28_GUNの正体③
10月の第二日曜日、紗希と奈々と大輔は新宿西のゲームセンターの前にいた。
「ついに到着したね…」
ビル全体がゲームセンターという建物の前で三人が立ち止まっている。
「…何かされたらすぐ言えよ」
「大丈夫だよ、真一さんやお兄ちゃんもいるし」
「肝心のリーダーが曲者かもねー」
「芸能人っていうリーダーな…」
エレベーターに乗り込む三人だ。4階のボタンを押す。
「緊張してきた…」
「大丈夫よ、深呼吸して」
紗希はスーハーとエレベーターの中で深呼吸をしていた。
チンッ
エレベーターが4階に到着し、扉が開くと目の前に真一と渉がいた。
「あっ、真一さん、渉君…」
エレベーターの中から紗希たちは出た。
「やっぱり紗希さんだったんですね」
「薄々は気づいていたけどな」
「はい…私がGUNです。黙っていて、すみませんでした」
頭を下げる紗希に対して、渉も真一も怒っているわけではない。
「謝らないでください」
「あぁ、俺は紗希にリベンジできればそれでいいんだ」
渉と真一が案内すると言うので、紗希たちはついて行く。
一列に歩いているとゲームセンターの中に仕切りがされている場所があった。
仕切りの外には追っかけと呼ばれる人がたくさんいる。ザワザワと賑やかであった。
「よっ、来たな~」
俊介が仕切りを開けてくれる。その行動に真一は驚いた。
「俊介…紗希がGUNだって知ってたのかよ…?」
「えっ…うん…でも最近知ったから…」
慌てながらウソをつく俊介だったが真一はそうか、と納得したようだ。
「…あなたが『GAME・ユートピア・(野日店)』ですか?」
仕切りの中に入るとチームマネジャーの小林が紗希に尋ねる。
「はい、私です。後ろの二人は付き添いで来てもらいました」
奈々と大輔は小林に会釈する。
「念のためにGUNのIDを教えていただけますか?」
小林がパソコンを開いて打ち込む。
「えっと、ID番号は……メールアドレスが……です」
「分かりました。確認が取れました」
紗希と小林が話している中、カツカツとギャル服に身を包む女性メンバーが歩いてくる。
「この子がGUNなの…?」
小林に言っているのか紗希に言っているのか分からない距離で環は腰に手をあてる。
「信じらんない…本当にあなたがGUNなの?」
「おい、環…からむのはやめろ」
「別にからんでないわよ!」
紗希は環の口調より恰好が気になってしまった。
(何でこの人、秋なのにミニスカで半袖でヘソ出し?)
寒くないのかな、とポカーンとしていると環が腰に手を当ててビシッと明言する。
「私は戸矢崎環、トラのマーチが発足した時からのメンバーよ」
「は、はぁ…私は宮永紗希です」
環は上から下から紗希をジロジロ値踏みするように見る。ギャル系のお姉さんに見られて恐怖する紗希だ。
「ねぇ、あなた。本当に実力で勝ってたの?」
「へっ?まぁ…そうですね?」
「なんで疑問形なのよ」
気の抜けた返事をする紗希に環はムッとする。
「おい…そのぐらいでやめておけ」
間に割って入る小林だ。
「匡宏は黙ってて。あなた、私と一回勝負しない?」
「トレジャーバトルですか?いいですけど…」
なんとなく紗希は小林の顔色をうかがう。
「…リーダーが到着してないから…大丈夫かな…?」
小林は無表情を装っているが、実は成り行きに興味をそそられていた。
紗希と環が対面のアーケードに座る。その様子を見ていた渉が紗希の後ろに回る。
「どうしたんですか…?対戦ですか?」
「うん…勝負することになっちゃって…」
渉に続いて俊介、真一、奈々、大輔も近くにやってきた。
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『トレジャーバトル3』 ※コインをいれてね!
