3_オンラインバトルとID名
葉桜になった休日の午後、越尾大輔の自宅兼ゲームセンター『GAME☆ユートピア』は客の入りも少なく暇そうである。
「紗希は…?またコンビニ…?」
モップを持ちながら大輔が奈々の座るテーブル席に近寄る。
「えぇ、広瀬先輩のマフラー持って、テンションエベレストで出かけて行ったわよ」
奈々は携帯の液晶パネルを操作しながら難しい顔をしている。
「奈々は…?何を読んでるだ?」
「んー…広瀬先輩の記事をちょっとね」
広瀬 優斗(17歳)
彼はただのモデルではない。一見爽やかに見えるが不思議とミステリアスなところがある。本性をじっくり引き出してみたい被写体だ。今後、ますますモデルの仕事が増えていくだろう。彼の魅力を最大限に活かして頑張ってもらいたい。
「なんだ、奈々も広瀬さんが気になってるのか?」
「うーん、ちょっとね……」
奈々と大輔が話しているところに紗希が帰ってくる。
「ただいま~今日も会えなかったよ…」
紗希は奈々の横に座る。手には紙袋を持っていた。中には優斗からもらったマフラーがしまってある。
「会えなかったか…」
「広瀬先輩、モデルの仕事で忙しいんじゃない?」
奈々と大輔が励ましてくれる。
「じゃがりん、全部あげるから元気だしなよ」
そう言うと奈々は立ち上がり大輔の父親に声をかける。
「聡史おじさーん、ちょっと話したいことがあるんですけど…」
奈々と聡史は楽しそうな雰囲気で話し合っている。聡史から見れば奈々も紗希も大輔と同じように我が子のように思っているところがある。
「奈々と親父、何話してんだ?」
「……なんだろうね。それよりさ、あと一回トレジャーバトルして遊んでもいい?」
「おぉ、いいぜ」
大輔からカギをもらう。紗希はいつもの指定場所に座り鍵を差し込む。
『トレジャーバトル3』 ※コインをいれてね!
Now Loading・・・
紗希はオンライン用のIDナンバーをセットする画面に移動する。
「ID名、『GAME・ユートピア(野日店)』っと」
すると大輔もテーブル席の椅子を持ってきて、背もたれを前にして座る。背もたれの場所にヒジをつく大輔だ。
「IDナンバー、記憶したのか?」
「うん、毎日打ち込んでるから覚えちゃった」
大輔にピースサインする。
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ トレジャーバトル掲示板
○ 対戦成績
『対戦バトル』を選んで『決定』ボタンを押すと、チカッとゲームの中央に表示される。
『あなたに対戦の申し込みが来ています 15件』
「…えっ?15件ってすごいな…」
「私、午後の4時から6時くらいまでオンライン対戦してるからさ…。その時間帯だけ申し込みが殺到するみたい」
紗希は操作をしながら答えた。
『HANA とバトルしますか? YES OR NO』
YES、決定
『フィールドを選んでください』
方向キーを動かして、決定
『キャラクターを選んでください』
シャイニー、決定
ゲームはヒュンといって『Now Loading』が表示され、すぐにムービーの画面に遷移した。
HANAは、ギャルのマリアにしたようだ。
マリアはクラブで踊っている。クラブから出ると男の子に囲まれるが、片目をつぶり指をチッチッチッと動かす。すると一台のオープンカーが止まりマリアは颯爽と助手席に座る。車が走り出して終わる。
続いてシャイニーのムービーが流れる。
シャイニーは、バスローブを着ながらクローゼットの前に立っている。ワンピースを着て耳に大きいイヤリングをする。ネックレスをつけてリップをつける。鏡に向かって強気に微笑むとジャケットをバサッと羽織ながら玄関へ向かう。ハイヒールを履いてドアを開ける。
『BATTLE START!!』
シャイニーとマリアは同時に走り出した。
今回のフィールドも工場跡地にした。
紗希がシャイニーを操作してると右側のチャットスペースも盛り上がり始めた。
「チャットがスゴイ盛り上がってんな…」
「うん、5月に入ってからチャットがスゴイ書き込まれてるんだけど…よっと…」
方向キーを駆使しカメラも180度回転した。そのまま相手がいるであろう場所に正確に進む。
「私、チャットってあんまり興味なくてさ…」
早くも紗希は相手に攻撃が命中した。
『 YOU WIN !! 』
文字がチカチカしている。
「もうチャットが30超えてるぞ」
大輔は、右側に表示されているチャットのナンバーを確認した。
「私の敵じゃないわね!」(シャイニー)
「負けちゃったけど、次はマリア負けないもん」(マリア)
シャイニーが画面に向かってカツカツ歩いてくる。アップになると笑顔でウインクする。そのままシャイニーは賑やかな夜の町に姿を消す。
「相変わらず瞬殺だよな…」
大輔が乾いた笑いをしながらゲーム画面を見る。
*************************************
YOU WIN !!
