「良かったですね、優斗さんっ!!」
「ありがとう」
笑う優斗の目は赤かった。
「紗希さん、お腹すいてない?」
時計は15時を回っている。
ずっと病室にいた優斗は何も食べてないのだろうと紗希は思った。
「気分転換に外に出たいし…安心したらお腹すいちゃって…」
「はい…(今パフェ食べてきたけど)お腹すいてます…!」
二人は仲良く並んで病院を後にした。
ファミレスを出た理恵と聡史は病院への道すがら話をしていた。
「加奈が伊織を好きだったことは紗希ちゃんには秘密でしょー」
フーとため息をつく理恵だ。
「過去の話だし、今は京太郎さんと仲良しなんだから、話しても良かったんじゃないか?」
「まぁね。でも加奈は伊織を気にし過ぎるところがあるから…」
「昔からのクセで伊織に対して過剰に反応しちまうってことだろう?」
理恵はジロリと聡史を睨む
「あんたも昔から分かってないわよね、加奈のこと…」
「そ、そんなことないだろう…?」
「いいえ、分かってない、だから振られたのよ…」
ニヤリと笑う理恵に嫌な顔をする聡史だ。
「なっ、余計なお世話だ。離婚の原因はその口の悪さか?」
「私に喧嘩売るつもりー?いいわよ、望むところよ」
どうせ俺の負けだろう、聡史は首をふる。
理恵と聡史は伊織の病室の前に立つ。
ガラガラッ――
「…伊織、入るわよ~?」
部屋に入ると病室には誰もいなかった。
「優斗君も紗希ちゃんもいないな…」
「そうね…」
伊織は布団をかぶって寝ていたが、かすかに眉が動いた。
「…んッ…?」
伊織が目を覚ましたようだ。
「あらっ、お目覚めかしら~?」
理恵は手を振る。聡史も慌てて伊織の様子を伺う。
「伊織、具合はどうだ?」
「理恵…聡史…?」
伊織は二人を認識して、大丈夫だと頷く。
「…見舞いに来てくれたのか、悪いな」
理恵も聡史も椅子を持ってきてベッドの近くに座る。
「今は仕事のこと、全部忘れて休みなさいよ」
「でも…」
「退院したら加奈に文句言われるだろうけど、慣れてるでしょ?」
理恵がウインクする。
「…そうだな」
伊織は口元を緩める。
「なぁ、伊織…ちょっと聞いた話なんだけどさ…」
聡史が口を開く。
「伊織が借金作った。しかも美穂さんが出て行ったって優斗君が言ってたそうだけど…本当なのか?」
「優斗が…言ったって…?」
伊織は真剣な表情になって上体を起こした。
「どういうこと?詳しく説明して」
理恵と聡史は顔を見合わせる。
「今日ね、加奈の娘の紗希ちゃんが来たのよ…」
伊織はトレジャーバトル4の新作発表会のときに会ったことを思い出した。
「優斗君が紗希ちゃんに言ったんだって…それを教えてもらったの」
「…そうか」
「何かの誤解なのよね、伊織?」
伊織は少し考えて答える。
「…あぁ、誤解だ。優斗と話す必要がありそうだな」
「あんまり無茶すんなよ」
聡史は心配そうに伊織を見つめる。
「ありがとう、聡史」
「伊織と話せたし、これで心置きなく会社に戻れるわ」
理恵は立ち上がった。聡史も立つ。
「おれも帰るよ」
「ありがとう。加奈によろしく言っておいてくれ」
「任せてよ、上手く言っておくから」
じゃーね、と言って理恵と聡史は病室から出て行った。
二人が出て行ったあと、伊織は優斗のことを考えた。