Now Loading・・・
『トレジャーバトル3』
○ 対戦バトル
○ ストーリーバトル
○ オンラインへ
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『対戦バトル』、決定を押す。
「フィールドはランダムにするわよ」
「はい…」
紗希の後ろでは俊介と真一が話している。
「環と勝負したってすぐに紗希の勝ちだぞ…?」
「あの人、そんなに弱いのか~?」
「弱いってもんじゃない…」
ハァー、とため息を吐く真一だった。
ゲームはヒュンといって『Now Loading』が表示された。
環は、ギャルのマリアにしたようだ。
マリアはクラブで踊っている。クラブから出ると男の子に囲まれるが、片目をつぶり、指をチッチッチッと動かす。すると一台のオープンカーが止まりマリアは颯爽と助手席に乗り込む。車が走り出して終わる。
続いてシャイニーのムービーが流れる。
『BATTLE START!!』
フィールドは大都市だ。
マリアとシャイニーは走り出す。シャイニーのほうは軽やかにジャンプをし、最短距離でマリアに近づく。
マリアは近づいてくるシャイニーに警戒し、早くも攻撃態勢に入る。
先に攻撃を仕掛けたのはマリアだ。ビルとビルの間から手榴弾を投げるが当たらなかったが、お構いなく続ける。
バン、バン、バン、バン、バン、バン
マリアはクルクルと回転しながらダッシュするシャイニーを完全に見失っており攻撃が検討違いのほうへと投げ込まれる。
シャイニーは建物の上に着地し狙い撃ちする。
バンッ!
バタッ…
ムービーが始まる。
宝箱が開きシャイニーは宝を取り出す。
「私の敵じゃないわね!」(シャイニー)
「負けちゃったけど、次はマリア負けないもん」(マリア)
『 YOU WIN !! 』
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YOU WIN !!
シャイニー VS マリア
DATE 2008年10月9日
TIME 4:13
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環のあまりの弱さに紗希は戸惑った。
「…一回勝ったからっていい気にならないでよね!」
フンッと言って環はどこかへ行ってしまった。
「お疲れ、戸矢崎さんのことはあまり気にするなよ」
「あっ…お兄ちゃん、見てたんだ…?」
「俺たちも見てたぜ」
「やっぱり強いですね~。動きが違います」
対戦を見終えた小林は4階のエレベーター前に移動する。リーダーの優斗がそろそろ来るだろう、と予想し待つことにしたのだ。
「…あれ…小林さん?」
予想通りすぐに優斗が姿を見せる。
「お疲れ…仕事が長引いたんだろ?」
「はい…また遅れちゃって…すみません…」
「大丈夫だよ。GUNはもう来てる。しかも優斗が来る前に環とも勝負してた」
「環さんとですか…?」
「あぁ、決着が着くのが早かった」
「…でしょうね」
苦笑する優斗だ。
優斗はトレジャーバトルのアーケードへ進む。渉が最初に気がついた。
「優斗さん、遅かったですね」
奈々と大輔も振り返る。
「えっ…広瀬じゃん?」
「広瀬先輩!?」
奈々と大輔が優斗を見ながら唖然としているが、優斗は二人の姿が目に入らない。真一は優斗の姿を確認すると紗希の前を譲る。
優斗は会釈して、GUNに話し掛ける。
「遅くなりました、僕がトラの…」
優斗はそこで止まってしまった。
(あれっ…?なんで紗希さんがここに…?)
台に座っているのがGUNだと思ったら紗希だった。紗希も台から立ち上がると目の前に優斗がいて驚いた。
「あれ、優斗さん。どうして優斗さんがここに…?」
「なんだよ、紗希。知ってたのかよ?優斗がトラのマーチのリーダーだぜ?」
紗希の隣に立っている真一が告げる。
「えっ…?優斗さんがリーダー?トラのマーチの?」
それまで笑っていた紗希は顔が固まってしまった。
「そうですよ、紗希さん」
渉が念を押す。
優斗のほうも愕然としていた。
「紗希さんが…GUN…だったんですか?」
「優斗さんが…トラのマーチの…リーダー?」
(紗希さんがGUN…?)
(優斗さんがリーダー…?)