GAME・ユートピア(野日店) VS HANA
DATE 2008年5月16日
TIME 6:55
*あなたの成績*
GAME・ユートピア(野日店)((NON TEAM)) 103勝0敗
*************************************
「おぉ、100勝越えしたんかー」
スゲェーと言う大輔だった。
「なぁ、紗希…オレもオンラインバトルやりたくなっちゃってさ…」
「あっ、使う?交代するよ」
紗希はすぐに立ち上がって、大輔と場所を交代した。大輔は、一端オンラインを終了するボタンを押した。
「あの…実はさ、別のIDで登録したんだよ」
「ん?どういうこと?」
大輔はメニュー画面からオンラインに入り直した。紗希は大輔が座っていた椅子に座る。背もたれを左側にして座った。
「つまりオレ用のIDを作ったんだよ」
IDをセットする画面に移動する。ID名は『DAI』だ。
「『GAME・ユートピア(野日店)』のIDは紗希専用にしてくれ」
「えっ?そうなの…?大輔が作ったID取っちゃってごめん…」
「いいんだよ、店の宣伝にもなるしさ、使ってくれると嬉しい」
「分かった、ありがとう!」
紗希と大輔が話していると、奈々が来て、ゲーム画面を見る。
「楽しそうね、なにしてるの?」
「これからオンラインバトルやるんだよ」
「ねぇ、大輔…対戦の申し込みがない場合って、どうやってバトルするの?」
紗希は画面を見ながら大輔に聞く。
「『Anyone』のボタンを押すと自動的に対戦相手が決まるんだ」
大輔が操作すると『Now Loading』が表示され相手が決まる。
『セイラ とバトルしますか? YES OR NO』
YES、決定
『キャラクターを選んでください』
フリオ、決定
「フィールドは、自動的に決まるんだ」
大輔は紗希に説明する。
セイラはギャルのマリアにしたようだ。お互いのキャラのムービーが流れる。
『BATTLE START!!』
大輔がフリオを操作する。
フィールドはジャングルだった。木々が連なっており、明るい所と暗いところがある。沼がある場所もあり、枝に乗って攻撃することもできるフィールドだ。
「…あれ、セイラって名前…どこかで聞いたことあるような…?」
奈々がつぶやいた。
「奈々、知ってるの?」
画面のチャットが忙しく動く。奈々は身を乗り出してチャットを読む。
(No.8)DAIってやつと対戦してるぜ
(No.9)セイラのこと知らねーのかよ?
(No.10)なんのこと?
(No.11)見てれば分かるさ
(No.12)ザ・自爆・プレイヤー
「そうよ、自爆よ、自爆!相手に近づいて手榴弾を投げてくるのよ」
マリアの攻撃は手榴弾だ。
近くにいても遠くにいても相手に投げて攻撃することができる。
奈々が説明していると、ゲーム画面が激しいバトルになっていた。
マリアは手榴弾を投げて攻撃を仕掛ける。ジャンプ力はないが、走りは遅くない。
マリアの攻撃は連続した攻撃ができないのが難点だが、手榴弾が爆発するときに近くにいると体力ケージが削られることがある。手榴弾が投げられたら注意しなくてはならない。
フリオはオールマイティなキャラだ。命中率は高いが、相手と距離が近すぎると命中率が落ちる。ジャンプや走りは悪くない。
フリオが隠れている木の上をめがけてセイラが手榴弾を飛ばす。
「大輔、上よっ!」
奈々が相手の位置を確認しながらアドバイスする。手榴弾は弧を描きながら大輔がいる周辺に手榴弾を次々と飛ばす。
ドォンッ!
爆撃に遭い、フリオが倒れる。
バタッ…
体力ケージが3分の2になる。
体力ケージがなくなると、自動的に負けとなる。
すぐにフリオは立ち上がる。だが、マリアがフリオに近づき手榴弾を乱発する。まるで特攻して自殺するようなプレースタイルだ。
フリオは倒れるが手榴弾の爆風に遭いマリアも倒れる。
キャラクターの中でマリアは起き上がるのが早い方だ。フリオが起き上がる前にマリアは手榴弾をフリオにぶつけて二人とも倒れる。
「…なんだよ、コイツ!?」
「ほんと…意味わかんない…」
紗希も呆然と見ていた。
大輔が焦っているうちに負けてしまい、画面が切り替わる。
「わーい、マリアが勝っちゃった!」(マリア)
「負けたよ、また鍛錬に励むさ…」(フリオ)
マリアは投げキッスをして、オープンカーの助手席に座る。
『 YOU LOSE !!』
文字がチカチカしている。大輔は体力ケージがなくなって負けてしまった。
「…ちょっとムカムカするな」
*************************************
YOU LOSE !!
DAI VS セイラ
DATE 2008年5月16日
TIME 22:04
*あなたの成績*
DAI((NON TEAM)) 5勝4敗
*************************************
「嫌な感じだね…このセイラって人…」
奈々は考え事をして腕組みしているが、紗希はムカムカしていた。
「お~い、そろそろ19時だぞー」
タバコを吸いながら聡史がやってくる。
「大輔、二人を送って来い!」
「大丈夫ですよ、聡史おじさん」
紗希が言うと、奈々も続く。
「そうそう、おやすみなさい」
紗希と奈々は手を振ってゲームセンターを後にした。
「あいつら最近、何か変だよな…?」
「……お前さー」
フーとタバコを吹きながら聡史は呆れる顔をする。
「何だよ…?」
「…あんな可愛い子たちの前で負けるなんてダセーと思っただけ」
聡史はカウンターに戻っていく。
「うっさいな…別にいいだろう…」
赤くなって怒る大輔だった。