お互いが相手を見つめたまま動かなくなってしまった。
「おい、優斗…大丈夫かよ?」
不思議に思った真一は優斗の肩を叩く。
「あっ、はい、いや、ちょっと……」
優斗は完全に取り乱し、クルッと後ろを向くとそのまま歩き出そうとした。
「ま、待ってください、優斗さん!」
紗希が優斗を引き止める。
「優斗さんが…トラのマーチがやろうとしている活動を止めに来たんです!」
「活動を止めに…?」
「はい…オンラインバトルして勝ったら負けた人のIDを削除するなんて…本気で言ってるんですか?」
「どうして…それを…」
まだチームメンバーには話していない。話したのは真一、渉、俊介だけだった。
周りにいる奈々たちは静かに見守っている。
「何でそんなことするんですか?」
「…それは言えないけど」
紗希はゲームセンターで優斗がトレバトを好きじゃない、と言っていたことを思い出した。
「もしかして…トレジャーバトルがキライだからですか?そんなの理由になりませんよ」
「…僕には」
優斗は拳をギュッと強く握った。
「僕には、理由になるんです」
「えっ…?その理由って何ですか…?」
静かに問いかける。
紗希は辛かった。どうして自分の好きな人がこんなことをしようとしているのか分からない。
「ヒドイですよ…IDを削除するなんて…あんまりですよ…」
「…悪いけどチームの活動はリーダーの僕が決めることだから…」
優斗の表情も辛そうだが、声はハッキリしている。
「なっ…本気で言ってるんですか?優斗さんは本気でこんな馬鹿なことをしようとしてるんですか?」
「何度も言うようだけど、チームの方針はリーダーの僕が決めるこ…」
「嫌ですッ!!チームに入っても対戦はしません。私はトレジャーバトルが好きなんです!
みんなで対戦すると盛り上がるしドキドキするし…優斗さんも同じ気持ちじゃないんですか?」
「紗希さんの意見は分かりました。ですが色々と考えて決めたことなんです。紗希さんにもこのルールで活動してもらいます…」
「どうして…?どうしてですか、優斗さん…!」
紗希の問いには答えず、優斗は向きを変えて出口へ歩き出してしまった。小林は優斗の後を追いかける。
取り残された紗希は立ちつくしていた。
「紗希…」
奈々が紗希の隣に移動した。大輔たち男性陣は状況を見守っている。
「奈々…どうしてトラのマーチのリーダーが優斗さんなの?」
「……」
「なんで私の好きな人がヒドイことをしようとするの?」
「紗希…」
ポロポロと涙が下へ落ちていく。
「許せないのに…絶対に許したくないって思うのに…その相手が優斗さんだなんて…」
耐え切れなくなって紗希は奈々に抱きついた。
「こんなのってないよ。私…どうすればいいの、奈々…!」
ワーと泣き出してしまう紗希だった。
紗希はその日、まっすぐ家に帰らず公園のベンチに座っていた。
やる気のない顔をしたブタのストラップを見つめながら考え込んでしまう。
日が沈みかけ、影が長くなっている。その影を誰かが思いっきり踏みこんだ。
「恋はまことに影走者、いくら追っても逃げていく…」
顔を上げると兄の姿があった。
「こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく…」
反応できずにいる妹に兄は手を差し伸べる。
「父さんが心配する…もう帰ろう…」
「……」
長い沈黙が続いた。
「…立て、立つんだ、紗希~!!」
「……もうぅ…うるさいなぁ……」
紗希が立ち上がると俊介はくるりと前を向き歩き出す。
「よしっ、少し遠回りして帰ろう」
「…なんで?」
紗希は兄の後ろを歩く。
「だってその顔見たら父さんもっと心配すると思うからさ~」
「……」
「駅前でたい焼き買って帰るか~?たこ焼きでもいいぞ~」
紗希は顔を上げる。オレンジ色の夕焼けがキレイだった。
「……心配といえばさ、ちゃんと奈々ちゃんや大輔君にも感謝を伝えろよ」
「……うん…」
町並みを染め上げる夕焼けに目を細めて頷いた。
「お兄ちゃん…ありがとう…」
「う~ん、聞こえないなぁ~~もっと大きな声で~」
「もぅ~~~聞こえたでしょ~」




